第2話 相合い傘
「海斗、部活は?」
「あるぜ」
「じゃあ、今日は一人か……」
俺の通っているプラモデル部は週に一回しか活動をしない。
だが海斗の陸上部は毎日のように練習がある。ただしたまに顧問が休み、休息期間を作る。
ので、俺は海斗に聞いてみたわけだ。
休みなら一緒にゲーセンでも行ってカプセルに入るつもりだったが。
「じゃあ、わたしが一緒しようか?」
にまーっと笑う三見。
「いつの間に!?」
俺の背後に立つとはミジンコでもできないぞ!
「んじゃ、オレ部活いくわ」
「ま、待ってくれ!」
俺に三見の相手が務まると思うなよ!?
「お前さんなら天使ちゃんを落とせるかもよ?」
海斗が甘言を持ち、俺に耳打ちをしてくる。
しかし、そのぞわぞわするささやきは、できれば女子にやってもらいたかった。
「ほんじゃ、行くわ」
「あ。待てよ! ……くそ」
海斗の背中が遠くなっていく。
「見捨てられたわね」
「三見さんもそう思うか」
「ええ」
クスクスと嬉しそうに笑う三見。
「でもわたしを呼ぶときは〝千歳〟でお願いすると言ったわよね?」
「ええと。それは俺じゃなきゃ、ダメ? 父とか母に言ってもらえばよくない?」
「斬新な切り口ね。そんなラブコメ主人公は初めてよ」
俺ってラブコメ主人公だったんだ……って、飲まれてはダメだ。
「お前の言っていることはイマイチ理解できないな」
三見はこうしてからかうことが多々ある。
俺の反応を見て楽しんでいるのだ。
そんなに俺は表情豊かではないのだが……。
「ふふ。さ、一緒に帰りましょう? あのむぅが食べたいわ」
「……俺が行くとでも?」
「あら。あなたの真実をネットに公開するわよ?」
く。やっぱり弱味を握られていると、俺は抵抗できない。
「分かったよ。一本でいいんだな?」
「ええ。さすがわたしの彼氏ね!」
「彼氏になった覚えはないが!?」
彼女の中で俺はどういう存在なの!?
慌てふためいていると、三見はクスクスと笑い出す。
は、嵌められた……。
また俺はもてあそばれたらしい。
こいつめー。
「片付けは終わった?」
下校を促してくる三見。
「ああ」
話している間にすませたけど。
「それじゃ、いきましょう」
三見はそう言うと、俺の腕にからみついてくる。
あの豊満なお胸があたっているのだけど?
夢と希望があたっているのだけど!?
動揺している俺とは違い、三見は冷静に――いやちょっとスキップしながら、廊下を駆けているぞ。
これはどういう感情だ?
困惑していると、三見はにこりと笑う。
柔らかい。暖かい。
おっぱいっておっぱいみたいにおっぱいなんだ。
▽▼▽
ざーっと降り注ぐ雨の音。
ボタボタと霤から落ちるサイレンが、黄色信号を出している。
この中を突っ切るのはあまり好ましくない。
しかしいつまで待ってもやむ気配はない。
「さ。いこ?」
三見は背が低いので、俺を上目遣いで見つめてくる。
「いや、傘持ってきていないのだけど……」
「? 何を言っているの? 朝渡したじゃない」
朝?
そう言えば占いがどうとか。ラッキーアイテムがどうとか言っていたな。
あれって今のタイミングなんだ。
俺はカバンを探ると、確かに奥底で眠っていた。
それを取り出すと、三見に声をかける。
「はいるか?」
「いやーん♡ 女の子に向かって棒が入るか、なんて――♡」
「あー。そうかい」
俺はこの天然どピンク頭の女を置いていこうと思う。
一歩前に踏み出すと、三見が慌てて駆け寄ってくる。
「なんだ? 嫌じゃないのか?」
「もう。本当は分かっているクセに……」
「知らん。俺は超能力者じゃないんだ」
相手の気持ちなんて、ましてや女の子の気持ちなんて分かるものか。
――音間くんってさー。
過去の言葉が脳裏をよぎる。
はーっと小さくため息を吐くと、振り向く。
「良かったら、一緒に入りませんか? お嬢様」
皮肉を込めて言い放つと、なぜか得意げに一歩を踏み出す三見。
「あら。ありがとう。執事さん?」
ぐっ。こっちの言葉の綾をうまく利用された。
「ええ。ではこちらに……」
傘の範囲の外へ手招きする。
「ちょっと!? どういう意味よ!?」
切れた三見は自分の身体を俺に押しつけるようにして傘に入ってくる。
「いれてよ! いれなさいよ!?」
「で、でもこのままじゃ、相合い傘になるぞ!?」
「それも構わないと言っているでしょう!?」
「なんで怒っているだよ!?」
「わかんない!!」
とりあえず落ち着くために近くの軒下を借りることにした。
「ちょっとそこでお茶しよ?」
少し落ち着いた様子の三見はにこりと笑いを浮かべている。
「あー。でも……」
「いいから。おごるよ?」
俺が気にしているのはそこじゃない。
確かに高校生のお小遣いには限度がある。だがそこじゃない。
今の三見は雨で少し濡れていて、その……下着がうっすらと見えている。
それを俺が見る分にはいい。
理性をコントロールできるからな。
だが、他の男子は違う。
今も俺が盾になっていなければ、あそこの小学生男児や、あっちの40代サラリーマンはそれはもう恐ろしい性欲を解放するだろう。
「な、なによ?」
俺がいつまでもおごられようとしないので、三見は不機嫌そうになる。
「……あのな……」




