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エステラと青い炎

扉を潜ったミイナたちが目にしたのは、石造りの広い空間だった。

今度は細い橋も、闘技場もない。

ただ、歪な円形の空間が広がっている。

部屋の中央には、例の水晶玉が置かれていた。

そして、先ほどの部屋と違う点がもう一つある。

部屋の四隅の壁に、水晶玉が埋め込まれているのだ。

「やっぱり、これで起動するんだよね?」

ミイナは中央の水晶玉に近づき、そう言った。

『ああ。そうだろうな。やってみるか?』

モノが続ける。

「そうですね。この中で、体外にエステラを放出できるのは、モノとミイナさんだけですから」

『大丈夫でござる。何があっても、皆がついてるでござるよ』

ペルシャとクロスケも頷いた。

「……うん。じゃあ、やってみる」

ミイナが水晶玉に手をかざす。

すると、また、いつもの吸い取られる感覚。

エステラを吸収した水晶玉は、橙に鈍く光り出した。

「なるほど」

急に、部屋全体に声が響く。

次の瞬間、水晶玉から人影が飛び出した。

橙の光を放つ半透明のその人物には、実体がないことが一目で分かる。

肩までかかる金髪を無造作に垂らし、整った顔立ちに灰色の目。

身長は高く、細身の体にローブを纏っていた。

『ハイランド……』

モノがそう呟く。

しかし、幻影ハイランドはモノを見ていなかった。

ミイナを、じっと見つめている。

「得意属性は“水”、竜血特性は無し。まだまだ、未熟者のようですね」

「貴方に相応しい試練は、これです」

その言葉と同時に、右手が水晶玉に吸い付いた。

「え? 外れない!」

ミイナは困惑の声を上げる。

右手から、どんどんとエステラが吸い取られていくのを感じた。

同時に、壁に埋め込まれていた水晶玉が発光する。

そして、水晶玉は青い炎を噴き出した。

「自らのエステラで、焼かれるがいい」

幻影ハイランドはそう言うと、青い炎に包まれる。

瞬く間に、人型の炎そのものへと変化した。

ミイナは、石麦村の火炎男を思い出していた。



水晶玉は依然として、ミイナからエステラを吸い上げている。

火の勢いは、ますます強くなっていった。

『ミイナ殿!』

クロスケは跳躍し、青い炎と化したハイランドを両断する。

幻影ハイランドは、その場で消滅した。

しかし、すぐさま青い炎の中から、新しい人影が現れる。

しかも、メラメラと青い炎を纏った人型は、一人ではない。

三人、四人、五人と数を増していく。

「無駄ですよ。物理攻撃は通用しません」

「ミイナさん! エステラを止めてください!」

「やってるんだけど、止まらない!」

ペルシャの問いに、ミイナは叫ぶように答えた。

その間も、右腕からエステラは吸い取られ続ける。

火の勢いは、さらに増していく。

青い炎の人影は、ゆっくりと歩いて近づいてきた。

『ペルシャ! クロスケ! いくぞ』

「はい」

『承知』

モノ、ペルシャ、クロスケの三人は、青い炎の人影に斬りかかる。

損傷した人影は一度は消滅するが、壁際の炎の渦から、また出現する。

その炎の渦も、次第に勢いを増し、狭まってくるように見えた。

(どうしよう……私がエステラを制御できないせいで、皆が……)

ミイナの額に、汗が滲む。

(考えろ……考えるんだ……)

ミイナは状況を打開しようと、高速で思考を巡らせた。

(魔術の火、物理攻撃は通用しない、エステラを吸い取られる……)

(エステラが無くなったら助かる? ……いや、そんな甘いわけない。逆に、尽きる前に何とかしなきゃ……)

(扉の文言は【魔術師がいない場合は引き返せ】。魔術師がいれば、なんとかなるってことだよね)

様々な思考が、頭の中を駆け巡る。

その中で、ミイナが思い出したのは、石麦村の火炎男のことだった。

(あの時は、どうしたんだっけ……? ナディルさんが倒してくれたんだ)

“火は水に勝てない。子供でもわかることです”

ナディルの言葉が、脳裏に浮かぶ。

(火、水、ナディルさん……ナディルさん?)

「そうだ! ナディルさんだ!」

ミイナは、思わず声を上げた。

『なんだ? ナディルがどうした?』

モノが問いかけるが、説明している暇はない。

ミイナは左手で外套のポケットを探り、拳大の球を取り出した。

一か八かの賭けだ。

取り出したそれは、“空玉”だった。

かつて、ナディルから師弟の証としてもらった宝玉。

握るとエステラを強制的に吸い上げ、雨雲を宝玉の中に発生させる魔道具だ。

「お願い……!」

ミイナは空玉を左手で握り、エステラを流し込むように集中した。

空玉の中で、雨雲がもくもくと育っていく。

反対方向へエステラが流れ出したためか、火の勢いが僅かに弱まったように感じた。

宝玉の中では、黒雲が雨を降らせている。

「……まだまだ!」

さらにエステラを流し込む。

空玉は渦巻く黒雲で真っ黒に染まり、内側から押し付けられる。

「ほう。面白い物を持っていますね」

幻影ハイランドの声。

「ですが、一度ついた火は消えませんよ」

「大丈夫! 水は火より強いんです!」

ミイナはそう答えると、左手に力を込めた。

「ごめんなさい! ナディルさん!」

ミイナは空玉を地面に叩きつけた。

ピシッ、と空玉に亀裂が入る。

そこから、黒雲がもくもくと噴き出していった。

黒雲は、氷と水の粒の塊だ。

ミイナは、ナディルとの修行で、水を浮かせるところまでは習得していた。

(水と同じ!)

そう念じ、左手で黒雲を誘導し、青い炎へと衝突させる。

ジュゥゥゥ、と音を立てて火が消えていく。

黒雲は、まだ止まらない。

「えい!」

掛け声と共に、黒雲を部屋の周囲へ巡らせた。

あっという間に、部屋全体が黒雲に包まれる。

ジュゥゥゥ、と水が蒸発する音。

だが、黒雲の質量が勝った。

雲が消え去る頃には、青い炎は完全に鎮火していた。

「やられました」

再び、橙の光を放つハイランドの幻影が現れる。

「貴方は魔術師ではない。まだまだ未熟だ。ですが、その資質はある。先へ進みなさい」

そう言うと幻影はふっと消え、部屋の奥の壁がぼんやりと光り始めた。

扉が現れたのだ。

「や、やった……」

水晶玉から解放された右手を撫でながら、ミイナはへたり込む。

『やったでござるな! ミイナ殿!』

「ええ。機転が効きましたね」

『大丈夫か?』

三人が駆け寄ってくる。

「うん。大丈夫。でも、ナディルさんに謝らなきゃ……」

『大丈夫さ。きっと分かってくれる。みんなの命を救ったんだ』

「そうだよね……そうだといいな……」

「ええ。ですが、まずは先に進みましょう。この試練を攻略しないと、外にも出られませんよ」

「はい」

ミイナはそう言うと、ひび割れて透明になった空玉を拾った。

それは、熱を失い、冷たく感じられた。


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