↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
建国スキルがぶっ壊れている件。歴史の偉人をガチャ召喚して、俺は悠々自適に暮らしたい  作者: 阿鼻恭介
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

140/140

第3章 第140話 鉄が作れるなら、次は何を作るべきだ?

 異世界生活百六十三日目。朝食を終えた神城皇牙は、城の中庭で一脚の椅子を眺めていた。


 背もたれをゆったりと倒せる木製の椅子で、肘掛けには丁寧な彫刻が施されている。昨日、職人たちが仕上げてくれた新しい昼寝椅子だ。見た目だけなら、王族が使う家具としても申し分ない。


 そして、その椅子にはアストレアで初めて試験製錬された鉄から作った、小さな留め金が取り付けられていた。


「いやあ、いいねえ。こういうのが欲しかったんだよ」


 皇牙は満足げに頷き、背もたれへ身体を預けた。木の軋む音がわずかに響いたものの、椅子はしっかりと体重を支えている。試作品の留め金は主要な荷重を受ける部分には使われておらず、職人たちが何度も確認したうえで取り付けたものだ。


 それでも、自分たちの国で採れた鉱石から作られた鉄が、こうして身近な道具に使われているという事実は、皇牙の気分を大いによくしていた。


「殿。お気に召されたようで何よりでございます」


 隣に立つ巴御前が、穏やかな笑みを浮かべる。


「当たり前だろ。最初は何もない荒野だったんだぞ? それが今じゃ、鉄まで作れるようになったんだからな」


「はい。皆の努力の賜物でございますね」


「そうそう。だから今日は、その努力に敬意を表して、ここで一日ゆっくり過ごそうと思う」


「その前に、朝の召喚が残っておりますが」


「……忘れてないって。ちょうど今からやろうと思ってたところだ」


 巴の視線を受け、皇牙は名残惜しそうに椅子から立ち上がった。


 毎朝の無料ガチャだけは、どれほど怠けたい日でも欠かせない。むしろ皇牙にとっては、一日の中で最も楽しみな時間の一つだった。


 目の前に《英霊召喚ガチャEX》の画面を呼び出すと、いつものように無料召喚の残り回数が三回と表示される。


「さて、今日は誰が来るかな。そろそろとんでもない偉人が出てもいい頃だと思うんだけど」


 期待を込めて一回目を引くと、淡い光の中から作業着姿の男性が現れた。


【N・鉱石運搬補助】


「おお、鉱石関係か。ちょうど人手が必要になりそうだし、悪くないな」


 二回目に現れたのは、落ち着いた雰囲気の女性だった。


【N・工具整備補助】


「工具の手入れか。地味だけど、こういう仕事も大事なんだよな」


 そして三回目。いつもより少し強い光が広がり、革の前掛けを身につけた壮年の男性が姿を現した。


【R・金属加工技師 ハルト】


「おっ、Rだ! しかも金属加工技師!」


 皇牙は思わず声を上げた。ハルトは周囲を見回したあと、胸に手を当てて頭を下げる。


「ハルトと申します。金属の成形や加工を専門としております。どうぞよろしくお願いいたします」


「こちらこそよろしく。今ちょうど鉄を作り始めたところなんだ。腕を貸してくれると助かる」


「それは興味深いことでございます。ぜひ、実際の作業場を拝見したく存じます」


 皇牙は嬉しそうに頷いた。昨日までの人口は七百九人。今日の三人を迎え、アストレアの人口は七百十二人となった。


 人口一万人にはまだ遠い。高レアリティの排出率が上がる日を思うと気が遠くなりそうだが、こうして必要な人材が少しずつ増えていくのも、ガチャの面白いところだった。


「よし。せっかくだし、今日は工房を見に行くか」


「先ほど、一日ゆっくり過ごすと仰っていたような……」


「鉄の話は別腹なんだよ」


「食べ物ではございませんよ、殿」


