秘奥義料理
南蛮ってやつは字面から色黒強面マッチョを想像してしまいます。ですが主体性がなく強く言われたら断り切れないほど気の弱い、いわゆる都合のいい人なんじゃないかと思うときもあります。鴨には「お前ソバだろ」と言われ、カレーには「もっとうどんらしくしろよ」と叱咤される。終いにチキンからは「でも所詮唐揚げじゃん〜」と笑われる始末。南蛮はその都度「ごめんよー」と鼻やら頭やらをポリポリと掻きながら、ソバやうどん、唐揚げを演じわけているのでしょうね。ただそのギャップが逆に南蛮の魅力なのかもしれません。その唐揚げも地域によって呼び方が変わりまして、北海道ではザンギというそうです。由来を調べてみますと中国語の炸鶏だとする説と同じく中国語の炸子鶏だとする説があるそうですが、どちらも鶏の唐揚を意味する単語だそうで、別にどっちでもいいのではないかと思ってしまいます。とある北海道の知人に言わせるとザンギと唐揚げとは別もの、ぜんぜん違うのだそうですが、違いのわからない男と定評があります自分には当然違いがわからないわけでありまして「どっちも鶏肉に味を付けた衣をつけて油で揚げた料理だよね?」と言ったら、その知人にため息をつかれてしまいました。遠く四国は愛媛県ですと千斬切と呼ぶのだそうで、どこぞの古流剣術の失われた秘奥義を思い浮かべてしまいました。一つの単語に『斬』と『切』の同時使用。これは物書きとしての魂がくすぐられます。あまりに危険で使い手を選ぶため、已む無く封印したなんてエピソードがどうしても頭に思い浮かんでしまいまして、でも唐揚げなんですよね。古の剣豪がこの技を使ってしまい「やってしまった」と後悔してしまうといった血生臭い出来事を想像してしまいそうですけど、でも唐揚げなんですよね。この地方のトンカツとか揚げ出し豆腐とかのネーミングってどうなっちゃっているのだろうか、ちょっと興味が湧いてきました。