43プレイ目 イーシス
誤字報告ありがとうございます
読書とは間違い探しクイズかもしれない
後半、ぐだぐだ会話がぐだって長引きました
キールファン王国は地下資源の豊富な、山地の多い国である。
国民の半数がドワーフで、国内で産出される資源を職人たちが加工し、農地が少ないため生産量の不足しがちな食糧の対価に変えていた。
幸いというべきか、南にあるアルヴィーナ王国は農業も畜産も盛んな平原の国なので、そちらから輸入されて来る。おかげで食糧難に陥ることは滅多になかった。
王都イーシスを初めて訪れた椛は、もうもうと煙の立ち昇る工房区を眺めて噂以上だなと感心していた。
そしてフレンドリストを見て、知り合いの鍛冶師にメッセージを送った。
全然会っていなかったが、生産職と客の関係なので、さほど気にせず声をかけやすかった。
冒険者組合と神殿の転移門を回って、次は商店街に行こうかと思ったところで返信があった。
本人は工房に篭っているが、一緒にクランを設立予定の仲間が露天を出しているそうだ。武器の見積もりならそこでしてくれるという。
行こうと思っていた場所なので、今から行くと返して歩き出した。寄り道をしなければすぐに着く距離だ。
ちょっと気になる店をチェックしつつ向かうと、見覚えがあるようなないようなプレイヤーが待っていた。
「焼き肉の人…じゃないな」
「ないなあ」
「初日以来?」
「アンセムで会ってるよ」
「おお、荒野からの脱出に成功した日!そういえば見たかも」
「特に話しはしてないから。逆に良く覚えてたね」
「独創的な髪色ですね」
アバターを作る時に弄ろうと思えばかなり細かく設定できるのだが、目の前の青年は横割りで3段に色分けしていた。上から赤・黄色・青だ。
グラデーションになっていて自然な色合いで繋がっているのだが、不自然さは消せない。
信号機カラーなのもあって妙に印象に残るのだ。
本人はキョトンとしてから吹き出した。
「鏡なんて見ないからすぐ忘れるんだよね。あだ名の信号機って言われて思い出すくらい」
「そうだよね。信号機って言いたくなるよね」
椛も信号機くんと呼ぶことにした。
それから新しい武器の相談をする。
プレイヤーの鍛冶師を探すのが面倒で、店売りも性能が低い訳じゃないしとNPCの店で買っていたが、せっかくなら作ってもらいたい。
「迷宮都市に行くなら、うちよりレベルの高い鍛冶師のトップたちがいるよ。素材も向こうで集まるだろうし」
「それ、あれだし。とある街の1等地はもう売り切れちまったんだってー、って言うに言えなくて居た堪れない気分になる相手」
「あー、そういえばどうするんだろうね。特に話題にならないけど」
「料理人たちが、いつ売り出しはじめるのかなーワクワクって言うから、こう、アレですよ」
「知らないんだー…」
なので、椛は近づきたくないのだ。
それにダンジョンで素材を集めるための武器が欲しいとも言える。
ここで作ってしまうのはアリだ。きっと。
そんな話をしつつ、双剣を作るのに必要な素材、その主な入手方法などを聞いた。鉱石は採掘で手に入れるものだが、店でも売っている。
椛も採掘スキルは持っているが、あまり使わないので育っていなかった。鉱石は店で購入でいいかなと思う。
「あとは強化素材に何を使うか、だね。ボス系とレア素材がやっぱり強いよ」
「この近くのボスはまだ狩ってないけど、ボス素材はけっこう溜まってるよ。防具にも使いたいから全部は出せないな」
「ダンジョンのボス?同じボスでもエリアボスのほうが素材が良くてさ」
ボスって言うだけだと誤解されて、ちょっと揉めてさ、と信号機くんがうなだれる。めんどくさい事態になったことでも思い出したようだ。
「1番多いのは森の主どんだけど」
「主どん」
「2番目はアルヴィーナの王都の近くの怪鳥かな。あそこ、けっこう長居してたんだな」
素材数から分かる、椛の滞在日数。
ハトロワは海に潜っていたのもあって、ボスとは1回しか戦わなかったが。
「ええー、どんだけ狩ったの」
「主どんはズッ友、怪鳥はマブダチ」
そういえば〈召喚士友の会〉にも会長がいたが、むさい男など興味はない。
「でも素材のレベル的に型落ちしないものなの?」
「レベル40くらいのダンジョンのボスより、エリアボスのほうが強いって言うね。ステータスにボーナスが乗るんじゃなくて、専用スキルが発現するんだよ。どれが強いかは人によって評価が変わるから、単純に比べにくいんだよねー」
「ちゃんと調べておけば良かった。強そう」
武器は基本素材で性能が変わる。
銅のつるぎより鉄のつるぎのほうが強いが、どちらにも同じボーナスを付与できるという意味だ。
しかし必要になる素材数は多くなる。周回ガンバレという話だ。
「主どんは『森狼憑依』ってスキルで、バフ系だよ。効果時間が短くてCTが長いけど、瞬間火力は高いんだって。ロマン火力を求める人には人気だね」
「主どんが力を貸してくれる、だと…!」
他のボスの効果を聞かずに決定してしまいそうなほど、椛の好みのスキルだった。
