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獣人と親子

「また会ったな、小娘。まさか王宮に忍び込むとはな」

レイヴンがニタリと口角を上げる。

傲慢な態度とは裏腹に、構えに隙はない。

『ミイナ殿は丸腰でござる。下がっているでござるよ』

クロスケが一歩前に進み出る。

『ああ。俺たちに任せろ』

モノも、クロスケの隣に並び立つように躍り出た。

「まさか、猫と案山子が俺の相手をするのか?」

レイヴンは、今度は堪えきれずに噴き出した。

『舐めてるでござるな』

『ああ。俺たちも落ちぶれたもんだ』

モノとクロスケの怒りとは裏腹に、レイヴンはさらに悠長に構える。

「いいだろう。先手は譲ってやる。どうぞ、ご自由にかかってこいよ」

レイヴンは、おどけて手招きをする仕草をした。

『……だってよ』

『なら、遠慮なくいくでござる』

パァン!

クロスケが脚に仕込んだ刀を抜刀し、一直線にレイヴンへと迫った。

不意を突かれたレイヴンは、かろうじてクロスケの一撃を受け止める。

しかし、クロスケの刀は普通ではなかった。

名刀――八咫斬り。

人間時代からクロスケが使用していた愛刀は、正しく使えば鉄すらも容易に切断する。

パキィィン!

甲高い音を立て、レイヴンの剣は切断された。

「なっ!?」

驚愕するレイヴンの顔面に、肉球が迫る。

ドロップキックの要領で、モノが猫魔法“弾き”を顔面に叩き込んだ。

衝撃に押され、レイヴンは数ブロック後ろの通りにまで吹き飛ばされた。

『ざっとこんなもんでござる』

『ざまぁみやがれ』

モノとクロスケが勝ち誇る。

「いいから逃げよう!」

ミイナはモノとクロスケを急かす。

だが、一足遅かった。

三人を囲うようにして、赤燐隊の兵士たちがワラワラと集まってきたのだ。

「大丈夫ですか、隊長」

兵士の一人がレイヴンに肩を貸して起き上がらせる。

「ああ。少し油断した。よく来てくれたな、お前たち」

レイヴンは鼻血を拭いながら言う。

「もう逃げられんぞ。コルソ、来い!」

レイヴンの背後から、犬の獣人が姿を現した。



「そこまでです」

女性の声が響いた。

ペルシャだった。

彼女は通りの角の屋根の上に立っていた。

「コルソさん。貴方の家族は解放しました。もう従う理由はありません。貴方は自由です」

ペルシャの宣言に、一同は驚愕する。

「馬鹿な! そんなはずあるか!」

レイヴンと他の兵士は狼狽える。

「よかった!」

ミイナは安堵の息を吐く。

「よくぞ……ありがとう……」

コルソは感謝の涙を流していた。

ブチッ!

コルソは首輪を引きちぎる。

そして、レイヴンの顔面に鉄拳を叩き込んだ。

「ぐえっ!」

レイヴンは潰れたカエルのような声をあげ、再び後方に吹き飛ばされた。

「ひいぃ! ダメだ! 逃げろ!」

兵士たちは恐慌状態だ。

『弱いものいじめみたいでござるな……』

『気がひけるぜ……』

そのあとは一瞬だった。

逃げ惑う赤燐隊を追撃し、コルソが殴り、クロスケが斬り、モノが肉球で弾いた。

こうして、赤燐隊は壊滅した。



少しして、一行はホラーハウスにいた。

赤燐隊は壊滅させたし、尾行がないこともペルシャが確認していた。

「ペルシャさん!」

ミイナは思わず、ペルシャに抱きついた。

「おかえりなさい!」

「ええ。ただいま戻りました」

ペルシャはそっとミイナの頭に手を置く。

「無事に帰ってきてくれて良かった! フィリアさんも!」

ミイナは今度はフィリアに抱きつく。

「あらあら、ミイナさん。死臭が移ってしまいますわよ」

「いいえ。ラベンダーのいい香りです」

「まあ。うれしいわぁ」

フィリアも嬉しそうだった。

部屋で抱き合っているのは、ミイナたちだけではない。

部屋の奥ではコルソが、一回り小さい女性の獣人と、さらに小さい子供の獣人を大きな腕で抱きしめていた。

コルソの妻と娘だ。

「お前たち! よくぞ無事でいてくれた!」

怖い顔には似合わず、コルソはポロポロと涙をこぼしている。

「お父さん……痛いよ……」

「そうよ……あなた……力強すぎ……」

抗議する妻と娘だが、コルソは一向に力を緩めない。

「二度と、二度と離れないぞ!」

「本当に良かったです! ペルシャさん、どうやって助け出したんですか?」

ミイナが問いかける。

「正面からですよ。王宮で騒ぎを起こしてくれましたので」

ミイナは目を瞬かせる。

「正面から……?」

「ええ」

ペルシャは淡々と頷いた。

「赤燐隊の大部分が王宮周辺に集結しているのは掴んでいました。そこに貴方達が潜入して騒ぎを起こした。結果、港の警備が薄くなった」

『つまり……囮にされたってわけだな』

「結果的には、そうなりますね」

悪びれる様子もない。

「その隙に、赤燐隊が管理していた獣人収容区画を制圧しました」

「……コルソさんの家族以外も?」

「全員です」

短く、はっきりと。

部屋の空気が変わる。

「……恩に着る」

「同じ獣人のよしみです」

「じゃあ……ラニスタさんは……」

「最初から罠だったようですね」

即答だった。

「第三王子派。しかも、かなり賢い。貴方達が来る前から察知されていたようです」

「もう、王宮には近づけませんね」

「ええ」

「ですが――」

ペルシャはミイナを見る。

「あなた達が探していた“乳母”について、候補の三人には会えたのでしょう? 目星はついているのですか?」

「……はい」



『流石はミイナ殿でござるな。それで本命は誰でござるか?』

「ディエスさん……だと私は思う。消去法だけど……」

『消去法ですか?』

「うん。三人とも身長は同じぐらい。髪も変えられる。でも年齢が合わないラニスタさんは除外。泣きぼくろが逆で、指輪が見えなかったハーベルさんも違うと思う」

「ディエスさんだけ、年齢にも泣きぼくろにも矛盾しない。火傷で泣きぼくろが消えちゃったんだよ、きっと」

『でも待てよ。ディエスも指輪に気づかなかっただろ?』

「うん。でもね。あれは嘘だと思う。あの時、確かに指輪に触れたの。触ることができたの」

「知らないふりをする事情があったんじゃないかな。ニイナは奴隷時代の名前だから、通じなくても不思議じゃないし」

『なるほどな。もう一度問い詰める価値はありそうだな』

『明日の朝イチで行ってみるでござるよ!』

「うん。行ってみよう」

閉塞していた事態が動き出し、部屋全体が明るくなった気がした。

ミイナは、これから物語が動き出す予感に胸が高鳴るのを感じていた。

――翌朝、

ディエスが死体となって発見されるまでは。


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