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すべてを失った令嬢は騎士の愛を選ぶ——その愛は、もういりません  作者: 円花なまり
第二章 明日を数える日々

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12/24

12. 令嬢である前に

畑は、玄関を出てすぐの横、厩との間にあった。大きさは屋敷の敷地面積よりも少し狭いだろうか。着替えを済ませ、頭に布を巻いて外に出ると、グランツ卿が畑に面した家の壁の所に椅子を用意していた。


「どうぞ。こちらにお座りください」

「いいえ! 手伝うのに座っている訳にはいかないわ!」

「今からしてもらうのは、座って出来る手伝いです」


 そう言って彼は、この間納屋に運ばせた緑色のじゃがいもが入った箱を持ってきた。


「これを、大きいのと小さいのと、萎びている物に分けてください」

「それでいいの? 大きいものを分けるのは半分に割るの?」

「よくご存知で」

「ふふ、本で読んだことがあるの」


 正確には、前世で火星で遭難する映画を観たから、芋の植え方を知っているのだ。


「こちらでナイフで半分に切っておきましょうか?」

「ナイフは使ったことは?」

「あ……う……流石に、ないわね」


 包丁なら前世で使っていたが、今世では触った事もなく、ナイフなんて前世でも今世でも触ったことがない。


「それは俺がしましょう。俺が畑を耕している間に仕分けをお願いします」

「分かったわ」


 椅子に座って、箱からじゃがいもを取り出し、大きさを確認して分けていく。そうしている間に、グランツ卿は納屋から鋤を取り出し、地面に刺して畑を耕し始めた。


「鍬で耕すのではないのね」

「あれも耕すための道具ですが、どちらかと言うと畝を作ったり整地するのに使います。芋を育てるのなら、深くまで掘らないと」


 そう言って、グランツ卿は鋤を突き刺し、足で踏み締めて深くまで鋤の先を畑に差し込む。おお、流石、それだけ力があるのかと目を丸くする。

 じゃがいもを手に取り、小さいもの、大きいものと分けていくが、中くらいの物が出てきて、むむむと眉根を寄せる。


「グランツ卿、この大きさはどう思う?」


 畑を耕していたグランツ卿が、首に掛けたタオルで汗を拭きながら頭を上げてこちらを見る。


「それくらいなら、小さい方で」

「判断に迷ったらどうすればいい?」

「……半分に切った時に小さいのと同じ大きさになるか、どうか」

「分かったわ」


 しかし、椅子に座って一個ずつ確認するのは埒が明かないな。……よし、と判断して椅子から立ち上がり、じゃがいもを前に腰を据えた。ごそっと量を取り出し、目についた大きいものや萎びたものを弾いていく。


