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スキルなしと追放された俺、辺境で目覚めたのは〈領域支配〉だった 〜帝都が気づいた時には、もう遅い〜  作者: 影山クロウ


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第78話 戻れる接続

第三階層・世界核外殻。


新しい鼓動が、確かにそこにあった。


ドクン。

ドクン。


先ほどまでの圧し潰すような脈動ではない。

重さはある。

だが、流れが一方向ではなくなっている。


世界核の表面を走る光の線が、複雑に絡み合いながらも、

どこか“循環”の形を取り始めていた。


アルカが震える声で言う。


「……振動波形」

「戻り成分が発生しています」


ミヒャエルが問う。


「戻り成分?」


カルディアが答える。


「接続した意識が、世界核側へ流れるだけではなく」

「個へ戻る流れができている」


ラグスが低く笑った。


「つまり」

「飲み込まれっぱなしじゃなくなったってことか」


「ええ」


カルディアは頷く。

だが、その表情は硬い。


「理論上は」



アルトはまだ世界核外殻に手を触れたままだった。


視界の端で、UIが静かに更新される。


【世界核接続:双方向化】

【個体還流率:13%】

【構造安定度:低】


(低いな)


戻れる道はできた。

だが、まだ細い。


ゼノスが、静かにその数値を見ているかのように言った。


「細い橋です」


アルトは答える。


「最初はそういうものだ」


「その橋に、文明を乗せるのですか」


「乗せる」


一拍。


「橋を太くする」


ゼノスは、少しだけ目を細めた。


「興味深い」



その瞬間。


世界核内部から、いくつもの光が浮かび上がった。


人の輪郭。


揺らぎながら、外殻の内側に立っている。


アルカが息を呑む。


「……三百年前の接続者」


カルディアが低く言う。


「残滓ではありません」


「意識体です」


ラグスが剣を構えかける。


「出てくるのか」


「違う」


アルトは静かに制した。


「戻ろうとしている」


沈黙。


光の輪郭の一つが、確かにアルトへ手を伸ばした。


その動きには、敵意がない。


ただ――

帰還を求めるような、必死さがあった。



アルトは世界核へ、さらに深く接続した。


ドクン!!


新しい鼓動。

その中に、声が混じる。


『……まだ』

『……外があるのか』

『……私たちは』


断片的な声。

個の言葉。

集合へ沈みきらなかった意識。


アルトは言う。


「戻れる」


ゼノスが即座に返す。


「戻して、何になるのです」


「人になる」


「それは退化です」


アルトは首を振る。


「違う」


一拍。


「選択だ」



カルディアが前に出る。


「ゼノス」


「あなたは“個が消えること”を恐れていない」


「ええ」


「なぜ」


ゼノスは、世界核を見上げた。


「孤独が消えるからです」


沈黙。


アルカが小さく息を止める。


ゼノスは続ける。


「個は境界を持つ」

「境界は摩擦を生む」

「摩擦は恐怖を生む」


アルトが静かに言う。


「境界は、文明も生む」


ゼノスの瞳が揺れる。


「文明は、恐怖の副産物です」


「それでもだ」


アルトは世界核に触れたまま、はっきり言った。


「恐怖があるから、人は選ぶ」

「選ぶから、責任が生まれる」

「責任があるから、個は文明になる」


第三階層の空気が張り詰める。



その時。


外殻の一部が、大きく脈打った。


ドクン!!!!


アルカが叫ぶ。


「還流率上昇!」

「二十二%……三十!」


カルディアが装置を見つめる。


「戻りが始まっている」


光の意識体の一つが、明確な人の形を取った。


古代の衣。

女性の輪郭。

顔はまだ曖昧だが、確かに“個”がある。


ラグスが呟く。


「……戻ってきてる」


ミヒャエルが震える声で言う。


「双方向接続……本当に成立するのか」


アルトは、苦しげに息を吐いた。


負荷が大きい。


世界核全体が、彼の構造に反応している。

だが同時に、彼自身もまた、世界へ引き込まれかけていた。


視界の端に、警告が灯る。


【個体境界:希薄化】

【接続過負荷:上昇】


(長くは持たない)



ゼノスが、その警告を見透かしたように言った。


「あなたも危うい」


「分かっている」


「そこまでして、個を残す理由は」


アルトは、ゆっくり答える。


「戻れるからだ」


「……」


「個であることは、孤独ではある」

「だが」

「帰る場所があるということでもある」


沈黙。


世界核の光が、再び強く脈打つ。


ドクン。

ドクン。


今度は先ほどより安定している。


アルカが数値を確認する。


「還流率、三十八%」

「振動安定度、微増」


カルディアが小さく呟く。


「……可能性がある」



光の意識体の一つが、ついに言葉を発した。


『……名前を』


その声はかすれている。


『……思い出せる』


ラグスが目を見開く。


アルカは、口元を押さえた。


三百年前に沈んだ“個”が、

戻り始めている。


ゼノスは、その光景を静かに見つめていた。


やがて、低く言う。


「それが、あなたの進化ですか」


アルトは答える。


「そうだ」


「世界と繋がりながら」

「個であることをやめない」


ゼノスは、しばらく黙っていた。


その沈黙は、否定ではない。

理解でもない。


ただ、未知を見ている者の沈黙だった。



その時。


第三階層全体が、低く唸った。


ドクン……ドクン……


鼓動が変わる。


アルカが叫ぶ。


「待って!」

「深層振動、別系統反応!」


カルディアが顔を上げる。


「……別系統?」


観測装置に、新しい波形が走る。


世界核の鼓動とは違う。

もっと鋭く、もっと不規則な脈動。


視界の端で、アルトのUIが更新される。


【未知の接続反応 検出】

【位置:世界核深層】

【分類不能】


ゼノスの表情が、初めてわずかに変わった。


「……早い」


アルトが問う。


「何がだ」


ゼノスは、世界核のさらに奥を見た。


「原初接続者ではない」


沈黙。


「もっと古いものが、起きる」


ドクン。


世界の心臓の、そのさらに奥で。


何かが目を開こうとしていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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