同盟暦512年・旅立ち、ロブホーク編2
「着いたぜ」
「ここがロブホーク」
小さな町というより小さな寒村だ。
ポーとレオリックスは御者台に座り馬車を操り、村の中を進む。
通りを進むと村人達がちらりと一瞥し、よそ者と分かるとそれで十分とばかりに関心を無くした。
「歓迎されてないみたいね」
「よそ者なんて最初はそんなもんだ。都会とは違う」
御者台に顔を出したアーネストが口を尖らせる。
「まぁしばらく滞在するからな。友好的に接してれば友人になれるさ」
「そうなればいいけど」
「……青い屋根?」
ポーは家の屋根を見て呟いた。
「珍しいだろ?」
「うん。北の屋根は大抵、赤色だ。雪が積もらないように"火の恵み"の呪いを掛けた赤い屋根なのに」
「ねぇ、そんなことより宿はどこなの。ひめ…じゃなくてお嬢様を休ませたいの」
「宿はない。だから空き家を借りる。そのために長老と話す」
ポーは馬車の中を見た。
厚い外套を頭から被ったベアトリスとクーリーが話している。
時折、ベアトリスが微笑みをこぼす。
ポーは安堵した。
「ここだ。ここが長老の屋敷だ」
馬車を止め、レオリックスは御者台からおりる。
「待ってろ。話してくる」
そう言ってレオリックスは屋敷に入っていった。
「あいつ謎の人脈もってるのね」
「だね」
「ねぇポー。この前の話し、考えてくれた?」
「稽古の相手だよね」
「あたしも姫様を守らなくちゃいけない。だから一から剣の稽古をしたいの」
アーネストは剣を握るのは初めてではない。
今でこそベアトリス専属の侍女だが、子供の頃は本気で騎士を目指してポーと共に剣の稽古をしていた。
「でも、ベアトリスの側を離れる訳にはいかないだろう。僕やレオリックスは世話をするのはできない。クーリーは遊び相手なら務まる。でも世話はできない。となるとアーネストしかいない」
「お世話はちゃんとやるわよ。誰にも任せられない」
「休む暇がないよ」
「平気よ」
アーネストがポーの耳元に顔を寄せた。
「……ねぇ。さっきからあたしたちを見てる連中がいる」
「うん。あそこの少年達だろう?」
家と家の隙間から見ている少年達がいた。
ポー達を睨んでいた。
すると少年達がポーの方に歩いてくる。
「アーネスト、中に入って。クーリーを呼んで」
「わかった」
ポーは御者台から下りると、少年達に近付いた。
「おい、長老に何のようだよ」
「挨拶しにきたんだ。それにしばらく滞在するから、家を貸してくれるよう相談を」
「出てけ。この村はよそ者なんかいらない」
少年がナイフを握り締めた。
ナイフで切りつけようとする少年。
ポーは躱すと剣を抜き、ナイフを叩いて手から落とす。そして剣先を若者の喉に突きつけた。
「まだ続けるかい?」
「ひ、ひい……」
怯える若者を尻目に、ポーは柄を握りとどめを刺そうとして腕をベアトリスに掴まれた。
ベアトリスは顔を隠しているので表情は分からない。
「…………」
フルフルと首を横に振るベアトリスにポーは心を落ち着かせて剣を引いた。
「行くんだ」
少年達は怯んだ顔ではなく敵意の目で睨むと、走り去った。




