第7話・冬が終らない理由
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この国は、大きな大陸の中央に位置する、一年で四つの季節が巡る、とても豊かな国。
そこには、多くの人間や動植物が存在している。
一方、少し豊かな地を外れると、そこには荒地が広がっているらしい。
北には、永遠の氷に閉ざされた大地。
西には、砂で覆われた死の大地。
東には、巨大な底なし沼があるという湿った大地。
南には、岩で覆われた魔物がはびこると言う黒い大地。
赴いた者は数少なく、戻ってきた者はさらに少ない。
分かっている事も、ほとんど何もない魔境だ。
突如、女王に振られた話題に困惑を隠しきれないバルド。
以上の話は、すべてが創作である。
だから創作された童話などでは、この大地にまつわる冒険談などの話が、多く見受けられる。
バルドも王国民という事もあり、それぐらいの事は常識として知っていた。
いくら田舎から出てきたとはいえ、童話ぐらいは読んだ事や聞いたことはある。
なぜそのような話が、季節の女王様がするのか。
「創作などではありません。 この国の外には氷も砂も湿地も、すべて実在するのです。 そして物語に出てくる、数々の幻獣も・・・」
かぶりを振り、バルドへ『外の世界』の話をする女王。
その説明に、理解に苦しむといった表情を向ける彼。
この冒険談などには、巨大な人食いナマズや奇術を使う動物など、にわかには信じがたいような生き物が、数多く出てくる。
それがある日突然『実際に居る』と言われても、にわかには信じがたかった。
そんな彼の心境を気にする事もなく、話を続ける女王。
「数千年も前の事です。 この地にはまだ、あなた方人間は住んでいませんでした。」
な・・何千年も前!?
そんなに前から、季節の女王様はいたのか?
質問をしたいところであったが、今、重要な事はそこではない。
好奇心を胸に沈め、静かに、女王様の話に耳を傾けるバルド。
「この地に、南の大地からやって来た邪竜がやってきたのです。 アレは破壊の限りを尽くし、緑はびこっていたこの地はあっという間に、炎が燃え盛る、焼けた土地に変えてしまいました。 今から思い出してもそれは、地獄のような光景でした。」
「焼けた土地・・・」
女王の話は、想像を絶するものだった。
その時どんな光景が広がっていたのか、好奇心よりも恐怖がバルドの頭を駆け巡る。
「そ、それで、どうなったんですか?」
話を止めた女王に、続きを促すバルド。
人間が居ない。
そうなれば当然、冒険者も王国軍も居ない。
そんな中、そんなヤバそうな奴をどうしたのだろうか?
もしどうにかしていなければ、俺達はここに、居ないはずなのだから。
「アレは『炎』の化身です。 弱点はただ一つ、冷たく寒い場所です。 数千年前にやってきた際、運よくこの地域は『冬』でした。 二度とこの地へ来ないよう、私は全力でこれを氷付けにして、他の女王と共に北の大地の地中深くへと封印しました。 ・・・ですが長い年月の間に、それが徐々に壊れ、とうとう封印が解けてしまったようなのです。」
封印が解けて、炎の邪竜がよみがえった?
そのせいで『冬』が終らないというのか??
バルドの浮かべる困惑した表情に、首を縦に振る女王。
そして続けざまに、『今』を話して聞かせる。
「邪竜は今、寒さを嫌って南の大地に居ます。 もしこの地が暖かくなれば、アレは豊かなこの地へやってくる事でしょう。」
「そんな・・・・で、でもそんな竜、王国軍ならきっと・・・」
バルドの言葉に、沈痛な面持ちでかぶりを振る女王。
「いいえ、アレは口から火を吐きます。 全身を炎の壁で守り、鉄の剣は通じません。 人間達が束になって掛かったところで、傷一つ付けることはかなわないでしょう。 私が再び封印する事も考えはしましたが、この地を私が離れれば、その隙にアレがやって来るかもしれません。 私が自ら赴く事は、とうとう叶いませんでした・・・」
「そ、んな・・・・・・」
王国軍は、この世の何よりも強いと聞かされた。
子供の頃から、周りの大人などの話から。
それですら、傷一つつけられない。
冒険者など、たかが知れている。
だとすれば、もし『冬』が終われば、この地は滅亡するというのか??
しかしもし、それで『冬』が終らないと言うならば、俺達は近いうちに、食べるものが無くて、餓えて死んでしまう。
状況は、最悪だ。
もはや何もかもが、絶望的である・・・・
「話はこれで、終わりです。 これを聞けば、この国の王様達は大挙として、アレを倒そうとするでしょう。 そうすれば、多くの人間が死にます。 ですからあなたも、多くの者にこれを口外しないよう、祈ります。」
「・・・・・。」
『冬』が終らない原因。
『冬の女王様』が、塔から出てこない原因。
他の『女王様』が、姿を現さない理由。
そして、上記が原因不明な理由。
すべてが分かった。
だがそれは、先ほど女王様が言ったように、『良い話』では全く無かった。
俺がそれを聞いたところで、出来る事は何も無い。
なにせ、王国軍が束になって掛かっても、倒せないのだから。
バルドは力なく、入ってきた入り口へと歩を進めた。
それを何も言わず、見送る女王。
「うぅう・・・」
「じょ、女王様!?」
バルドが戸に手をかけたその時、女王様が腰から床へと崩れ落ちた。
それに手を貸し、何とか全身が床へ倒れるのを防ぐ。
こうしてよく見ると彼女の顔色は、とても悪い。
どこと無く、体が透けているようにも見える。
一体、彼女の身に、何が起こり始めているんだ!?
「女王様、大丈夫ですか??」
「はあ、はあ・・・例年、私達『季節の女王』は、定められた期間にこの塔へやって来て、その力で季節をめぐらせます。 しかし私は今、ここを離れられません。 どうやらその力を、使い果たしかけているようです。」
「ええ!?」
前に聞いた事がある。
季節の女王様は、その力を以って季節をめぐらせる。
それは三ヶ月という、定められた期間で行使される出来事。
その力の根源は、彼女達の生命力。
そのため担当する期間以外は、彼女達は天上の世界で、静養するのだという。
そうして力を蓄え再び、季節をめぐらせにまた、やって来るのだと言う。
つまり、彼女はその力がほとんど残っていないにもかかわらず、塔に居続けたのだ。
このままでは、冬の女王様は死んでしまうかもしれない。
そうなれば、もう季節は巡らなくなるだろう。
いや、それ以前に邪竜がやって来て、女王様の言う『地獄』とやらがやって来るだろう。
事は、一刻の猶予も許さない。
「女王様、俺に何か出来る事はありませんか!? あなたの代わりに、俺がその邪竜をどうにかします!!」
「とんでもありません! アレは人間一人でどうにかなるものでは・・・」
王国軍ですら、どうにもならない相手。
だが、諦めればこのまま、滅びるだけだ。
俺一人でどうなると言われそうだが、だからと言って指をくわえて傍観する事は、俺には出来ない。
「お願いします! どうにか俺でも邪竜を倒す方法は、ありませんか!??」
「・・・・・。」
全ては村で待つ、皆のため。
あの村で、幸せに暮らすため。
このままでは、そのどちらもやっては来ないだろう。
誰も何も出来ないというなら、俺は出来るだけの事はしたいと思う。
危険は承知のうえだ。
俺だけでどうなるかは分からないが、どうにかはしたかった。
そのためなら、危険などは不思議と、気にはならなかった・・・・・・
ご参考までに。
春の女王の名・・・スプール
夏の女王の名・・・サーマ
秋の女王の名・・・オターン
冬の女王の名・・・ウィント
安直に考えました。