55プレイ目 ルルイエ
ブローゼスト王国の王家の構成は、国王、王妃、第一王子、第二王女である。
第一王女は嫁に出ているだけだ。王族ということなら他にもいるようだが、部外者の椛が知っておけばいいのはそのくらいだろう。
その王家の四人に流星を披露して来たが、特に王女が「可愛い」「可愛い」と大喜びしていた。
ついでに召喚した月牙を国王が「欲しい」「譲ってくれ」と騒いだせいで流星に嫌われていたものだが。
国王の一件はともかく、常識的な対応だったし、問題も発生せずに終わったので椛はほっとした。
「問題はそこじゃなかった」
「結局問題が起きたのか」
「起きてないけど、衝撃の事実を知っただけだよ!この世界じゃ有名だったけど!」
お城訪問の数日後にタグに「どうだった?」と声をかけられたので、椛たちは闘技場前の広場のベンチに座って話していた。
今日はふたりとも焼き鳥の串を手にしている。
「団長がランクSの猛者だった…」
「あの残念イケメンが!?…いや、あの若さで団長だもんな。強いよな」
「さらにこの国にはランクSSのすげえお方がいらっしゃった…」
「世界に10人しかいない、真の猛者…!」
水竜という魔物を従えている、いわゆる竜騎士だった。
水竜騎士隊の隊長ロイド。それがこの大国の最強の騎士の名前だ。
「しかも団長がモブに見えるレベルの超絶美形だった。スペック高すぎ」
「団長がモブ」
「30代の妻子持ちで、その嫁が元第一王女だって。隙がなさすぎた」
誰がそこまで盛ったのか。
盛りすぎな気がしたものだ。
「王妃様は美魔女だし、王子と王女は美少年と美少女だったんだよ。でも全てが霞んだね」
「相手が悪かったんだよ」
他にも白壁に青い屋根の城は美しかったとか、庭園が広くて花が多くて華やかだったとか、見どころは多かったのにランクSSのインパクトには及ばなかった。
王都も華やかな場所だったし。
「あとはそう、ランクAの普通の騎士団員なんだけど、これまた美青年騎士がいて」
「どんだけイケメンがいたんだよ」
「イケメンは確かに多かったけど、あえて話題にするレベルはこれで終わりだよ。でね、王国最強ほどじゃないなって感じの美青年なんだけど、団長が代わりに送って来いとか仕事を押し付けるから、城から神殿まで送ってもらうハメになって」
「性格が悪かったとか?」
「石頭っぽい生真面目くんだったよ。問題は本人じゃなくてさ」
椛は思い出してげんなりした。
その生真面目くんが「では、お気を付けて」と挨拶を残して去った直後のことだった。
「どういうご関係かしらー、とか言いながら湧いて出た生真面目くんのファンだかなんだかの女たちがさ、根掘り葉掘り尋問して来るんだよ!しかもどんどん増えて、逃げる隙もないし!どんだけモテるんだ!団長に分けてやれよ!」
「ホラー展開になってないか…?」
「ホラーのほうがマシだよ!」
その生真面目くんことジークは、どうやら王都で1番モテる騎士らしいのだ。
王国最強は妻子持ちだから。
「あれは女性ユーザー向けのキャラなのか?あの都は乙女ゲーを楽しむ街って設定なのか?」
「そんな状況で楽しめるもんなのか?」
「乙女ゲー愛好家の逞しさはまた違うっていうか…女は強しっていうか…」
推しのためならあの街で戦い抜ける気がする。椛は闘技場のほうが良い。
「あ、ああいう人たちに団長はどう思うって聞いちゃ駄目だよ。切ない気持ちにさせられること請け合い」
「聞かねえよ…」
団長、ますますモテないんだなと思ったものだ。
「どこかにギャルゲーの街もあるのかな」
「男はもっと直接的な手段を取る生き物だぞ。血の雨が降ってそう…」
「そうッスね…」
美女を巡る男たちの戦い。
