表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/69

現世

 浩美ヒロミは制服姿で街を歩いている。


 見覚えのあるコンビニエンスストア、そこで一杯の熱いエスプレッソコーヒーを買って、ゆっくりと噛み締めるかのように飲んだ。

 表面にキズのある電柱が彼女の目の前に現れる。そこにはよく事故現場などに置かれる献花が備えられていた。彼女はその前でしゃがむと祈るように手を合わせた。


「お父さん……、苦しかった……?」目を閉じて彼女はしばらく、その場で誰かと語り合うかのように時間を過ごした。その目からは涙が溢れそうになっている。


 次に彼女は自分が通っていた学校の正門の前に到着する。校舎の中では授業が行われている様子であった。しばらくその様子を眺めている。


「あれ、あの子なぜ授業を受けないであんな所にいるんだ?」男子生徒が彼女の姿に気づいたようであった。


「あっ、本当だ……、って、えっ!!あの子もしかして……」男子生徒の質問に答えた女子生徒の顔が蒼白に変わる。


「どうしたんだ?」その女子生徒の顔を見て彼は仰天する。


「あ、あ、あの子、この前事故で亡くなった筈じゃ……!!」もう一度、正門を見ると浩美の姿は消えていた。


「キャーーー!!!」女子生徒は絶叫した。浩美は事故で亡くなった事になっていた。すでに、彼女に帰る場所は無いのである。


 浩美は、ゆっくりとあの日、車に乗せられて病院へ向かった道を歩いていく。見覚えのある道。この道は自分が普通の女の子だった頃に毎日通学していた道。友達とじゃれあった道。男の子に告白された道。思い出のたくさん詰まった場所。


 少し歩くと、草木が燃えた後があった。そこには黄色いテープが残っていた。事故や事件現場に貼られる立ち入り禁止を示すものであった。


 浩美は先ほどと同じように、その場にしゃがむとまた手を合わせて目を閉じる。「お母さん、ごめんね」また、しばらくそこで母の魂と語らうように彼女は時間を費やした。


 この世界と、オリオン達の世界を繋ぐトンネルを通ると不思議な力が使えるようになるようであった。時間をさかのほったり、未来に行く事も出来た。それならば、あの事故が起こる前にこの世界に来て、歴史を変えてやろうと試みたが、同じ世界に同じ個体、すなわち浩美が二人存在する事は出来ないようであった。ゆえに、やたらめったら時間を飛んで未来などに、その存在を記録していまうと進行形の自分が消えてしまうなんて云うこともあるのかもしれない。だから、浩美が死んでしまったと仮定されているこの世界には彼女は来る事が出来たのだ。


 浩美は立ち上がると、父が社長を勤めていた会社を訪問する事にした。彼女にはやらなければならない目的があるのだ。

 女子高生が会社の中を往来する姿を訝しく見つめる者もいたが、特に咎める事はなかった。


 浩美は、廊下の突き当たりの部屋のドアをノックする。


「誰だね、どうぞ入りたまえ」中から声がした。浩美はドアノブをゆっくりと回してその部屋に入る。


 大きな机にふんぞり返る男の姿。その男に浩美は見覚えがあった。


「ま、まさか!お前は……、浩美!浩美なのか!!」男は大きく目を見開いて彼女を見る。


「はい、おじ様。地獄より戻ってまいりました」浩美は少し会釈した。この男に見覚えがあった。彼は彼女の父の弟である。


「そ、そんな、あの男!しくじったのか!?」その男の顔を見て、浩美はオリオンの叔父であるハデスという男を思い出していた。


「オリハルコン……」彼女は小さな声で呟く。その手には金色の剣が姿を表した。


「なっ、なんだそれは!!」男は逃げようとしたようであったが、浩美がオリハルコンの剣を振り下ろすとまるで蒸発でもするように男の姿が消えていまった。


 浩美はオリハルコンの剣をその手から消すと、何もなかったかのようにその部屋からそっと姿を消したのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