 巴の呆れた声を背中に受けながら、皇牙は足取り軽く中庭を後にした。


 城下町の工房区へ向かうと、朝から金属を打つ音が響いていた。通りには木材を積んだ荷車が行き交い、工房の前では職人たちが道具を運び込んでいる。


 数か月前まで、ここには乾いた土地が広がっているだけだった。今では建物の間を人々が行き交い、あちこちから仕事の音が聞こえてくる。


 皇牙はその景色を眺めるたびに、少しだけ不思議な気分になった。


 自分が建物を作ったのは確かだ。しかし、その中で働き、道具を使い、街を生きた場所にしているのは、ここで暮らす人々なのだ。


「おや、陛下。今日はお早いですね」


 工房へ入ると、レオナルド・ダ・ヴィンチが作業台に広げた図面から顔を上げた。その隣では、鍛冶工房の管理を任されているグレンが、黒ずんだ金属片を並べている。


「新しい人材が来たから紹介しに来た。金属加工技師のハルトだ」


「ほう! それは素晴らしい。ちょうど加工方法について意見を聞きたいところだったのです」


 レオナルドは目を輝かせ、ハルトを作業台へ招いた。グレンも短く挨拶すると、並べていた金属片を一つ手に取る。


「昨日の鉄を、もう一度熱して鍛えてみました。使える部分はありますが、品質にばらつきがあります」


「ばらつき?」


 皇牙が首を傾げると、グレンは二つの金属片を並べて見せた。


 一方は表面が比較的滑らかだったが、もう一方には細かな割れ目が入っている。


「同じ炉から取り出したものでも、場所によって不純物の残り方が違います。割れやすい部分を無理に加工すれば、道具として使ったときに壊れるおそれがあります」


「なるほどな。鉄ができたからって、何でも作れるわけじゃないのか」


「はい。今は少量を選別し、加工できる部分だけを使っています」


 ハルトは金属片を手に取り、光にかざして表面を確かめた。


「鍛える際の温度や叩き方にも工夫が必要でしょう。まずは小さな部品をいくつか作り、仕上がりを比べてみたいところです」


「いいね。そういうのは専門家に任せる」


 皇牙が即答すると、レオナルドが愉快そうに笑った。


「陛下は実に判断が早い。しかし、もう一つ考えていただきたいことがあります」


「ん? 何だ?」


「我々は鉄を作ることに成功しました。ですが、次に何を優先して作るべきか、まだ決まっていないのです」


 レオナルドが指差した図面には、農具、工具、荷車の金具、扉の蝶番など、さまざまな品物が描かれていた。


 皇牙は思わず身を乗り出した。


「おお、いいじゃん。全部作ろうぜ!」


「そのお気持ちは分かりますが、今の生産量では難しいでしょう」


 グレンの冷静な返答に、皇牙は肩を落とした。


「……だよなあ」


 鉄鉱石の採れる場所は見つかったものの、北方の森はまだ安全な採掘地ではない。運び出せる鉱石の量も限られ、製錬には木炭と人手が必要になる。


 今のアストレアにあるのは、大規模な製鉄産業ではなく、小さな成功を積み重ねている試験工房だった。


「そこで、まずは何に使うかを絞る必要があります」


 レオナルドがそう告げたところで、工房の入口から別の声が聞こえた。


「その件でしたら、私からも申し上げたいことがあります」


 振り返ると、ジャン=バティスト・コルベールが書類を抱えて立っていた。


「お、コルベール。ちょうどいいところに来たな」


「陛下が工房へ向かわれたと聞きまして。鉄の利用については、財務の面からも優先順位を決めていただきたいのです」


「うっ……。また金の話か?」


「国の資源を何に使うかという話です」


 コルベールは平然と答え、持参した書類を作業台へ広げた。


「現在、農具や工具の一部は商人から購入しております。特に修理用の金属部品は、必要になるたびに取り寄せる場合もあります。少量でも国内で作れるようになれば、職人たちの仕事が進めやすくなるでしょう」


