第93話 教えるという戦い
北方同盟・前線都市ヴァルグリム。
空はまだ歪んでいる。
だが、崩壊は止まっている。
人が、人を支えているからだ。
アルカが静かに言う。
「……でも」
「安定してるのは、ここだけです」
カルディアが頷く。
「他地域ではばらつきが大きい」
ミヒャエルが腕を組む。
「つまり」
「“できる人”と“できない人”がいる」
ラグスが言う。
「そりゃそうだ」
アルトはリシアを見る。
「どうする」
*
リシアは少しだけ考えた。
そして言う。
「簡単にする」
沈黙。
アルカが首を傾げる。
「……簡単に?」
リシアは頷く。
「今のは難しい」
一拍。
「感覚に頼ってる」
カルディアが言う。
「確かに」
「再現性が低い」
ミヒャエルが言う。
「訓練が必要だな」
リシアは首を振る。
「違う」
一歩前に出る。
「誰でもできる形にする」
*
ラグスが笑う。
「言うのは簡単だな」
リシアは真っ直ぐに言う。
「やる」
沈黙。
*
アルトは頷いた。
「やれ」
*
リシアは兵士たちの方へ向かう。
先ほど助けられた男の元へ。
「大丈夫?」
男はまだ震えている。
「……ああ」
「怖かった」
リシアは優しく言う。
「うん」
一拍。
「でも、戻った」
男は小さく頷く。
*
リシアは周囲の兵士たちを見る。
「聞いて」
全員が彼女を見る。
「難しいことはしなくていい」
一拍。
「やることは三つ」
指を立てる。
*
「一つ」
「触れる」
兵士たちが頷く。
「二つ」
「声をかける」
アルカが小さく呟く。
「……同じ」
*
リシアは続ける。
「三つ」
一拍。
「一人にしない」
沈黙。
*
その言葉が、空気を変える。
ラグスが笑う。
「シンプルだな」
カルディアが静かに言う。
「本質です」
ミヒャエルが頷く。
「これなら広がる」
*
リシアは言う。
「それだけでいい」
「全部やろうとしなくていい」
一拍。
「できることだけでいい」
兵士たちの表情が変わる。
恐怖から――
「できるかもしれない」へ。
*
その時。
別の場所で、また崩壊が始まる。
兵士が一瞬、躊躇する。
だが――
走る。
触れる。
「戻れ!」
仲間も来る。
「大丈夫だ!」
「一人じゃない!」
*
ドクン。
光が揺れる。
崩れない。
アルカが叫ぶ。
「……成功!」
カルディアが言う。
「再現されています」
ミヒャエルが笑う。
「これだな」
*
ラグスがアルトを見る。
「いいの拾ったな」
アルトは答える。
「必要だった」
*
リシアは静かに言う。
「怖いのは変わらない」
一拍。
「でも」
「一人じゃなければ耐えられる」
沈黙。
*
その時。
遠くで、また歪みが生まれる。
だが今度は違う。
人が先に動く。
支える。
広がる。
アルカが震える。
「……早い」
カルディアが言う。
「学習しています」
ミヒャエルが呟く。
「文化になるな」
*
アルトは空を見る。
歪みはまだある。
カイネスも消えていない。
だが――
(変わった)
*
その時。
空間が歪む。
ラグスが笑う。
「来たか」
カイネスが現れる。
だがその表情は、前とは違う。
少しだけ、苛立っている。
*
カイネスは街を見る。
人が人を支えている光景。
「……面倒だな」
アルトを見る。
「増えたな」
アルトは答える。
「広がった」
*
カイネスは笑う。
「だが」
一歩前に出る。
「それでも限界はある」
沈黙。
*
カイネスが手を上げる。
ドクン!!
空間が歪む。
だが今度は――
一点ではない。
広範囲。
都市を超える規模。
アルカが叫ぶ。
「……大規模反応!」
カルディアが言う。
「同時多発!」
ミヒャエルが低く言う。
「来たな」
ラグスが笑う。
「次の段階だ」
*
カイネスが言う。
「見せてやる」
一拍。
「“維持できない世界”を」
沈黙。
*
アルトは一歩前に出る。
「なら」
一拍。
「維持してみせる」
*
ドクン。
世界が揺れる。
今度は都市ではない。
“領域”を越えた戦い。
*
リシアがアルトを見る。
「いける?」
アルトは答える。
「やるしかない」
*
物語はここから――
「文化 vs 崩壊」
次のフェーズへ入る。
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