でもさすがに思い留まった。
「アルヴィーナの怪鳥っていうと…ああ、アレか。こっちは多段攻撃スキルだよ。『翠翼乱舞』っていう、ミドリの羽根のエフェクトが恰好いいらしいね」
「そういえば怪鳥は緑色だったね」
「双剣には合わないと思うけど、多段攻撃スキルのない重量系の武器種で人気なんだよね。攻撃倍率は控えめだけど、トータルダメージが出るみたいで」
「あー、分かる」
双剣のスキルは多段攻撃が多いので椛には必要ないが、一撃必殺系の武器なら活かせるだろう。
怪鳥、マブダチだと思ってたのに、と椛は残念だ。
椛は必要数の溜まっていた素材だけだが、手持ちのボス素材を示して信号機くんに付与されるスキルを教えてもらった。
持ち込む人がいないから初めて見た!という物もあったので、生産スキルで確認しながらになった。
一通り聞いて椛は決めた。
「主どんしか勝たん」
「双剣にはそれが良いかもね」
怪鳥よりは使えそうなスキルもあったが、性能重視でも主どん一択だったのだ。
さすがズッ友。
「あ、数がないから聞かなかったけど、見たことない素材があるなら見せようか?」
「ぜひ!データ取れるのありがたい!」
椛もいろいろ教えてもらったのでお互い様だ。
そして今回は作れない素材の中に双剣にぴったりのスキルを発見して、そのうち狩りに行くから待ってろよー!というオチがついたりもしたのだった。
「怪鳥なら売るよ」
「それも悪くないスキルだけど、2.5倍の一撃をぶち込む『魂身爆斬』作ってもらった」
「タグは一撃必殺派か」
双剣の一撃が2.5倍になってもたいしたダメージにならないだろうが、大剣なら大ダメージが期待できる。
タグの話では大剣スキルの中には最大で2倍のアーツしかないので、現状だと破格の倍率なのだそうだ。
現地で集合した椛とタグとロウガイは、冒険者組合の酒場で今後の予定を話し合っていた。
椛が「武器が完成するまで待って!」と頼んだとも言う。
「魔術士系は別のスキルが付くんだっけ?」
「杖は基本的に木工師が作るからの。怪鳥素材なら風属性の攻撃魔法じゃよ、確か」
ロウガイは魔術士なので、ドゥナンの街の木工師に作ってもらったそうだ。
そういえば、ランクAの木工師NPCが何人もいると椛も聞いた覚えがあった。
「金属製の杖だとどうなるの?」
「物理攻撃スキルになるはずじゃ。魔法ではなく杖術だか棒術の分野になるらしいのう」
「あ、そっちか」
「ちなみに主どんの魔法版スキルは、最大ヒット数10の無属性魔法じゃ」
「え、それは強いの?」
魔法は門外漢気味なので椛は首をかしげる。
タグは強いだろと断言してから、強いよな?と自信なさげに尋ねていた。
「魔法はたいてい属性相性で弱点を突くから、元の威力の倍が基準になっておってな。無属性はそれがない」
「あー、でも物理攻撃じゃなくて魔法攻撃だし、弱点属性のないヤツには強いってことか」
「たまにしかおらんがな、弱点属性のない魔物。じゃが半減もされないから、汎用性はあるハズじゃ」
弱くはないがビミョーというヤツだ。人気はお察しである。
「まあ、特定の属性は特定の状況でしか使えんのはみな同じなんじゃがのう。魔術士はどの属性にするかで悩まされるんじゃ」
「ああ、毎回使える訳じゃないんだ。サンダー・エレメントも海以外じゃ出番ないのと同じか」
「あいつは海で無双してるだけで無法だろ」
物理攻撃系のスキルのほうが腐らせずに活用できて優秀に思えるが、魔法は制限が多いだけで強力なのだ。
「そうか。魔法はタグのスキルのさらに倍が基準になってるから、制限されてるってことかー」
「え?2.5倍のさらに倍?」
「魔法はハマれば強いのじゃ。MP消費量もでかいがの」
ボス戦で心強い威力だろう。
「あ、付与魔法ってあるよな。それで属性を付与すれば」
「あれも斬・突・打と同じで%じゃなかった?計算めんどくさいなって流し読みしかしてないけど」
「火属性20%付与で火属性弱点を攻撃すると1.2倍の威力になる、という性能だったはずじゃな」
魔法で弱点を突くと2倍になるのがおかしいのかもしれないが、MP回復ポーションが手に入らない現状はバランスが取れているとも言える。
そして付与魔法が不人気になるのも、当然の流れだ。MPの無駄にしか思えない。
「でも教官殿が言ってたけど、自分で付与して特定の属性で攻撃していると、属性付きのアーツが派生で覚えられるって」
「え、例えば『一刀斬り』に火属性を付与して使い続けたら、火属性バージョンの一刀斬りが派生で出て来るとか、そういう!?」
「そうそう、そんなかんじ」
やり込み要素のようだが、自分で付与という条件も厳しい。
「恰好いい…でも無理…」
「スキルは買えるけど、そんなところに回すMPがないよね」
椛も聞いた時に「無理です教官殿!」と崩れ落ちかけたものだ。
ロマンは感じても無理なものは無理だ。
掲示板で情報を流しても、検証好きたちすら「やってられるかー!」と怒るだけだろう。
いつか余裕が出来てきたら、そういうアーツも覚えたいと思うだけだった。




