↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/70

第1章 第2話 無料3連ガチャ

 皇牙が目の前に浮かぶ黄金色のボタンを押した瞬間、数メートル先の地面に巨大な魔法陣が出現した。

 

 複雑な幾何学模様が白い光を放ちながら回転し、円の中心から眩い光の柱が立ち上る。乾いた砂が風に巻き上げられ、足元にまで微かな振動が伝わってきた。

 

「うおっ! すげえ! 召喚演出まであるのかよ!」

 

 昨夜まで遊んでいた歴史戦略ゲームでも、派手な召喚演出は何度となく見てきた。しかし、現実で目の当たりにすると迫力がまるで違う。思わず身を乗り出した皇牙の前で、光の中心に人影が浮かび上がった。

 

 やがて魔法陣が消え、そこに一人の男性が姿を現した。

 

 年齢は四十代ほどだろうか。日に焼けた顔に、がっしりとした体格。粗末な麻の服を着ており、大きな手には長年の労働でできたらしい硬い部分があった。

 

【召喚結果:N・農民】

 

「……農民か」

 

 皇牙は少しだけ肩を落とした。

 

 もちろん、Nの排出率が七十五パーセントであることは理解している。それでも、初回から諸葛亮や織田信長を引き当てる展開を期待してしまうのが、ガチャ好きというものだった。

 

 そんな皇牙の気持ちなど知らず、男性は周囲を見渡したあと、丁寧に頭を下げた。

 

「お呼びいただき、ありがとうございます。私はマルクと申します。農作業でしたら、どうぞお任せください」

 

「あ、ああ。よろしく……って、本当に人間が出てきたんだな」

 

 皇牙は思わず男性をまじまじと見つめた。画面の中のキャラクターでもなければ、幻影にも見えない。呼吸に合わせて胸が動き、風に吹かれた髪が自然に揺れている。

 

「なあ、マルク。自分が召喚されたことは分かってるのか?」

 

「はい。皇牙様にお仕えすることは承知しております。ただ、こちらの土地については何も存じません」

 

「なるほどな。ちなみに俺は神城皇牙。皇牙でいいぞ」

 

「承知いたしました、皇牙様」

 

「……まあ、好きに呼んでくれ」

 

 どうやら、呼び方を変えるつもりはないらしい。

 

 皇牙は苦笑しながらも、目の前の男性を改めて観察した。召喚結果には単に農民と表示されていたが、本人には名前も人格もある。実際に話してみると、ゲームで仲間を増やすのとは随分と感覚が違った。

 

 マルクは足元の土を少し拾い、指先ですり潰した。

 

「随分と乾いた土地ですな。畑を作るのでしたら、水の確保が必要になりそうです」

 

「やっぱりそうか。俺、農業なんてほとんどやったことないんだよな」

 

「ご安心ください。土地の具合を調べれば、育てられる作物も分かってまいります」

 

「おお、頼もしいな。じゃあ、農業関係は任せた」

 

 皇牙がそう告げると、マルクは真面目な表情で頷いた。

 

 歴史を専攻していた皇牙も、食料生産が国家を支える重要な要素であることくらいは理解している。しかし、実際に畑を耕し、作物を育てるとなれば話は別だ。知識があることと、仕事ができることは同じではない。

 

 何より、できることなら畑仕事はしたくなかった。

 

「さて、次は誰が来るかな」

 

 皇牙は再び召喚画面を開いた。

 

【本日の無料召喚可能回数:2/3】

 

 残りは二回。初回特典のおかげで、三回以内にSR以上が必ず一人出る。つまり、まだ偉人を引き当てる機会は残されているわけだ。

 

「ここで諸葛亮とか出たら最高なんだけどな。内政を丸投げできそうだし」

 

 期待を込めて二度目のボタンを押すと、再び地面に白い魔法陣が現れた。

 

「……あ、さっきと同じ色だ」

 

 何となく嫌な予感がした。

 

 やがて光の中から姿を現したのは、三十代ほどの男性だった。短い茶色の髪に無精ひげ、丈夫そうな革の作業着。腰には大小さまざまな工具が下げられている。

 

【召喚結果:N・職人】

 

「……またNかよ!」

 

 思わず叫んだ皇牙に、男性は眉をひそめた。

 

「おいおい、呼び出しておいて随分な歓迎だな」

 

「あ、いや、違う違う! あんたに文句を言ったわけじゃないんだ!」

 

