第38話 パパ活
「それで今回はこの1ミクで精算したってこと?」
「はい…、すみません」
千沙と樹里は、スタジオ・ジュリの待合席で向かい合っている。
「1ミクが高騰するって…考えられないよねぇ」
樹里は綺麗に洗われた、しかし所々が剥げて歪んだプラスティック製のおもちゃコインを摘み上げた。
「そもそもの依頼は達成された…訳よね」
「ええ、コインコレクションって言うのはお母さんの思い込みでしたけど」
「ふうむ。だがしかし、依頼の目的は達成された訳だ…」
「あっ、あの!」
口止め料との相殺とは言えない千沙は必死に思いつく。
「お、お金は人をおかしくするから、だから、この方がいいって…」
「誰が言ったの?」
「1ミクの、は、発明者です」
「ぷっ」
キィ。
樹里が吹き出した所で、スタジオ・ジュリのドアが開いた。
「い、いらっしゃいませ」
樹里と千沙は同時に立ち上がる。噂をすれば…
「未来!」
「お邪魔します。千沙、今日はありがとう」
「え、いいえ、ってか、どうしたの急に」
「放課後、職員室に呼ばれてね」
「え? マジ?」
未来も成績は良い。職員室に呼ばれるようなことは考えづらい。何があったの?
「そ。パパ活の件でねー」
「パッ、パパ活?!」
言葉は知っている。大人、それもおじさんと付き合ってお金をもらうという話。あたしには考えられない。まさか、お父さんがいないから淋しくて…とか、えー?
千沙の表情を見て未来がニヤッと笑った。
「千沙は何考えてるかな。2学期から待望のフランス留学が認められたって話なんだけど」
「え? だって、パ、パパ活って…」
「私が勝手に呼んでいるんだけど、ホームステイ先になるParisのParentを探すって活動。略してPaPa活」
「は?」
「寮もあるんだけど、なるべく一般の家庭の雰囲気を知りたいなって思って。でもさ、斡旋だとどんな人に当たるか判んないから、なるべく自分で探してお願いしようって思ってたの」
「あ、そう…」
「で、いい感じのところ見つけて、先生にもお願いして交渉成立したって話」
千沙は言葉が出てこない。既にそんなところまで考えてやってたのか…、凄い、未来。
「パ、パリに留学するの?」
「うん。やっぱ花のパリかなーって。今回はフランス語をちゃんとやって、大学は理系を目指すのよ。フランスって結構理科系に強いのよ」
「へぇ。でもフランスの家庭って、いきなりフランス語生活だよね」
「多分。でもね、美容室やってるんだって。美容室に下宿って千沙と同じよね。フランス人のお店だけど日本人スタッフもいるみたいって先生が言ってた。だからここのお仕事をよく見ておけば、向こうでも共通の話題が出来ていいかなって、早速来てみたの。カットお願いしてもいい?」
「毎度ありー!」
熱心に聞いていた樹里が、手に持っていたセニングシザーを掲げた。




