同盟暦512年・旅立ち、ロブホーク編3
「ん?なんかあったのか?」
屋敷から出てきたレオリックスは逃げていく少年達の後ろ姿を見た。
「からまれただけだよ」
「からまれた?……からまれた…ねぇ?」
レオリックスの意味深な視線にポーは首を傾げた。
「いや、なんでもねえ」
「高台にある家を使っていいってよ。その前にシデの婆さんに顔を見せにいくか」
レオリックスは手綱を握り馬車を歩かせる。
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村外れの川の側に小さな小屋。
水車が回っている。
ちらほらと降る雪の中、分厚い毛皮のコートを着込んだ老婆が庭に立っていた。
馬車を止め、レオリックスが老婆に歩み寄った。
「久しぶり。シデの婆さん」
「死ね」
レオリックスが話しかけるなりシデは罵倒した。
「なんでだよ!俺だよ!レオリックスだよ!忘れたのか?」
「あぁ?ガキィのツラなんぞ覚えんわぁ」
家の庭、雪降る庭石に腰掛けシデは酒を飲む。
「ばばあわは干し鮭が食いたいからぁ買ってこぉい」
「酔っ払ってんのかよ…」
シデはグイグイと酒瓶を飲み、口からこぼれた液体を腕で拭う。
「んん?んんん?なんだぁ?レオか?なんでここにいるんだい?」
レオリックスを見て馬車を見て、シデは顔をしかめた。
「紋章は削っときな。身分がバレるよ」
「さすが。目ざといな」
「あなたがシデ・ペネンヘリ殿ですか」
「だとしたらなんだい?この婆を殺したいのかい?レオの坊やがいるからそれはないかい」
「僕はポー・アラン・フェニックス。あなたに学びたく参りました」
ポーの挨拶にシデはふんと鼻を鳴らした。
「婆は弟子も教え子も取る気はないね。とっととママんとこに帰りな」
「おい婆さん!」
シデは立ち上がって家に入ると乱暴に扉を閉めた。
「会わないうちに捻くれた性格がさらに捻くれやがった」
「いいさ。また来るよ。とりあえず挨拶はしたし、借りた家に行こう」
馬車を走らせる。
ちらりとポーが振り返ると、シデが窓から様子を伺っていた。
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シデの家から少し離れた丘に建つ空き家は年月を経た古さはあれど住むには問題なかった。
五人は家の中に入り、まず火を焚き、室内を温める。
その間にポーとレオリックス、クーリーが馬車から荷物を運び入れ、アーネストは鍋や串を用意して食事の準備を始める。
「…………わた………くし………」
「お嬢様は休んでいて下さい。すぐに食事を作っちゃいますから!」
手伝おうとしたベアトリスだったが、アーネストは気づかずに一人で手際よく料理を作り始める。
ベアトリスは黙って部屋の端に大人しく座る。
「アーネスト、これって串に刺すの?」
「ん?そうよ。漬け込んだ干し魚だから柔らかいし、あぶり焼きにすると美味しいのよ」
壺の中につけ込まれた小ぶりのメナイア(アイナメに似た魚)が漬け込まれている。
シデの家に行く途中、アーネストが購入したものだ。
「やっておくよ」
「ありがと!」
ポーは壺と串を持ちベアトリスの隣に座ると、
「お嬢様、手伝って下さい。こうやって、壺から魚を取り出して、串をこうして通して…」
「ちょっとポー!ひめ…じゃなくてお嬢様に手伝わせてどうするのよ!」
「手分けして作業した方が早いだろ?」
「だからって!」
「……わ、わたくし…やります……」
「で、でも…!」
尚反対するアーネストだったが、ベアトリスに見つめられ、それ以上言えなくなる。
「……わかりました。ポーを手伝ってあげて下さい」
「ありがとう。アーネスト」
「ポー」
「ん?」
「怪我させたら殴るからね」
アーネストの真剣な顔にポーは背筋に寒気を感じて頷いた。




