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日本異世界始末記  作者: 能登守
2035年
293/305

初登庁

 大陸東部

 日本国 那古野市

 海上自衛隊 那古野基地


 基地庁舎の食堂で護衛艦『くらま』艦長佐野光一郎二等海佐は、トレイの豚カツを箸でつついていた。


「残留、決まったそうじゃないか」


 同じテーブルに座ったのは護衛艦『いそゆき』艦長石塚二等海佐と護衛艦『ゆうべつ』艦長堀川一等海佐の二人だ。

 第5護衛艦隊はむらさめ型護衛艦で構成されていたので、護衛艦『いなづま』以外は本国に帰還し、『くらま』と『いそゆき』は第5護衛艦隊に編入となった。

 ただし、帰還したのは艦だけで乗員のほとんどは新たに配備された艦に異動となっている。


「我々は上手く残れましたが折原二佐は『いかづち』から『いなづま』とかややこしい異動に愚痴を吐いてましたよ」

「私なんか第8哨戒防備隊司令兼務だ。

 あがの型の売却の噂もあるから対応もやらされるんだろうな」


 移民航路の護衛のまま、護衛艦『ゆうべつ』は那古野に配備されたので、堀川一佐は天を仰いでいる。


「真鍋二佐は『むらさめ』から『すずなみ』、上島二佐は『はるさめ』から『しまかぜ』ですか」


 佐野二佐が編成表を観ながら呟く。


「『しまかぜ』だと乗員が100名くらい足りなくないですか?」

「どっから調達するんだろうな。

 まあ、他の『むらさめ』型の艦長達も『あさぎり』型や『はつゆき』型だと乗員足りなくなるから移民希望の乗員達に残留を進めてるらしい。

 逆に『むらさめ』型貰う方は乗員多すぎだからな」


 堀川一佐は疑問に思うが、石塚二佐がさらに被せてくる。


「艦長会の部屋も手狭になるな、第8機雷戦隊もあとで一隻追加されるらしい。

『あさぎり』はまだ白戸二佐が艦長でしたか?」

「昇進の打診があるが、娘夫婦と暮らしたいのか渋ってるらしい。

 娘がこの町の市長で、旦那が前防衛大臣の息子で大陸財界の重鎮だろ?

 人事部も気を遣うわな」

「『くらま』も暫くは艦隊旗艦だから中川さんが乗り込んで来るのが気が重いんですよね」

「ヘリを三機も積めるんだ仕方がない」


 護衛艦『くらま』は就役から50年を越える老朽艦だが、SH-60K 哨戒ヘリコプターを3機も搭載し、立入検査隊も3班も乗艦させている。

 3人の艦長は雑談を続けるが、食堂のニュースが防衛大臣の防衛省への初登庁を告げていた。


「新任の大臣は矢島さんか。

 前の通産省の大臣政務官だが、旧乃村派からの抜擢だから体制には大きく変わらないだろう」

「マスコミは防衛問題は素人だろうと批判してましたね」

「まあ、乃村さん時代が長すぎたのはある。

 ほぼ三期と2年だから皇国との戦後はほぼあの人だった。

 矢島新大臣にも期待しようじゃないか」





 日本国

 市ヶ谷 防衛省

 統合司令部


「挨拶だけかなとおもってたんだが」


 初登庁で各司令部周りをしていた新任の矢島忠夫防衛大臣は、統合司令部庁舎ビルの地下に設置された統合指揮所に通されていた。

 統合司令行田忍一等海将は恭しく敬礼しているが、真剣な顔で語り掛けてくる。


「統合司令部は常在戦場をモットーに常にオペレーション中の部隊を見守っています。

 大臣にもその心構えと後方司令部面と言われないように今回は現在進行中の任務を御覧になって頂きます」

「後方司令部面とか絶対悪口だよな、怖いなあ。

 まあ、今回のは統合司令部の権限内のなんだろ?