「なるほど。つまり、最初は仕事に使う道具を優先した方がいいってことか」


「はい。見栄えのよい装飾品を作るのも結構ですが、それはもう少し先でもよろしいかと」


「まだ何も言ってないだろ!」


「陛下のお顔を拝見すれば、ある程度は分かります」


 レオナルドが笑いを堪え、巴も小さく口元を緩めた。


 皇牙としては、巨大な城門や格好いい武器にも興味がある。しかし、今ここで無理に作らせたところで、職人たちの負担が増えるだけだ。


 何より、道具が充実すれば国の仕事が効率化する。仕事が効率化すれば、将来的には自分へ回ってくる面倒事も減るかもしれない。


 そこまで考えて、皇牙は大きく頷いた。


「よし。最初は工具を優先しよう。職人が使う道具を作れるようになれば、ほかの物も作りやすくなるだろ?」


「そのとおりです、陛下」


 レオナルドが満足そうに頷く。


「ただし、工具にもさまざまな種類があります。まずは小型の金具や簡単な工具から試し、加工技術を確かめましょう」


「分かった。細かい順番はレオナルドとグレン、それからハルトで相談して決めてくれ」


 皇牙が三人へ視線を向けると、ハルトは嬉しそうに頭を下げた。


「お任せください。加工方法の違いによる強度も確かめながら、少しずつ形にしてまいります」


「頼んだぞ。壊れやすい道具を無理に使わせるなよ。怪我でもされたら困るからな」


「承知しております」


 グレンの返事を聞いて、皇牙は満足げに頷いた。


 そこへ、工房の外から慌ただしい足音が近づいてきた。


「陛下! 少々よろしいでしょうか!」


 姿を現したのは、山本勘助の部下である護衛兵だった。


「どうした?」


「北方の調査拠点から報告が届きました。鉱石を運ぶ荷車が、森の入口付近で動けなくなったとのことです」


「荷車が?」


 皇牙の表情が変わる。


「怪我人は?」


「幸い、怪我人はおりません。ただ、昨日の雨で地面が緩み、車輪が深く沈んでしまったようです」


 それを聞いた皇牙は、ひとまず胸を撫で下ろした。


 北方の森には角狼が生息している。調査隊が無事だったことは何よりだが、荷車が立ち往生するようでは、今後の鉱石運搬にも支障が出るだろう。


「殿。私も同行いたします」


 巴がすぐに申し出る。


「おう。ちょっと様子を見に行こう。勘助にも話を聞きたいしな」


 皇牙は護衛兵に報告を続けさせながら、巴とともに工房を後にした。


 北方の森へ続く道は、城下町から離れるにつれて人通りが少なくなっていく。やがて木々の姿が増え、昨日整えた調査拠点が見えてきた。


 拠点には休憩室と倉庫、護衛兵の詰所が並び、荷車を止める広場も設けられている。建物そのものは立派だが、森の奥から鉱石を運び出す道については、まだ十分な整備が進んでいなかった。


 広場の手前では、一台の荷車が斜めに傾いていた。片側の車輪がぬかるみに沈み、数人の作業員が困った顔で周囲に集まっている。


「おお、本当に埋まってるな」


「殿、お足元にお気をつけください」


 巴に注意されながら近づくと、山本勘助と森林測量士のノルドが状況を確認していた。


「殿。お越しいただき恐縮です」


「気にすんな。それより、何があった?」


 勘助は荷車の車輪を示した。


「昨夜の雨で、道の一部が軟らかくなったようです。荷車が通るたびに地面が削れ、この状態になりました」


「なるほどな。じゃあ、道を直せばいいのか?」


「はい。ただし、単に表面を固めるだけでは、雨が降るたびに同じことが起こりかねません」


 ノルドが横から説明を加える。


「この辺りは斜面から水が集まりやすい場所です。先に水の逃げ道を作り、荷車の通る部分を整えた方がよいでしょう」


 皇牙は二人の話を聞きながら、ぬかるんだ地面を見下ろした。


 《国家創造EX》を使えば、道路そのものは一瞬で作れる。だが、どこに水が流れ、どの場所が崩れやすいのかまでは、現場を知る者の判断が必要だった。


「じゃあ、勘助とノルドで道の形を決めてくれ。俺はそのとおりに作る」


「承知いたしました」


 勘助とノルドは周囲の地形を確認し、荷車が通る位置と排水の方向を決めていく。皇牙はその間、作業員たちに荷車から離れるよう声をかけた。


 位置が決まると、皇牙は地面へ手を向ける。


「《国家創造EX》!」


 淡い光が走り、ぬかるんだ地面の脇に排水溝が現れた。続いて、荷車が通る部分には丈夫な石造りの路面が形成される。斜面から流れ込む水を逃がし、車輪が沈まないようにした、短い搬送路だ。


