56プレイ目 ルルイエ
椛やタグが仲良くなった闘技場にいるプレイヤーたちに「最近あんまり参加してないよな」と言われて、レベル上げのほうに注力していることを伝えると、同じようにレベル上げもする者が増えた。
みんな、闘技場は楽しいけどレベル上がらないなとは思っていたらしい。
しかしここを離れなくてもレベル上げが出来るのなら、少しずつでも上げたい。レベルの上昇で覚える技もあるし、入手した素材で装備の強化だって出来る。
分かっていても闘技場から離れがたくなっていただけなのだ。
「なんか流行の発信源になった気分」
「通り魔の爆弾情報と違って平和だ」
「…そうですね」
一生擦られそうだ。
そして今はソロで効率良くレベル上げをしているが、レベルが45を越えたらダンジョンの攻略を一緒にしようぜと盛り上がっていた。
たまにはそういうのもいいなと椛も思う。
召喚獣たちのレベル上げもしたいので、椛は他のプレイヤーよりレベル上げの比率が大きくなってしまうのだが。
「海のエリアボスが強え…」
「レベルいくつだっけ?」
「40だよ。でも水中戦なんだよ!ダンジョンのボスもきっと強えよ!」
ある日、椛がプレイヤーたちに訴えると、誰もが考えるように目をそらし、どういう意味か悟って遠い目になった。
「レベル45推奨のダンジョンがクリア出来るわけなかった」
陸のエリアボスはどこに行ってもレベル30前後なのだが、海のエリアボスは40前後になっていた。
レベルが上がるだけで難度も上がるものだが、水中戦は多くの者が苦戦するほど癖が強い。上手く動けるようになるだけでも一苦労なのに、強力なボス戦が簡単なわけがなかった。
椛はプレイヤーと違って水中でもすいすい動ける召喚獣たちと戦ったのに、初戦で負けて来たところだ。
海に戻る気が失せて、闘技場にいた知り合いたちに訴えたのである。
「エリアボスがスピードタイプっぽいのもあったかもだけど、びゅんびゅん泳ぎ回るから水流が荒れて、ただでさえ動きにくいのに翻弄される木の葉のよう…!」
「あー、なんとなく想像ついた」
「ダンジョンのボスはなんだっけ?」
「タコっぽいはずだけど、手下の小魚を召喚するって組合の資料にあった」
「びゅんびゅんか…」
「びゅんびゅんだろうな…」
攻略準備のつもりで調べた者がいたが、資料を見ただけでは分からないこともあるということだ。
手下の小魚召喚で気付くほうがどうかしてる。
「ハトロワの海底ダンジョンは簡単だったけど、あれチュートリアルの範囲だった…?」
「水中戦のチュートリアルかあ」
「あそこは海のエリアボスはいなかったっけ?」
「外海にいるんじゃなかった?」
「あの辺、深海の主どんがよくうろついてるじゃん…」
怪物の縄張りでボス戦なんて、椛は嫌だった。たとえボス戦はインスタンスエリアになるから、乱入されることはなくても。
一度でも遭遇したことがあれば、あんなところに近づきたくないと同意しか返らなかったものだ。
「水中での動きも練習しなきゃ…やる事が、やる事が多い…!」
「水中戦は全て捨てるのもアリじゃね?」
「これみよがしに海のエリアボスがすごい素材をドロップした時、君は同じことが言えるのかね?」
「集めるしかないじゃん…!」
きっと絶対ある。妙な確信だけはあった。
「そうだ、海の騎獣に乗って戦うって手もある可能性が…!」
「騎士系に転職しないと無理だろ」
「ハイレオン帝国で訓練を受けると覚えられるかもって噂なら聞いた。ほら、木こり体験みたいに、練習すると覚えられる可能性が」
「帝国かあ。遠すぎる…」
大陸の反対側なので、普通に行くとそうなる。
「片道だけ陸路で、帰りは禁断の転移門を使えば」
「1万Rなら、断腸の思いで出せなくもないの汚え設定に思えて来た」
