生まれたら人間じゃなかった 2
竜になった!と気づいた時、竜の記憶が頭に流れ込んできた。
「まじかまじかまじかまじかまじかまじか〜!」
体がぶるりと震える。
記憶が流れ込んでくると同時に竜の記憶を高速で追体験をさせられることになったのだが。
「ほんとごめんマジ竜さん」
竜さんから見た私は最初から異常だった。
私だけが自主的にフラワーロックのように動いていた。
私は時々声に出して喋っていた。
竜さんは、そんな私を興味深く見ていた。
種はやはり種で合っていたようだが、竜さんの口に入ってからが地面に埋まってしまいたい位ひどかった。
歯にはまった私の声は、竜さんの骨を伝い竜さんの耳に届いていた。哀れ、竜さん。私の独り言や歌声を散々聞かされる羽目に陥っていたのだ。
しっかりはまりにハマった私は、飲もうが食べようがまったく外れることがなく、舌を使って外そうともしたようだがそれもうまくいくことがなく。
そんな竜さんは、だんだん深く眠れなくなり、食欲も少しずつだが落ちていき。幸い竜さんは空気中からも栄養取れると言う機能を持っており体だけは衰弱することがなく過ごせていた。
ところが、ついには私が根を張ってしまい。
この根というものも、物理的なものだけではなく神経を通して精神を支配してしまったようであり。
結果的に心がまいり精神がどんどん弱ってしまって私に支配されてしまった。……そういうことであったのだ。チーン。
「ごめんね竜さん乗っ取っちゃって」
ホラーだわ。そりゃ弱るわ。おかしくなるわけだ。追体験だけでノイローゼになりそうだった。
というわけで私は竜になった。
食料はここにあふれている。とりあえず食うに困らない。と言うか空気中から摂取できる時点で困ることがまずない。空腹知らずだ!うん大変喜ばしい。ラッキーである。
今更だが、竜なんだよね?仲間はいるんだろうか。
仲間が大変気になるところであるが、ここはやっぱり人型に挑戦してみたい。いろいろやってみて不自由なく動けるようにもなったが、絶対人間の形の方がしっくりくる自信がある。元人間だしね。
なんてったってこのでかさがなんとなく嫌だ。必要に迫られなければ人型でありたい。
世界を探しても人間がいないのであれば諦めて竜の形で過ごしてもいいかなとは思うが、探せば案外いるのではないかと勝手に思っている。
そして。
人型になれた!
イメージしたのがやっぱり生前の自分の姿だったため、それに近しい姿もしくは同じ姿になったのではないかと思う。
ただちょっと困ったのが、七色の花ばかり食していたせいか爪がマニキュアをしたかのようにカラフルなのである。当然足の爪もペディキュアをしたかのようなカラフルな爪。
パステルカラーであるためにどぎつくないのが救いだ。でも一本一本すべて色が違う。キラキラ感まである。いや真珠のようなツヤ感?これを隠すためにネイルエナメルが必要になりそうだ。無駄に人の印象に残りそうでちょっと嫌である。
ひょっとしてこれも塗らなくても隠せる?
何か色々試した結果どうやらこの世界には魔法があるらしいことが分かった。多分魔法だと思う。自分の姿が変えられたのだから他にも色々できるのではないかと試してみた結果……
空を飛べた!ただこれは竜だからなのかもしれない。
お風呂に入らなくても気持ち悪くない!
いやこれも竜だからなのかもしれない!