「おお……!」


 作業員たちから感嘆の声が上がる。


 皇牙は得意げに胸を張った。


「ふっ。道路工事なら任せろ。俺にかかれば一瞬だからな」


「殿のお力には、いつも驚かされます」


 勘助はそう言いながらも、完成した路面の端を確かめていた。


「ただし、雨の後は様子を見る必要があります。排水が想定どおりに働くか、しばらく確認いたしましょう」


「了解。そこは任せた」


 荷車は作業員たちの手で慎重に引き出され、新しい路面の上へ移された。今度は車輪が沈むことなく、ゆっくりと前へ進んでいく。


 その様子を見届けた皇牙は、ようやく肩の力を抜いた。


「よし。これで鉱石も運びやすくなるな」


「はい。ただ、森の奥については、まだ調査が必要でございます」


 勘助の言葉に、皇牙は頷いた。


「分かってる。角狼もいるし、無理に奥まで進む必要はない。安全が確認できた場所から少しずつだ」


 巴も静かに頷く。


「護衛の配置については、引き続き私が確認いたします。作業員たちが安心して働けるよう、警戒を怠らぬようにいたしましょう」


「頼んだぞ、巴」


 皇牙は森の奥へ視線を向けた。


 木々の向こうには、まだ調べられていない土地が広がっている。鉄鉱石がどれほど眠っているのかも、ほかに何が見つかるのかも分からない。


 だが、それを一日で確かめる必要はない。


 少しずつ道を整え、人を集め、技術を育てていけばいい。そうしているうちに、いつか自分の思い描いた国が完成するのだろう。


「……まあ、その頃には俺も、もっと楽ができるようになってるといいけどな」


「殿は今でも、十分にお休みになっておられると思いますが」


「巴。それ以上は言わなくていい」


 思わず苦笑した皇牙に、巴も楽しそうに笑った。


 城へ戻る頃には、すでに昼を過ぎていた。


 皇牙は中庭の昼寝椅子へ腰を下ろし、空を見上げた。暖かな日差しが降り注ぎ、風が庭の木々を静かに揺らしている。


 今日も結局、朝から工房へ行き、北方の森まで足を運ぶことになった。のんびり過ごすつもりだった予定は、見事に崩れてしまったわけだ。


「……なんか、最近こういう日が多くないか?」


「殿が楽しそうにお出かけになるからではございませんか?」


「それを言われると反論できねえな」


 皇牙は椅子の背もたれを倒し、ゆっくりと目を閉じた。


 鉄を作れるようになった。新しい職人も増えた。北方の道も少しずつ整っている。今日の成果を思い返すと、自然と口元が緩んだ。


「なあ、巴」


「はい、殿」


「いつかさ、鉄をたくさん作れるようになったら、すげえ立派な城門を作ろうぜ。でっかい歯車が動いて、見ただけで圧倒されるようなやつ」


「ふふっ。殿らしいお考えでございますね」


「だろ? そのためにも、まずは職人たちに頑張ってもらわないとな」


「はい。きっと、皆も喜んで力を貸してくれることでしょう」


 皇牙は満足げに頷き、椅子の上で身体を伸ばした。


 国を作るというのは、思っていた以上に面倒なことが多い。けれど、自分が好きなことをしているうちに、少しずつ街が変わっていくのは悪くなかった。


 何より、その変化を一緒に喜んでくれる仲間がいる。


「……よし。今日はもう何もしない。絶対に昼寝する」


「承知いたしました。では、私は少し離れたところで警護しております」


「おう。ありがとな、巴」


 皇牙が目を閉じると、巴は静かに一礼して歩き出した。


 その背中を見送りながら、皇牙はふと思う。


 いつか国がもっと大きくなったら、巴にもゆっくり休める日を作ってやりたい。自分だけが昼寝を楽しんでいては、さすがに申し訳ない。


 そんなことを考えているうちに、心地よい眠気が訪れた。


 アストレアの工房では、今日も職人たちが新しい鉄製品の研究を続けている。北方の森では、調査隊が安全な道を確かめながら、少しずつ鉱石を運び出している。


 そして、そのすべてを任せた国王は、午後の日差しの中で幸せそうに眠り始めた。


 本人が望む悠々自適な生活は、まだ完成にはほど遠い。


 それでも、今日のアストレアは、昨日より確かに一歩だけ前へ進んでいた。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけると励みになります。


そして本日はここまで明日も10話投稿します。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。