「……汚れますよ」

「汚れてもいい服だから、大丈夫よ」


 着ているのは護送中に来ていた、町娘の服装。恐らく上等な部類に入るのだろうけど、他の持って来た服が良さそうなものばかりなので、汚せるのがこれしかない。


「グランツ卿、分け終わったわ」

「ありがとうございます」

「他に何を手伝えばいい?」


 鋤を地面に差して息をついた彼が、畑を見ながら考える。


「休んでいて構いません」

「それは駄目よ。まだじゃがいもを植え終わってないでしょう?」

「畑は思ったよりも荒れてないので、耕したらそのまま畝を作ることが出来そうです。問題は肥料ですが……」

「流石に、畑をやるとは言ってなかったから伯父様が用意しているとは思えないわ」


 畑から敷地全体を見回す。厩、無さそうだ。納屋にも、恐らく堆肥置き場に見える場所にも無いから、無さそうだ。


「どうする? 街に買いに行く? お金なら出すわよ」

「一緒に街に行けそうですか?」


 グランツ卿の言葉に首を横に振る。


「長くは歩けないし、そこまでの体力は無いわ。もし良ければ留守番するわよ」

「いいえ、まだ来てばかりで状況が分からない土地にあなた様を一人にする訳にはいきません」

「そう。では近所に堆肥を分けてもらう? と言っても、ご近所の家は見当たらないわね」

「………………」


 顎に手を当てて考えたグランツ卿が、はた、と何か思い付いたようで、鋤を壁に立てかけ、納屋へと向かう。取り出したのは大きなスコップだ。


「どうするの?」

「落とし物を使います」

「?」


 そのままグランツ卿が歩き出すので、後を追いかける。塀の外に出たグランツ卿が、スコップを手に地面を探している。そして見つけたそれを掬って持ち上げた。


「まぁ、馬糞ね」


 無言で掬ったそれを持って、彼は敷地まで戻ってくる。独特の芳しい香りに鼻を顰めた。


「これを畑に混ぜ込みます」

「なるほど……これはそのまま使っていいの? 糞を堆肥にするなら一度発酵させるか消毒するのではなくて?」

「よくご存知ですね。少量ならこのまま混ぜ込んでも支障はありません。他の野菜なら栄養が足りないですが、芋は痩せた土地でも育つので、これくらいで問題はないでしょう」

「そうなのね」

「ですので、休まれていてください。後は俺がやります」


 そう言って、グランツ卿はスコップに載せた馬糞を持って畑へ向かってしまった。一人で運ぶのは効率が悪いだろう。肥料が少ないのであれば、少しでもかき集めて使う方がいい。……馬糞なら、肉食や雑食動物と違ってそこまで臭わないし。そう判断して納屋から小さいスコップと塵取りを取り出し、敷地の外に出て青々とした草の間に落とされた物体を見つけ、掬おうとした。……が。


「な、何をしているのですか!!!?」


 掬う手前で大きな腕が私の腕下を通り、引き寄せるように持ち上げられた。ぶらりと宙に浮いた足をそのままに、グランツ卿を見上げる。


「手伝い」

「そんなことしなくていいです!!」

「二人でやった方が効率的でしょう?」

「あなたは触ってはいけません!!」

「どうして? 令嬢が馬糞に触ってはいけない法律なんてなかったはずよ」

「法律はなくても俺は嫌です!!」


 随分焦った顔でこちらを見下ろしてくる。


「姫君だって自覚はあるのですか!!」

「それは、ある、けれど」

「ならばおやめください」

「今ここにはあなたと私しかいないのよ? ならば、使えるものは使うべきではなくて? 働かざるもの食うべからず、とも言うわ」

「体調の悪い姫君を使おうとは思いません」


 戦力外通告だ。す、と視線を下げて力を抜くと、足が地面に下ろされた。


「すみません。手が汚れていたので咄嗟に腕で抱えました。気分を害したのなら謝ります」

「いいえ。それは別に構わないわ。他に手伝うことは?」

「ありません。どうか中で休まれてください」

「……分かった」


 グランツ卿と視線を合わさず、屋敷の中へと入る。ため息を吐いて頭の布を外し、汚れた部分が付かないようにしてソファーに倒れ込んだ。

 暖炉では、まだ小さな火種がパチパチと言っている。


「そりゃ、明日はどうなるか分からない身よ。でもお姫様だからって何もしなくていいのは違うと思うけどなぁ」


 今日は、今は体が動く。ならば動けるうちにやっておこう。が、私の信条だった。だから、動けなくなって色々迷惑を掛ける前に、出来る限りのことは手伝おうと思ったのだ。

 公爵家の屋敷でも「お姫様だから」「お嬢様だから」でさせてもらえなかったり、そんなことするなんてありえないと言われたり、視線を投げられた。コーヒーだって、男性の趣味だとか、お嬢様がやる物じゃないとか言われながら、何とか死守したものだ。……彼は、グランツ卿は、それを見て笑いもしなかった。庶民で農村出身と言っていたから、知らないだけかもしれないけど。


「はぁ…………」


 ため息を吐いて起き上がる。出来る、と言うことを証明すれば、グランツ卿はさせてくれるだろうか。


「昼食は、まだ作ってないわよね?」


 キッチンに行って鍋の蓋を開ける。朝作ったスープがまだ残っているが、他に作っている様子は無さそうだ。


「よし」


 腕まくりをして、貯蔵庫へと向かう。出来ると言うことを、証明しなければ。

繁忙期に入りましたので来週から更新は水土の予定です。少し時間がかかりますがお待ち下さい。

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