「そりゃそうだろ。こっちは呼ばれたから来ただけなんだからよ」

 

 男性は呆れたように肩をすくめたあと、腰に下げた工具を軽く叩いた。

 

「俺はガルド。木工と簡単な鍛冶が専門だ。よろしく頼むぜ」

 

「おう、俺は皇牙だ。よろしくな」

 

 マルクとは対照的に、随分と気さくな男だった。皇牙としてはこちらの方が話しやすいが、仕事に対する姿勢はどうなのだろう。

 

「それで皇牙、何を作ればいいんだ? 家か? 家具か?」

 

「そうだな。家具とか道具とか……ああ、そうだ。ちょっと見てくれ」

 

 皇牙は近くに建っている石造りの小屋を指さした。

 

 国家創造EXを試した際に建てたもので、入口には短い石畳の道も伸びている。ガルドはそれを見るなり興味深そうに近づき、石壁を叩いたり、扉の造りを調べたりし始めた。

 

「へえ、なかなかしっかりした建物じゃねえか。誰が建てたんだ?」

 

「俺」

 

「……は?」

 

「俺が作った。さっきな」

 

 ガルドは数秒ほど皇牙を見つめたあと、再び小屋へ視線を戻した。

 

「お前、石工の経験でもあるのか?」

 

「いや、国家創造っていうスキルで一瞬だ」

 

「一瞬!? おいおい、冗談だろ!」

 

 ガルドは驚いた様子で内部まで確認したが、やがて腕を組んで頷いた。

 

「なるほどな。確かにとんでもねえ能力だ。だが、これじゃ生活するには不便だぜ」

 

「やっぱり?」

 

「そりゃそうだろ。寝具も家具もねえし、道具をしまう棚すらない。建物が立派でも、中身が空っぽじゃ仕方ねえ」

 

 もっともな指摘だった。

 

 第1話で小屋を完成させたときにも感じたことだが、国家創造EXで作れるのは建物そのものだ。生活用品や仕事道具まで都合よく揃うわけではない。

 

「まあ、家具や道具なら俺に任せろ。材料さえあれば作ってやるよ」

 

「おお、いいねえ! そういうのを待ってたんだよ」

 

「何がだ?」

 

「俺が面倒なことをしなくても、得意な奴がやってくれるってこと」

 

 皇牙が嬉しそうに答えると、ガルドは呆れたように笑った。

 

「お前、本当に働くのが嫌いなんだな」

 

「当たり前だろ。せっかく異世界に来たんだから、好きなことをして暮らしたいじゃん」

 

 そう言い切る皇牙を見て、マルクも困ったように微笑んでいた。

 

 農民と職人。どちらも地味な結果だったが、生活を始めるためにはありがたい人材だった。何もない荒野で暮らす以上、食料と生活用品は欠かせない。

 

 ただし、一つだけ足りないものがある。

 

「……やっぱり、戦える奴が欲しいな」

 

 この世界には魔物が存在するらしい。皇牙自身には全属性魔法EXがあるものの、実際の戦闘経験は皆無だった。強力な魔法を使えるからといって、突然襲われても冷静に対応できるとは限らない。

 

 それに、毎回自分が戦うのも面倒だった。

 

「となると、次は武将だな」

 

 皇牙は最後の無料召喚画面を開いた。

 

【本日の無料召喚可能回数:1/3】

 

 最初の二回がNだった以上、最後は初回保証によってSR以上が確定している。つまり、次に現れるのは間違いなく歴史上の偉人だ。

 

「よし、ここからが本番だな」

 

 皇牙は思わず口元を緩めた。

 

 武田信玄、上杉謙信、李牧、韓信。歴史上には優秀な武将が数え切れないほど存在する。誰が来ても嬉しいが、できれば個人の戦闘能力が高い人物が望ましい。

 

 もっとも、ナポレオンやアレクサンドロス大王のような野心家が現れた場合、自分の方が振り回されるかもしれない。

 

「……まあ、誰が出るか分からないのがガチャだしな」

 

 皇牙は期待を込めて、最後の召喚ボタンを押した。

 

 その瞬間、地面に浮かび上がった魔法陣が眩い黄金色に輝いた。

 

「おおっ!?」

 

 先ほどまでとは明らかに違う。

 

 幾重にも重なる光の輪が空中へ浮かび、黄金色の光が周囲を照らしている。乾いた地面を強い風が駆け抜け、マルクとガルドも思わず後ずさった。

 