「時間を金で買うんだな」
それも噂が本当だったと証明されて、海の騎獣に乗る戦法に効果があった時の話だ。
推測にすぎないが、何か打開策が欲しい気分だった。
エリアボスどうしようかなと椛が冒険者組合でクエストを見ながら考えていると、何故かフレッド団長が現れた。
お忍びスタイルのつもりなのか、トレンチコートに中折れ帽、そしてサングラスという怪しい男の定番セットを身に着けている。
「ちょっと頼みがあるんだ」
「せめて人気俳優のお忍びスタイルを参考にできなかったの?」
「な、この服のどこが駄目だと!?」
「逆に何を参考にしたのか…」
受付嬢がちらちらと目を向けて来ているが、あれは怪しんでいるのではない。正体がバレているだけだろう。
憧れの団長様という雰囲気もないが。
「この間の写真集、じっくり見てみたいんだ。あの後、君の意見も一理あると思い直して参考にさせてもらおうかと。ファンたちに聞いたら、逆にどこで見た!?と目の色を変えたから、もちろん誤魔化したぞ!」
「あー、なんかお礼の品ですって非売品をもらったんで」
有名な人気俳優の写真集は、非売品以外に存在しなかったらしい。どんだけ貴重なの、と椛も自分のうかつさを反省した。
仕方がないので人目につかない所──先日の店の個室に行くことになった。
今日はタグが飲んでいて美味しそうだったミックスジュースを注文した。フレッドは柑橘系の爽やかな香りのフレーバーティーを注文したようだ。
店員が下がってから写真集を出して差し出すと、フレッドは真面目に見始めた。時々、これが世界一の色男とかつぶやいていたが。
椛はふと気付いてクエストリストを確認した。しっかりランダムクエストが増えている。
『フレッド団長の相談に乗ろう1』とクエスト名も概要もロクなヒントがなかった。
しかも続く気満々だ。
「あ、そうだ。ジークさん、いやジーク様に送ってもらったせいで酷い目にあった!」
「あいつが失礼な真似をしたのか?そんな馬鹿な」
「どういうことかしらーって怖いファンの群れに囲まれた!」
「…仕事で送っただけなのに」
団長もジークの人気は知っていたようで、女性客の送迎を頼むと好評だからと善意のつもりだったことが判明した。
確かに、普通の女性は喜ぶだろう。
その後のアレをどう思ってどう乗り切るものなのかは知らないが。
「次があったら気をつける」
「ないといいな」
「しかしなんでジークばっかりモテるんだ?私はそんなにジークより劣るのか?」
「性格のせいじゃないの?ナンパより硬派が受けるものというか」
「バルジェはどうなんだ!?」
「世界一の肩書きがすごすぎて、比べちゃいけない存在だと思う」
「…確かに。ロイド様も存在の次元が違う」
ランクSSは雲上人なので当然だ。
フレッド団長の場合は、開発の誰かがふざけてこんな性格に設定したのかなと思う。ギャグ要員というか。
近衛騎士団の団長なのに。見た目は良いのに。ランクSなのに。
「そうだ、ランクSのすごい団長なら、ここのエリアボスの倒し方というか、水中戦のコツとか教えて欲しい!」
「ここのエリアボス?なんだったか」
「なんかこう、高速で泳ぎ回って水流がぐるぐるしちゃう奴」
「その水流に乗ってすれ違いざまに攻撃すれば良いだろう?」
あっさり言われた。
強者には弱者の困っている理由が分からないらしい。
水流に翻弄されているのに、冷静に攻撃できたら苦労していないのだ。
水中戦の教官殿、どこかにいないのかな、とちょっとアンセムに帰りたくなった椛だった。
アリエルとアリエナという双子の口癖が「あり得る!」「あり得ない!」だったら一気にギャグだなー、とかくだらないことを考えてた作者はもちろんフレッド団長がお気に入りです




