52プレイ目 ルルイエ
闘技場のバトルには、何種類かのコースがある。
シングルバトル、ダブルバトル、ハーフパーティバトル、フルパーティバトルがメインで、職制限のあるものなどもある。
パーティは6人が最大数なので、ハーフは3人までになる。ただし参加可能人数であって必ず3人ないしは6人でエントリーする必要はない。ソロで参加しても構わないのだ。
少人数で参加するメリットがないので、そういう変わり者は少ないが。
逆にダブルバトルはソロでの参加は出来ない。参加させろとゴネる者は稀なので、あまり知られていないルールかもしれない。
椛はエントリー受付で、どうしようかな、と迷っていた。召喚獣も参加者としてエントリー可能だと知ったからだ。
「うちの可愛い愛狼と参加…いやでもまずは基本のソロ…でも流星可愛い!」
「楽しく遊んでからでもよろしいかもしれませんねー」
受付嬢に生ぬるい視線を向けられているが、遊びのつもりはなかった。椛はいつでも遊ぶことに全力だ。
「うちの子、伝説の銀狼なんで!全世界がその可愛さに震撼するはずなんで!」
「それはすごいですね」
「よし、ダブルバトルに決めた!」
椛の戯言を聞き流していた受付嬢は、召喚されたのが本当に銀狼だったので「はあっ!?」と美人がしてはいけない間抜け面を晒していた。0.1秒くらい。
「た、確かに種族は銀狼…ですが、伝説の銀狼は、その、見上げるような巨体だと…」
「あんっ」
「まだ子どもなんだと思うんだ。そのうち大きくなるよね、流星。100年後くらいに」
ゲーム内で流星が成長するのかどうか、椛にも分からない。大きい流星も恰好いいだろうが、今のサイズがベストのような気もする。
椛としてはどちらもアリだ。
「あ、あとバトルに参加させないけど、仲間を側で待機させる許可とかもらえるものなの?」
「え、あ、はい。事前に申請していただければ可能ですよ」
「良かったね、流星。月牙に見ててもらおう」
「あんっ!あんあんっ」
流星も「やったー!ボク頑張る!」と張り切っていた。月牙がいないと流星のやる気は3割減くらいになるので、毎回必要だとしても申請は欠かせない。
椛はこういう時だけ勤勉だった。
闘技場はシーズン毎のポイントの累計でランキングが決まるが、以前に参加した記録があればそれも参照される。
もちろん初参加なら最下位スタートだ。
最初は下位常連っぽい相手が多いので勝ち星を拾いやすいが、たまに初参加の強い人がいるし、ランキングが上がると選手の平均レベルが上がって厳しさを増していく。
ちなみに闘技場では参加選手のレベルは50固定になり、40以下でも50相当のステータスに調整される。
レベル上げが不十分でも気楽に参加できるシステムだ。
覚えたスキルやアーツに差が生まれるため、高レベルのほうが有利ではあるが。
「なんでアイツ騎獣を背後に控えさせてるんだ?」
「狼大好きか」
「いや良く見ろ!あれ月狼だぞ!自慢か!」
「おれだって手に入れたら自慢したい!」
などと強さとは関係ないところで他の選手たちの注目を集めていた椛だが、勝率もなかなかのものだった。
流星が勝っても負けても「楽しい!」「楽しい!」とご機嫌なので、椛の機嫌も良好だ。
月牙は後方指導者仕草で見守ってくれていた。
「なんかあっと言う間にリアル1週間が過ぎていたのですが、シングルバトルやってる暇がなかった」
「いいんじゃないの?覇王はシングルバトルにしか出ないけど」
「まあ、ダブルバトルの王者コンビも双子のようなシンクロ率で、あれ意味わかんない強さだけどな」
椛が頼闇たちに会ったので現状を伝えると、以前から入り浸っている人々は鷹揚に応えた。
ついでに椛より先に来ていたタグも、すっかり闘技場にハマっている様子だった。
「おかげでうっかり覇王の試合を見逃して、なんか今日人が少ないねー、とかトボけたこと言って審判さんに笑われるし…」
「それは笑うわ」
「やあね、次は覚えておきなさいよ」
