第14先遣隊
大陸北部
チェスタートン伯爵領
「旦那様、トバイアス砦に自衛隊の部隊が到着したと連絡が」
「早かったな。
気が進まないが礼を失する訳にもいくまい。
馬車を用意してくれ」
家宰のトーマスの報告にチェスタートン伯爵は重い腰を上げた。
大陸北部の政情不安は日に日に悪化している。
「正直、日本人がどんな連中かわからん。
北サハリンよりも野蛮でなければ良いのだが」
チェスタートン伯爵が日本の北部先派遣隊を誘致したのは、大陸北部が各勢力が入れ乱れた戦国時代一歩手前の状況だからだ。
大陸北部は最北端は、北サハリン共和国がヴェルフネウディンスク市を建設し、共和国の権益の為に陣取っている。
ヴェルフネウディンスク市から北東方向に幾つかの領邦があり、大陸東部との境目の巨大な山脈がかつてのドワーフ侯爵領であり、現在の異界から召喚された魔神達の勢力圏となっている。
周辺の領邦は時折襲撃してくる魔神達の脅威に晒されているが、王国は他勢力が大陸北部に入り乱れているので、援軍を送りずらかった。
さらにヴェルフネウディンスク市から南に百の領境を越えて、エルフ大公国の大森林が存在する。
皇国時代に大陸は東西南北中央の五地方に分けられ、各々の600の領邦が設置された。
基本的各領邦に広さの差はそれほど無く、公爵から男爵までが領主として封じられ統治を委任させられた。
爵位の差による領地の差は少ないが、人口の差はあり公爵領ともなれば百万の領民がいたことになる。
それはエルフ大公国も例外では無いのだが、大公領と接する八領邦の領主達は例外無くエルフ達に性的に籠絡させられ、当主はエルフ達との血縁により盟約で団結し、大公国を結成している。
自衛隊第11先遣隊が陣取るデルモンド男爵領地もこの近隣に存在する。
ヴェルフネウディンスク市から西に五十近い領境を越えてタチアナ皇女率いる皇国残党が制圧した地域がある。
現在は王国と停戦し、旧ノヴィコフ侯爵領の領都を拠点に30の領邦を勢力下に置いている。
停戦の条件から皇帝や王とは名乗れず、大公も王国の風下に立つ気は無いことから終身執政官を自称し出した。
ノヴィコフ連邦、通称ノ連は王国とは停戦したが、各領邦に連邦への参加を促し、皇国復興を国是としている。
チェスタートン伯爵領はそんなノ連と領境を面した領邦である。
風光明媚な港町を有しているが、そこを通過した砂浜に日本の自衛隊海上輸送群のにほんばれ型輸送艦『にほんばれ』、『あまつそら』、『あおぞら』の三隻が、擱座着岸機能を生かして砂浜に艦首を乗り上げさせ、バウドアを開きランプを繰り出し、車両を揚陸するさせていた。
砂浜にはチェスタートン伯爵領領邦軍の騎士が監督しており、伯爵の馬車に気がつくと自衛隊の指揮官に呼び掛けていた。
「日本国自衛隊、志村三等陸佐です。
この度は我が第14先遣隊の分屯地受け入れを受託して頂き、総督府も感謝に絶えないと、佐々木総督の御言葉を預かって参りました」
「こちらこそよろしく、志村三佐。
数ある候補から我が領邦を選んでくれたこと、感謝している。
誘致の甲斐があったものだ」
この地に自衛隊を誘致したのはチェスタートン伯爵側だったのだ。
自衛隊がいれば群雄割拠化しつつある大陸北部で安全地帯を得られる。
「我らが着たからにはノ連だろうと王国だろうと寄せ付けません。
北サハリンも我々とも揉めたくはないでしょう」
「それだ、それなんだ!!」
チェスタートン伯爵は場の空気も読まずに絞り出すように言葉を紡ぎ出す。
「警戒心が丸出しで、仮面のような態度のクセに自己主張が強く、人のせいにばかりする!!