想像しただけで行きたくない街ナンバーワンになりそうだった。
勝ち星を貯めて来た椛と流星は、時々メイン会場のほうに出られるようになって来た。
しかし目玉商品の転移プレートのポイントには全く足りないので、交換させる気ないってぼやくプレイヤーたちの気持ちを痛感していた。
「リアルで1年くらい通い詰めれば、交換できるかも?」
「ここ楽しいけど、レベル上げしたくなって来た。ロウガイがレベル50くらいあればランクAになれそうって言ってたし」
「楽しい。シングルバトルもやりたい。でもレベル上げとランクアップ…」
タグがすでに旅立つ気配なので、椛もどうしようかなと考える。他の闘技場三昧なプレイヤーたちとも仲良くなって来たし、居心地は良いのだ。
でも1年もここに住む気はない。
「そうだ。この国にもレベル上げに向いてる海はあるよね。レベル50くらいで海の騎獣と契約できるって聞いた気がする!」
「海の騎獣か。忘れてた…」
椛も今思い出したところだ。
「場所はもうひとつの大きい島の近海って言ってたはずだし、海で大冒険も良さそう」
「そういえば、召喚士限定クエストとか探さなくていいのか?掲示板に情報が増えてねえの?」
「うん。忘れてた…」
召喚士という名の双剣使いなので、うっかり忘れるのだ。闘技場は楽しいし。
闘技場のあるルルイエの街にも冒険者組合や神殿などの施設は存在しているので、ふたりはとりあえず調べてみることにした。
組合まで行って、2階の資料室で島の周辺について、ダンジョンやエリアボス、出現する魔物の推奨レベルなどを一通り調べた。
この辺りは全体的にレベルが高い印象だった。
「お、このダンジョンは推奨レベル45だ。良さそうじゃね?」
「ここらで1番レベルが低いっぽいのもね」
この島でレベル上げをすれば、レベル50も目指せそうだ。
「良し、レベル上げしながら闘技場にも通う!最高か!」
「ここに永住しそうだな」
「タグはどこに旅に出るの?」
「ここでレベル上げするに決まってるだろ!」
結局お前も永住組か、とは言わないでおいた。同類なので。
「でも水中戦の勘を取り戻すの大変そう」
「手探りだった最初よりマシだろ。なんだよ、波を読めって」
「軍服のお兄さんがくれたアドバイスだよ。そういえばあの軍人さんもそこそこのイケメンだったな」
イケメンだなと認識はしたが、興味がなかったので気にしてなかった。イケメンの話題で喜ぶ女性プレイヤーのフレンドもいないし。
「…は!女性プレイヤーのフレンドがいまだにゼロだよ!?」
「ここ、プレイヤーがいても男ばっかりだし…」
「なんで脅威の男性率100%なんだよ!バトル好きな女の子だったら気が合いそうなのに!」
プレイヤーの総数が少ないせいもある。闘技場以外にも楽しい場所が多いので、そちらにバラけて行ってしまうのだろう。
ついでに3000人くらいは禊の最中だろうし。
「ヴィスタにいたお菓子メインで作るつもりーって言ってた料理人の女の子たちと、どうしてフレンドになっておかなかったんだろう…お店も1等地に予約してるって言ってた安全なプレイヤーだったのに…!」
「安全とは」
「腐界の気配がなかった」
椛的重要ポイントである。
男どもは気にしなくていいから、気安く話しやすいというのもあった。
「この国の王都ってブロムだっけ?そこはフカイとやらの気配はなかったのか?」
「イケメン・パラダイス…」
乙女ゲーじゃなくてそっち!?と椛はおののく。
「その可能性はあると思います。怖い…!」
「大変だなー」
タグは他人事みたいに言っているが、お前も奴らの標的だよ!と言いたいのに言えなかった。
説明がめんどくさいので。