 ここまで御膳立てされてるのは、この後の予定はいれてないのもわかってるからだろ?」


 登庁一日目でも滞っていた書類にサインくらいは用意されてるだろうは矢島も覚悟していた。


「指揮所内に執務用の席は用意してますので任務視察の片手間に行ってください」


 よく見れば大臣用の席に山となってる書類が積み重なっている。

 後ろには秘書官の机も用意されていて、整理を始めていた。


「ではまずは軽く。

 南方大陸アウストラリスの王都ソフィアにて、 在ソフィア自衛隊駐屯地に本日、第19即応機動連隊が駐屯を開始しました。

 只今、国王モルデール・ソフィア・アウストラリス国王陛下とヴィクトール宰相が御臨席のもと、閲兵式が行われています」


 指揮所のモニターにはモルデール国王に赴任の敬礼をする連隊長の飯島匡史一等陸佐の姿が映し出されており、隊員達が行進して駐屯地広場に集まっていく。

 第19即応機動連隊は第19普通科連隊をもとに改編された部隊であり、長年樺太にて北サハリン共和国との国境を守っていた部隊だ。

 現在は後釜に第55普通科連隊が配備されたが、現地の寒さの環境に苦労しているらしかった。


「来週には第56普通科連隊新設の式典に参加して貰います。

 習志野なので遠くはないですが、スケジュールの調整をお願いいたします」

「わかった、開けておく」


 秘書官に目配せして、スケジュールの手配を指示する。


 「もうひとつ問題がありまして、現在は防衛大入学者を毎年1200名受け入れていましたが、今年は新設の学科を創り、200名を追加することになりました」


 転移前は横須賀にあった防衛大学校だが、自衛隊の拡大に伴い、その入学予定者を2倍以上に増やしていた。

 そうなると教職員含めて6000人以上を収納するキャパシティがなく、陸上自衛隊志願者に関しては在日米軍より返還されたキャンプ座間が使用されることになった。

 すでに相模原市は移民が行われており、周辺敷地の買収も容易であったことも上げらる。

 もともとは太平洋戦争時の陸海軍の連携の拙さを反省しての三自衛隊合同の防衛大学校なので、反対も多かったが規模の拡大は現実的に無視出来るものはなかった。

 せめて神奈川県内にと敷地を探した結果、格好の敷地が相模原にあるじゃないかと、防衛大学校陸上自衛隊相模原分校として開校した経緯がある。


 「今の横須賀本校は海空の志願学生しかいないんだったな」

 「それが今年から少々、扱いの困る入学者がいまして、全員が魔術の使える未成年です」

 「ああ、政府が進めていた魔術が使える新世代が可能な限り、社会に出ることを遅らせる為に進学に特別枠を設けていたアレか」


 日本国政府は異世界転移後に産まれた新世代の子供達の中に地球産まれには無い、魔術の使える子供がいることは認識していた。

 魔術が使えれば社会的にアドバンテージが取れそうだったが、社会基盤や法的対応が未知の領域に追い付かないことが予想された。

 仏教や神道など、宗教勢力の紐付き、医療系や個人で霊能事務所や配信者の道を歩める者はともかく、企業や政府系組織に好き好んで入ってくる者達の扱いは困り者で、大学や大学院、研究所などの学術における特別枠を設けて時間を稼いでいたのだ。

 せっかくの特別な力を有効に社会に取り込み、活かすべきとの意見もあったが、目覚めたばかりの第1世代は一部例外を除き、大陸の魔術師と比べても魔力が極端に低く、識者による見積もりで成人しても大陸の魔術師程度が精々と言及されてしまった。


 「まあ、その特別枠で一番最初に給料まで支払うのが、政府系であり防衛大であります。

 警察も同様でありますが、あちらは捜査に活かせると乗り気ですが、自衛隊では能力が半端すぎて扱いに困惑しているのが現状です」

 「これからの社会や組織にどう馴染ませ発展させていくか、第1世代の学生達に研究機関で構築して貰うしかないな。

 なあに自衛隊でも医療系や情報系なら使い道もあるだろう。

 まだまだ少人数なんだ手探りで頑張っていこう」


 矢島も行田一将も互いにやっていけそうだと握手をかわす。


 「で、他の事案は?」

 「東久留米市で現在行われている河童狩りについてです。

 ご存知のように現在、河童と呼ばれる日本原産の新種の亜人が東京各所で仲間を具現化させる為に活動しており、落合川流域で東部方面隊第126地区警務隊立川駐屯地分隊が対応に当たっています」

 「それが真っ先に報告されるべき事案じゃないかなあ」


 矢島防衛大臣の初登庁は不安を煽って出迎えられた。

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