十三話 災害を止めた影の英雄ですよ?
「こ、これは⋯⋯ホブゴブリンの魔石じゃないか!メイジやウォーリアーのものまで⋯⋯!君たち、これを一体どうやって⋯⋯いや、それよりも進化種がこんなに多くいたということはまさか最終進化個体がいるのか!?」
後日、依頼達成を報告しにきたレイア達は、ついでに手に入れた魔石を換金しようとしていた。
なおあの洞穴は簡易的だがダンジョン化していたらしく、ゴブリン達の体は魔石以外残らなかった。
どのゴブリンも魔石は心臓付近にあったらしく、暴れすぎた為か3分の1くらいは壊れていた。
それは兎も角、ギルドマスターのところへ報告しようと腰を浮かせていた鑑識のお爺さんを呼び止め、一際大きな魔石を手渡す。
お爺さんは呼び止められたことに苛立っていたが、渡した魔石を見ると目を見開き固まってしまった。
(やっぱりゴブリンロードの魔石は不味かったんじゃないですか?)
(何を言う。名前にロードと付くくらいなのだ、きっといい金になる!)
小声で話す2人を他所に、何があったのかと様子を窺っていた冒険者達は俄に騒めきだす。
「おい、あの魔石Bランクくらいの大きさじゃないか?」
「あの嬢ちゃん達がゴブリンロードを狩ったってのか?」
「有り得ねぇよ。どうせ他のやつが倒したものでも譲って貰ったんだろ」
様々な憶測と侮蔑を含んだ言葉が飛び交っているが、当の本人達は全く気にしていなかった。
たっぷり数十秒かかってから再起動したお爺さんが震え声で訊いてくる。
「──君たち⋯⋯これは何の魔石か訊いてもいいかの⋯⋯?」
「ん? それは勿論ゴブリンロードのだ」
「⋯⋯やはりか。それは君たちが倒したのかね?」
「そうだぞ」
「正確にはレイア様が、ですけどね」
「なんと⋯⋯! Bランクモンスターを単独で撃破じゃと⋯⋯とてもEランクの駆け出しが出来ることではないんじゃがな⋯⋯。──よし、わかった。ちょっと訊きたいことがあるから着いてきてくれないかの?」
特に急ぎの用事があるわけでもない2人は大人しく着いていく。
建物の2階に上がると、お爺さんは最奥の扉をノックもせずに開ける。
中には木で出来た簡素な机と椅子が一組と、大量の紙束が積み重なっていた。
椅子には何処かで見たような禿頭の大男が座っていた。
そう、ここのギルドマスターだ。
ということはつまりこの部屋はギルマスの執務室なのだろう。
以前見た時はよく見ていなかったが、改めて見ると顔や身体の至る所に傷があり、どう見ても堅気には見えない。
「おい!ちょっと面倒なことが起こったから失礼するぞ!」
扉を開く前に言うべきであろう台詞を、本人の顔を見ながら言い放つ。
「ジジィ! ノックしてから入れって何度も言ってんだろ!」
「煩いわ! そんな細かいことを気にしているから禿げあがるんじゃ!」
「んだと!? これはハゲじゃなくてスキンヘッドだっつってんだろうが!」
「───!」
「───!」
「あのぅ⋯⋯話があるんですよね?」
仲が良いのか悪いのか、言い合いを始める2人をリィルが中断させる
そこでやっとこちらに気づいたのか、ギルマスが不思議そうな声をあげる。
「──ん? なんだ嬢ちゃん達? なんでこんな所にいるんだ?」
「いえ、其方のお爺さんに話があると呼ばれたので⋯⋯」
「ほう。おいジジィ、何があった?」
「まぁまずこれを見とくれ」
そう言ってお爺さんは先程の魔石を机に置く。
拳程の大きさで紫色に透き通っている魔石は何処か妖しげな光を宿しており、魔道具等の実用的な用途だけでなく観賞用としても扱われてそうだ。
「この魔石は⋯⋯Bくらいか? これを何処で?」
ギルドで決められている魔物のランクの基準は基本的に魔石の大きさを元にしており、ギルマスは一目見ただけでどの程度のランクか見抜いたようだ。
実際にゴブリンロードのランクはBであり、ギルマスの実力の程が伺える。
「それはゴブリンロードの魔石じゃ。そこのお嬢さん達が持ってきた」
「なに?ゴブリンロードだと?こんな辺境の街に、しかもそこの嬢ちゃん達がか⋯⋯。ん?お前さん何処かで⋯⋯あぁ!この前の嬢ちゃんか!それなら納得だ。お前さんなら楽勝だっただろう?」
「憶えていたか。まあ確かに苦労はしなかったな」
「なんじゃ?知り合いじゃったのか?」
「知り合いというかなんというか⋯⋯数日前に登録しにきてな、騒ぎを起こそうとしてたから仲裁したんだ。見かけによらずかなりのやり手みたいだったからな、憶えていた」
「おいおい、騒ぎを起こそうとしていたとは失礼な。あれは向こうから絡んできたんだ」
「煽っていたのはお前さんだろうが⋯⋯全く。それで何でまたゴブリンロードを倒すようなことになったんだ?」
レイアは依頼受注からの流れを説明した。
「はぁ?Eランクのゴブリン退治で棲家に突入したってのか!?」
「あれはそういう依頼じゃなかったのか?」
「そんなわけあるか!あれは哨戒で見回っているゴブリンを間引きするだけの依頼だ。そもそもFから上がりたてのEランクに群れの殲滅が務まるわけがないだろう」
「ふむ、確かにEランクの依頼にしては大変だとは思ったが⋯⋯」
「なんじゃ、君たちはまだEランクに成り立てじゃったのか?」
「言ってなかったか?この前上がったばかりだ。これがEランクでの初依頼だぞ」
「何ともまあ⋯⋯Fランクで常識を学ばないとランクは上がらないはずなんじゃがなぁ⋯⋯」
お爺さんは遠い目をして天を仰いでいた。
結局ランクはギルマス権限でDに上げてもらった。
本当ならばAランク以上の実力があったのだが、体裁上飛び級は無理だと言われた。
Bランク以上の冒険者から推薦状でもあれば別なのだが、この2人にそんな知り合いがいるはずもなく、依頼1つでランク上昇という結果で落ち着いた。
なお大規模な魔物の氾濫に成りかねなかった事案を解決した為、報酬は色を付けて貰い、2人はホクホク顔でギルドを後にした。




