第一話、「ステーク」9
「さぁ、地獄を楽しみなッ!」
(仮面ライダーWより/仮面ライダーエターナル)
「お前ら! 早く離れろッ!」
初心者達へ叫びながら青のライダーへ走るステーク。とにかく、少しでもこの男を引きつけなけねばならない。
振りかぶり、顔面目掛け右拳を放つ、だがそれより速くブルーが反応。その両手に粒子が集う。
――ガッ!
一瞬の交錯、ステークの拳は空振り、衝撃と同時に胸元にはX字の傷痕。精密なカウンターの証。
――は、速い……
後ろには変わらず気怠げな様子のブルーが立つ。だらりと下げられて、小太刀の双刀が握られている。
「……あー、つまんねぇ。殴る時に動き止まるとかアンタド素人丸出しだな」
ボヤくようにブルーが呟く。実際ステークには対人戦の経験が無い以上隙が丸見えだろう。
勝たせることが前提であるNPCの怪人ならば一定の行動パターンがあるが、もちろん対人戦ではそんなものはない。木島は資金稼ぎの狩りに慣れすぎていた。
「……わかってんのか、お前ら! PKすれば本当に死ぬかもしれないんだぞ!?」
「べぇつにぃ。実際に死ぬかもとか死なないとか、どーでもいいや」
双剣は構えず、ダラリと下げたまま、
「大ぃ事なのはぁ、今この瞬間だろ? 死にゃわかるなら、焦る必要なんぞないさぁ」
力の抜けた言葉使い、反比例するようにこもる殺気。電子で造られた空間に、粘りつくような緊張感が満ちる。
「お前、本気でそんなことを……ッッ!」
声を荒げる木島、しかし返答するより速く、ブルーが踏み込む。残像さえなく姿が消えた。
――なっ、
とっさに反応、勘で上半身をガード。瞬く間にブルーが傍らへ現れる。
「グッッ!」
腹部に斬撃、ダメージによるエフェクト、火花が散る。HPが減少。
さらに追撃、左右の剣撃を両手でガード。反射的にブルーへ前蹴りを放つ。
「よっと」
だが、蹴りを戻した剣の柄で受け止める。同時にバックステップで下がり衝撃を殺す。
再び、一定の距離に両者は離れた。
――ステータス差が1、5倍はやはり大きい……
ステータス確認ではブルーの値はステークのそれより全体的に1、5倍多い。そして、戦闘経験ではそれ以上の差がある。
「なぁ、あんたあの初心者ども助けにきたんだろ? ちょっとあれ見ろよ」
「……あ?」
促されるまま、指された方向を見る。そこには、木島の助けようとした対象、三人の初心者が離れた位地からこちらを見ていた。
「――おい! 逃げろ、あんたら! なんで逃げない!?」
「なんで逃げないって、そりゃぁ、あんた。あいつらはお前を味方とは思ってないからだろ?」
「何をいってっ!?」
「背中を見せた瞬間、結託して襲ってくるかもしれない、ひょっとしたら周囲に隠れているお前の仲間に殺されるかもしれない、そもそもどこに逃げる? この修羅場じゃ、なんだってありうるさ。
でもよ、いきなり人助けで出てくるバカがいるかよ? ましてや、そいつの言うことを大人しく聞く?
――あいつらにとっちゃ、俺より遥かに胡散臭いのさ、あんたは」
「……そう、だな」
わかっている。「正義の味方」など、自ら悪を標榜する人間より胡散臭く、信じられない。
だが、昨日までの「ヒーロー&ヒールVS」の世界ならば、役割として受け入れられただろう。ヒーローになりたい、ヒーローでいたいという願望を叶える場所なのだから。
しかしその世界はもうない。今目の前に広がるのは、正義も悪も無く、弱者が強者に喰われるリアルよりも過酷でシンプルな世界法則だ。
闘わなければ、生き残れない。喰らわなければ、明日を迎えられない。
それでも、
――そんなこたぁ、わかってんだよ……
黒の体をきしませ、構える。すでに先ほどの攻防で体力は半分近く無い。勝つ可能性は薄い。だが引くわけにはいかない。
「――だったらよぉ、お前をぶちのめして、俺は味方だってアイツらに証明すりゃいいだけだろ?」
「……いいね、あんた格好良すぎだ、弱いけどさぁ」
それでもなお、正しいと思った何かのために命を懸けたい、そうでなければ生きる意味が無い。