なんか酒臭いし、仲良くなったら口づけしようとしてきたりして怖いし、連中との取引はうんざりなんだ」
「ああ、連中親しい人以外には冷淡で、仕事中は笑顔を見せるものではないという習慣があるんですよ。
酒はあの連中の燃料みたいなもんだし、あとは謝ったら負けな文化があるみたいでして...…」
何で自分は北サハリンの連中の擁護をしてるのか志村三佐は疑問に思えてきた。
「失礼した。
ああ、工事の概要を教えてくれるかな?」
「はい、砦に司令部、防空監視所を設置し、隊員宿舎、各種倉庫、航空機の発着場、裏手の岸辺に船舶用の桟橋を造っていきます。
第2陣は町役場、外務省、警察、海保の事務所施設。
第3陣は民間事業者の施設、住宅と、街を造る感じで増設されます。
自衛官の人数は200名程、その他官公庁の職員が50名程度。
これに家族や業者等を加えて2000人程の日本人街になります」
チェスタートン伯爵領の人口は概ね30万人前後、日本人街を受け入れる広さと土壌は十分にあった。
警察業務に関しては保安官事務所に委託することになるだろう。
何より自衛隊がこの地を訪れた最大の理由、原油と天然ガス。
チェスタートン伯爵は使えないものだから好きにしていいとの約定は得ている。
それを取り尽くすまでは、ムザムザと他勢力にくれてやる気はなかった。
「さしあたって領内のモンスターと族狩りは演習も予て、実施させて頂きます。
鼠共にも自衛隊ここにありを喧伝せねばなりませんからね」
「それなら一つ気を付けて欲しいのだが、月に一回、うちの領邦には夜に不審な連中が飛び交っているけど、うっかり討伐しないでくれ。
まあ、蝙蝠や狼の姿で来たりするが、ちゃんと関所で交通料も支払って手形も持たせている。
来週くらいに来訪するから」
「あの……
もう少し詳しく」
「もう少し南の侯爵領を治めるアシュトン侯爵と領民が吸血鬼なんだ」
チェスタートン伯爵の前だが、志村三佐は携帯端末でリスト化された貴族一覧からアシュトン侯爵家を検索する。
「確かに特記事項に書かれてますが、末調査ということになってますね。
PSB(共和国保安庁)の連中、更新サボってやがるな」
地球人の大陸に関する情報は共有されているが、大陸北部の情報は基本的に北サハリン共和国の管轄であり、主な調査は情報機関であるPSB(共和国保安庁)が行うことになっていた。
最もこれにはPSB(共和国保安庁)の言い分もあり、『群雄割拠の北部でうかうかと調査なんてやってられるか!!』と、言われると納得するしかなかった。
日本としても大陸北部における拠点はヴェルフネウディンスク市領事館やデルモント男爵領の第11先遣隊くらいしかなかった。
領事館はヴェルフネウディンスク市を含む、対北サハリン情勢。
第11先遣隊は対エルフ大公国情勢をメインにかつどうしているので、対ノ連絡みは自分達第14先遣隊の任務となる。
「侯爵領は全員が吸血鬼なのですか?」
侯爵領なら50万人から100万人の人口を有しており、全員が吸血鬼なら絶対に血が足りなくなりそうである。
「いや、さすがに侯爵一家とその一門。
領邦軍と家臣団くらいの1万人程度。
1日コップいっぱいくらいの血が飲めればいいそうだ」
コップ一杯を200ml(200cc)と考えて1万人分、2000リットル、2キロリットル、成人男性の血液量400人分である。
「概ね血税で賄えてるようだが、近年は買血を求めて近隣の領邦に出稼ぎに出ているのだ」
「そこは文字通りの血税なんですね。
買血?
売っている血を買うのでは無く、血を売りに行ってるんですか?」
「いや、有料で吸血出張サービスを行いに出向いてるんだ。
君らに対する年貢を支払うのに財貨や食糧が必要で、血税を減血して税をそちらから取らなくてはいけなくなったからな」
原因は地球人への年貢という名の賠償請求にあると知り、志村三佐は頭痛を感じていた。




