第40話 夏休みの課題
千沙は2週間ほどでスタジオ・ジュリに戻って来た。高校なのに『登校日』と言うものがあり、また宿題を片付けねばならないからだ。島での生活は、正直退屈だった。ずっと島に居たい…なんて、なんで思ったのだろう。千沙は過去の自分を不思議に思った。
そして今度は樹里の顔が明るくなっている。千沙が島に帰ってから、いつぞや絹が言っていた『心にぽっかり穴が開く』と言う心象を実感していたのだ。
「ほんで千沙、依頼も来てるんだ。夏休み課題と思ってさ、学校の宿題やりながらでいいから頼むわ」
『淋しかった』なんておくびにも出さず、樹里が千沙に言い渡している。
「今度は何でしょうか」
「恋だってさ。わたしゃそんな依頼、聞いてらんねぇよ。シアワセ初心者の千沙が適役だろ」
「シ、シアワセ初心者?」
「おう、徐々に深まってるんだろ? 『朔』とのキス報告はまだ聞いてないけど、手は繋いでる?」
「な、何言ってるんですか! 長沖君は、と、友だちですって!」
「はいはい。今日のところはそう言う事にしておくから依頼書見てくれ」
千沙はテーブルに置かれた1枚の紙に目を通す。
『彼が、好きだけど別れると言って去って行きました。意味が解りません。何とか彼の気持ちを取り戻して下さい』
うわ。これ、マジなやつだ。千沙は宙を仰ぐ。樹里がその額をちょんと触った。
「な。めんどくせぇーって思うだろ。勝手にしろよ、お前にも問題があったんだろって言いたくなるよな」
「い、いや…」
答えたものの千沙も少しばかりはそう思った。梢さんの難題より難しい。取り敢えずこの人に会わなきゃ。千沙は依頼主の女性に連絡を取り、早速翌日の午前中にアポを入れた。
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千沙が依頼主に会ったのは、いつぞや梢と一緒に幹太と会ったカフェだ。依頼主の女性は杉原 小巻。25歳で携帯ショップで働いているという。千沙より10歳も歳上だ。千沙は目印になるよう、ネッカチーフを輪にしてテーブルの上に載せている。
間もなく入口からセミロングのスレンダーな女性が入って来た。卓上をチラチラ見ながら進んで来て、千沙のテーブルでピタッと足を止めた。
「スタジオ・ジュリの水取さん?」
「はっ、はい。水取です」
千沙は立ち上がって頭をペコっと下げる。小巻は千沙の前の席に座る。
「随分と若いのね。学生?」
「はい。高校1年です」
「こ、高校生?」
小巻は値踏みするように千沙の顔から胸をじっと眺める。千沙は緊張に震えそうになる。まるで蛇に睨まれた蛙だ。
「あなたに出来るのかしら」
アイスオレをオーダーした小巻は改めて口を開いた。千沙の背中にじわっと汗が滲む。
「は、はい。一応お話を伺って、えっと、北風樹里にも相談します」
「そうしてね。取り敢えずのパシリが来たって思っておくから」
小巻は椅子の背中にもたれかかる。
「ふーっ。で、何から話せばいいの?」
「あの、相手の方との関係とか、その、馴れ初めとか、今回の状態とか…です」
千沙はメモ帳を取り出し、シャーペンを握る。小巻はアイスオレをチューっと吸い上げ、前髪を手で払った。