「ちょっと前にタグも同じことしてたよ」
「その情報はいらなかった!」
うっかりタグさんと同じでも嬉しくない。
「それにしても、伝説の銀狼!?って色めき立ってたのに、バトルを見る限り言うほどの強さじゃないし、むしろ可愛いワンコにしか見えないしで、プレイヤーもNPCもすっかり静かになったね」
「うちの子のファンがもっと増えると思ってたのに」
「メイン会場に上がれば増えるわよ」
召喚獣は他者に譲渡不可能で、契約を解消したら幻獣界に帰ってしまう、という設定だったらしい。椛も初めて知った。
なので銀狼を譲れと言いに来るNPCはほとんどいなかったが、たまに現れるお馬鹿さんは周囲に無知を曝して嘲笑されていた。
むしろ商人たちが月牙を売ってくれとうるさくて、闘技場のスタッフに訴えて近づかないようにしてもらったものだ。
何故大金を積めば買えると思うのか。
中にははした金で買い叩こうとするNPCもいた。
さすがにああいうNPCの好感度で関係改善クエストなどは発生しなかった。
「メイン会場か。順調に進めても、今のペースだと1週間以上かかりそう」
「2ヶ月やってても、メイン会場は遠いわよ…」
「みんな強いんだよなー」
「向こうに上がってるプレイヤーほとんどいないよ」
ちょっとはいるのだが、落とされて上がってをくり返すあたりにいた。
「今シーズンが終わったら、やっぱレベル上げと装備の新調を考えようぜ。だらだらこの状況が続く予感しかしないし」
「おすすめはアンセムの教官に指導してもらって、主どんの素材集めて夜香花で金策して、ついでにランクB昇格クエストをクリアするコース」
「贅沢詰め合わせセットなのは分かるのよねえ」
「主どん装備、ここでも効果高かったからね」
対戦者が魔術士である可能性は低いし、魔法攻撃して来る物理職は稀だしで、実は特殊効果が強かった。
タグが「チート過ぎて使いたくない!」と封印していたくらいだ。
この世界の主人公らしい意見だった。
椛は回避主体なのでそんなにという感じだし、ステータス補正の高い怪盗装備のほうが使いやすいが。
使うかどうかはともかく、持っていて損のない防具だろう。あとミノタウロスはメタれるし。
「それともわたしが掲示板の存在を忘れてる間に、もっと良いネタ見つかった?」
「スタダ組3000人くらいが関係改善クエストで阿鼻叫喚のままだよ」
「ついでにスタダ組の生産職が絶望したままらしい」
「あとクランはすんなり作れて「いつから作れたんですか」と尋ねたら、初日からだったと証明されたらしいな」
「痛ましい連続事件でしたね…」
重要情報を聞き流していた椛は目をそらす。
だってクランとか、今も興味ないし。
「あ、でもロウガイがヴィスタの地下水道のダンジョンに入ったら、サンダー・エレメント無双再びでレベルが上がったとか、七不思議クエストが進展したとか言ってたわよ」
「あー、地下水道のダンジョン、確か推奨レベル45だったような」
「レベル45くらいにしてから昇格クエストなら、楽できそう」
「ちょうど通り道だよな」
贅沢詰め合わせセット改になっている。
他に良いネタがないのなら決まりで良さそうである。
「頼闇たちはクランは作るの?転移プレートを利用したいクラン的な」
「そうねえ。共同でポイント貯めれば、そのうち手に入るかしら」
「個人じゃ絶対無理なのは分かる」
「近くに行くんだし、真面目に検討するべきか…」
頼闇は顔が広いし、フレンドも多い。
パーティメンバーも日によって違うので、椛は覚えきれていないくらいだ。
たんにその日の都合の合った者が適当に集まっているだけらしいのだが。
「クラン名、バニーちゃんlove♡でもメンバーになってくれるかしら…?」
「え、やだ」
「同士なら他を探してくれ」
「おれ達だけで作るしかないな」
「イヤーン、冗談なのにィ」
仲良しだなあ。
でも椛もそのクラン名は絶対無理だな、と思ったものだ。