「な、何ですか、これは!?」

 

「おいおい! さっきと全然違うぞ!」

 

「これが高レアリティの演出ってやつだ!」

 

 皇牙は目を輝かせながら、光の中心を見つめた。

 

 やがて、一人の人影が浮かび上がる。

 

 最初に見えたのは、風になびく長い黒髪だった。続いて、赤を基調とした鎧と、その手に握られた長い薙刀が姿を現す。

 

 光が収まると、そこには一人の女性が立っていた。

 

 整った顔立ちに、意志の強さを感じさせる鋭い瞳。長い黒髪を後ろで束ね、堂々とした姿勢で薙刀を携えている。

 

 美しい女性だった。しかし、皇牙が何より目を奪われたのは、その隙のない立ち姿だった。華奢に見える身体からは想像できないほどの迫力があり、ただ立っているだけなのに、歴戦の武人であることが伝わってくる。

 

 そして、召喚結果が表示された。

 

【召喚結果:SR・巴御前】

【分類:武将】

 

「…………は?」

 

 皇牙の思考が停止した。

 

 巴御前。

 

 源義仲に仕えたと伝わる、平安時代末期の女武者。『平家物語』では容姿端麗でありながら並外れた武勇を持つ人物として描かれ、数々の武功を立てたという逸話が残されている。

 

 史実には不明な部分も多いが、日本の歴史に名を残す有名な女性武将の一人だ。

 

 そんな人物が、今、自分の目の前に立っている。

 

「……巴、御前?」

 

 皇牙が呆然と呟くと、女性は静かに片膝をついた。

 

「巴と申します。このたびはお召しいただき、恐悦至極に存じます」

 

 凛とした声が響いた瞬間、皇牙の中で何かが弾けた。

 

「うおおおおっ! 巴御前!? マジかよ! 本物の巴御前じゃねえか!」

 

 あまりの大声に、ガルドが思わず耳を押さえた。

 

「おい! そんなに叫ばなくても聞こえるぞ!」

 

「叫ばずにいられるか! あの巴御前だぞ!? 源義仲に仕えた伝説の女武者だぞ!」

 

 皇牙は興奮を抑えきれず、その場を行ったり来たりした。

 

 大学で歴史を学び、暇さえあれば歴史ゲームを遊んでいた。その自分が、まさか本物の巴御前と会話する日を迎えるとは思ってもいなかった。

 

 歴史書の中にしか存在しなかった人物が、目の前で呼吸をし、自分の言葉に反応している。その事実だけで胸が高鳴った。

 

「すげえ……。本当にすげえな……」

 

「殿?」

 

 その呼びかけに、皇牙はぴたりと動きを止めた。

 

「……今、俺のこと殿って呼んだ?」

 

「はい。私をお召しになった主君でございますゆえ」

 

 皇牙は思わず口元を押さえた。

 

 歴史上の有名な武将から殿と呼ばれる。ゲームでは何度も経験してきたが、実際に言われると感動が違う。

 

「……最高かよ」

 

 しかし、感動に浸っていた皇牙とは対照的に、巴はすでに周囲へ鋭い視線を向けていた。

 

「殿。お喜びのところ申し訳ございませんが、まずはお静かになさってください」

 

「……へ?」

 

「このような見通しのよい場所で大声を上げれば、敵に居場所を知らせることになります」

 

「……あ、はい。すみません」

 

 あまりにも正論だったため、皇牙は素直に口を閉じた。

 

 巴は薙刀を持ち直すと、周囲を注意深く見渡した。風に揺れる草や遠くの岩陰にまで視線を走らせ、その動作には一切の無駄がない。

 

 先ほどまで片膝をついていた女性と同じ人物とは思えないほど、その眼差しは鋭かった。

 

 皇牙は思わず感心した。

 

 これが本物の武人なのだろう。

 

 歴史好きとして巴御前の武勇は知っていたが、実際に目の前で見ると、単なる知識とはまるで違う説得力があった。

 

「……やっぱり、かっけえな」

 

「何かおっしゃいましたか?」

 

「いや、何でもない。それより、よろしく頼むな、巴」

 

 皇牙がそう言うと、巴は姿勢を正して頭を下げた。

 

「はい。巴、殿のお力となるべく、誠心誠意お仕えいたします」

 

 その声に迷いはなかった。

 