口から火が出せた!いや、やっぱりこれも竜だからなのかもしれない。いやいや、これは間違いなく竜だからだろう。
地球時代の人間の時よりも身体能力が著しく高い!いや、やっぱりこれもまた竜だからなのかもしれない。
竜さんの記憶と合わせた総合的な結果、私は竜だから竜ができそうなことはできる。以上。
結局わかったことは、竜の身体能力についてだと言えるだろう。だって竜さん、竜生?をここで送っているのだもの。意外と世間知らずでびっくり。
言い方を変えてしまえばこの世界のことは何も分からずじまいであるということである。
唯一自信を持って言えることは、七色の花には特別な力があって、種はエネルギーがぎゅっと凝縮されたものであるということが分かった。
今も奥歯に挟まった種は取れていない。体が人間サイズになっても奥歯にはやはり種は挟まったままである。正直言って今更これが取れることの方が怖いと思っている。
多分取れることはないとは思うが。神経だけでなく物理的にも根を張っっているという感触があるから。そして発芽する気配は全くない。かなり安心。
結局わからないことだらけの私は一応念のために花を摘み、空間の鞄にしまいこの地から旅立つことを決めた。
空間の鞄が使えたということからも、やはり魔法があるということなのではないかと推測する。
竜さんと言葉が通じなかったからもしかしたら現地人に会っても言葉を交わすことができないかもしれないという不安がある。
「でももうここにいるのは飽きた。ひとりぼっちは嫌だ」
こうして私は世間知らずのままこの地を離れることにした。
私は気づかなかったが、離れた場所からいつでも私を見守ってくれていた存在がいることを後で知ることになる。
◇
私はここで生まれた。花達のエネルギーは膨大でそしてまたこの花が生えているこの大地のエネルギーも尋常でなく。戦いに敗れたのか、はたまた、ただ単に静かな地を求めたのか、それとも子育てをするに絶好の場所だと考えたのか。どのような理由があったのかはわからないが私の両親はここで卵をかえすことに決めていたようである。
加えて、どのような理由があって卵だけを置いていなくなったのか死んでしまったのかかは分からない。卵である私だけがここに残されることになった。
そんな様々な要因が合わさって私はここでたった一匹静かに生まれ花たちに囲まれ過ごしてきた。
竜の仲間こそいないが小さな生き物たちの声を聞きながら話をしながら長い長い時間を生きてきた。
とても穏やかで静かで暖かく平和であった。
この地に住む小さな生き物は私よりは弱いがみんな強いらしいということをその者達に教えられた。
実際ここに住む者たちの種類が変わることはなく、世代交代が繰り返されながら決まった顔ぶれだった。
ある日突然強烈な光が現れた。その光は太陽でもなく空中に漂う魔素と呼ばれるエネルギーでもなく、私には理解できないものであった。
その光はふよふよとひとつの花の上に落ちた。花を枯らすこともなくゆっくりゆっくり吸い込まれていくさまを私は観察し続けた。
この地に何か起きたら私が対応しなければならないからだ。
数日かけて少しずつ吸い込まれていった光はその花以外に影響を与えることはなかった。
花は風もないのに揺れていた。
他の花から意思を感じ取ることはなかったが、その花からだけは何かを感じた。言語で意思疎通を図ることはできなかった。
風変わりな花はやはり植物で、植物とは会話はできなかった。残念。
その花が音を出した。その音は節を刻む。小さな生き物がそれは何かを奏でているのではないかと教えてくれた。
私の世界に新たな光景が加わったのだった。
変化が訪れた。
花のエネルギーの流れが変わった。
力の凝縮が起きている。次代へ繋ぐ種への変化だった。
小さな生き物達が自らの進化の為にその種を奪う為に牽制し始めた。穏やかな日常が崩れるのを恐れた私は完成するとすぐに口に入れた。
もし小さな生き物が口に入れたら進化ではなく、力に耐えきれず崩壊してしまっただろう。私の姿を見てそれを感じ取ってくれたようだあった。
歯に挟まった。気になるが取れない。
種になっても音を出してきた。ほんの最初だけは少し楽しかったのも否めない。
が、昼夜問わず!だ。昼夜問わず、問答無用のこの仕打ち!!
私は小さい生き物との平和を守りたかっただけなのに。
ああ、なんてことだろう。
「お願い!静かにして!!」
私の叫びは届かない。
体中に響く。
ああ、みんな心配している。
私が死したらこの地にどの様な変化が訪れるだろう。
脳がかき回される。骨がずっと震える。目玉がぐるりと回るような錯覚を覚える。
もう動けない。瞼も持ち上げられない。
そうして私は消えることを選んだ。
お読み下さりありがとうございます。