冷凍庫の海鮮丼と、土曜夕方の麻雀
俺の名は飯田真一。
苗字の通り、ご飯が大好きである。両親からは真っ直ぐに育って欲しいと名付けられ、名付け通り自分に素直に今日も丼を掻き込む。
今日の丼は、解凍して乗せるだけの「海鮮丼」だ。
我が家の冷凍庫にはふるさと納税の返礼品で届いた「海鮮丼の具」が常にびっしりとストックされている。パックごと流水でサッと解凍し、ホカホカのご飯に乗せるだけで手軽に豪華な一杯が完成する、ズボラ独身男の強い味方だ。
だが、どれだけ手軽でも絶対に妥協しないのが薬味である。
この海鮮丼のために、わざわざコンビニでパックの刻みネギを買ってきた。彩り豊かなマグロやサーモンの上に、どっさりとフレッシュな緑をあしらい、山葵醤油を回しかける。
スプーンで豪快に掬い、ご飯ごと口へ運び込んだ。
「……ん、美味い」
プリッとした海鮮の甘みと、ツンと抜ける山葵の風味が口いっぱいに広がる。そして何より、後乗せしたシャキシャキの刻みネギが全体の味を完璧に引き締めてくれる。
今日は土曜日。ニンニクをたっぷり効かせたがっつり系の丼にしたい衝動もあったが、今回はあえてニンニク抜き。
醤油の染みたご飯を噛み締めながら、つい先ほどまでの出来事を思い返す。
◇
今日は大学時代の友人たちと久々に集まった。
サークル仲間だった男5人のグループなのだが、気づけば俺以外の4人は全員結婚し、いまや子供のいるお父さんだ。
今日も本当は5人で集まるはずだった。だが直前になって、メンバーの一人である北野から「息子が急に熱を出した」と連絡が入り、急遽来られなくなってしまった。
子供がいると、当然夜の飲み会は難しい。
というわけで、昼間に集まってランチを食べ、午後はみんなで雀荘へ向かった。大学時代、サークル室で空きコマに打っていた麻雀が懐かしくてたまらない。当時の俺は麻雀があまり得意ではなく、学生時代はいつも、北野とペアを組んで知恵を借りながら打っていたものだ。
夕方、家族の待つ家へと帰っていく友人たちの背中を見送りながら、彼らから言われた言葉が耳に残っていた。
「真一は自由でいいよな〜。あえての独身貴族って感じで羨ましいわ」
あえて、なんかじゃない。
社会人になってからというもの、仕事に追われるうちに気づけばまったく彼女ができていないだけだ。独身貴族を気取っているつもりなんてサラサラない。
(……このままでいいのかな、俺)
友達の家族の話を聞くたび、胸の奥が少しだけチリッと痛む。
友人と別れたあと、帰り道でパックネギを買いながら、俺はある決意を固めていた。
◇
海鮮丼の最後のひと粒まで綺麗に平らげ、「ごちそうさでした」と静かに呟く。
ニンニクを我慢したのには理由がある。
器を洗い終えたら、さっそくパソコンを開いてみよう。明日、日曜日に参加できる婚活パーティーを検索するために。
出会いの場に飛び込むのは少し緊張するが、自分に素直なのが俺の取り柄だ。
明日の夜は、果たしてどんな気持ちで丼に向き合っているのだろうか。
期待と少しの不安を抱えながら、俺は空になった丼を片付け始めた。
お読みいただきありがとうございます!
次回も更新します。
「続きが気になる」と思っていただけたら、ブックマークや評価(下の☆)をいただけると、とても励みになります!