 皇牙は嬉しそうに頷き、改めて三人の召喚者を見比べた。

 

 生真面目な農民、マルク。気さくで職人気質なガルド。そして、勇猛な女武者、巴御前。

 

 自分を含めて全部で四人。

 

 まだ小さな集団だが、つい先ほどまで一人きりだったことを考えれば大きな進歩だった。何より、歴史上の偉人を本当に召喚できたという事実が嬉しくて仕方なかった。

 

「そういえば、みんなにはまだ説明してなかったな」

 

 皇牙は三人へ向き直った。

 

「実は俺、この世界で国を作ろうと思ってるんだよ」

 

「……国、でございますか?」

 

 マルクが驚いたように目を丸くした。

 

「ああ。建物は俺が作れるし、人材はガチャで増やせる。だったら自分の国を作って、優秀な奴らに色々任せた方が都合がいいだろ?」

 

 皇牙は楽しそうに笑った。

 

「そのうち、めちゃくちゃ格好いい城を建てたいんだよな。巨大な城門に、黒い城壁、それから玉座の間も欲しい」

 

「……皇牙、お前さん本気で言ってるのか?」

 

 ガルドが呆れたように尋ねる。

 

「当然だろ。俺は豪華な城で昼寝して、美味いものを食って、毎日ガチャを引いて暮らしたいんだよ。政治とか軍事は、そのうち召喚する優秀な奴らに任せる」

 

「おいおい、それじゃお前は何もしねえじゃねえか」

 

「建物は作るぞ。あと、好きなことならいくらでもやる」

 

 皇牙が胸を張ると、ガルドは声を上げて笑った。

 

 一方、巴は少し考えたあと、遠くの岩山へ視線を向けた。

 

「殿が国を興されるのであれば、まずは安全な場所を定める必要がございますね」

 

「おっ、そうだな。とりあえず城を建てたいんだけど」

 

「城を構える場所については、周囲の地形を調べてから判断するのがよろしいかと」

 

 巴はそう告げると、薙刀を携えて皇牙の前へ進んだ。

 

 マルクも水と土の状態を調べたいと言い、ガルドは材料を確保できる場所が必要だと付け加えた。

 

 それぞれが自分の専門分野から意見を出している。

 

 皇牙は三人を眺めながら、満足そうに頷いた。

 

 やはり人材は大事だ。自分が一から考えなくても、得意な人物が判断してくれる。これこそ、皇牙が求めていた理想の仕組みだった。

 

「よし。じゃあ、まずはこの辺りを調べるか」

 

 そう言って歩き出そうとした皇牙だったが、ふと思い出して召喚画面を確認した。

 

【本日の無料召喚可能回数:0/3】

 

「……ああ、もう引けないのか」

 

 分かっていたことなのに、実際に数字を見ると少し寂しい。

 

 できれば今すぐ十連くらい回したいところだったが、残念ながら金貨など一枚も持っていない。

 

「くそっ。次の無料ガチャまで長えな……」

 

「殿?」

 

「いや、何でもない。ちょっとガチャの禁断症状が出ただけだ」

 

「……がちゃ、でございますか?」

 

 巴が不思議そうに首を傾げた。

 

 皇牙は思わず笑いながら、画面を閉じた。

 

「ああ、その辺は後で説明するよ。今は住む場所を何とかしないとな」

 

 そう言って三人を連れ、荒野を歩き始める。

 

 もっとも、すぐ近くには先ほど作った石造りの小屋がある。今夜の雨風をしのぐだけなら、そこを利用すればいいだろう。

 

 問題は食料と水だった。

 

「……なあ、巴」

 

「何でございましょう?」

 

「今日の晩飯って、どうすればいいと思う?」

 

 巴は一瞬だけ目を丸くしたあと、真面目な表情で答えた。

 

「まずは食料と水を確保いたしましょう」

 

「……だよなあ」

 

 皇牙は大きくため息をついた。

 

 どうやら、夢のスローライフを始めるには、まだまだやるべきことが山ほどあるらしい。

 

 それでも、先ほどの黄金色の召喚演出を思い出すと、自然と頬が緩んでしまう。

 

「……明日もSR出ねえかな」

 

「殿。まずは足元にお気をつけください」

 

「はいはい、分かってるって」

 

 巴に注意されながら、皇牙は乾いた荒野を歩き続けた。

 

 明日の無料ガチャを楽しみにしながら。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけると励みになります。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。