42プレイ目 アンセム
「そういえば、ランクB昇格クエストの確認はしたのか?」
椛がアンセムの街で教官に訓練してもらったり森の主どんと戯れたり焼き芋を食べたりカフェでトンデモ本を読んでまったり過ごしたり、はたまた北の秘境に突撃してヤベー魔物を目撃して逃げ帰ったりと充実した日々を送っていたある日、冒険者組合の買い取り窓口のおっさんが言った。
椛はちょっと思い返してみた。
「ランクCに上がった直後にゴースト千人斬りに気をとられてスカッと忘れてた!」
「何がゴースト千人斬りなんだよ…」
「そもそも王都の雰囲気最悪で、こんなところ長居したくないってクエストもろくに見てないかも」
いや、見ていたら他のプレイヤーたちとおしゃべりすることになって、有益な情報を教わったのだったか。
「また王都行くやつ?あれからちっともレベル上がってないし、当分昇格できないと思うよ」
「この国じゃなくて、キールファン王国で受けられる昇格クエストだな。迷宮都市バロワに行くことになるから、お前好きそうだと思ってな」
「あ、聞いた覚えはある。興味もある。でも延々とダンジョンアタックするより、闘技場行きたい派」
「ああ、そっちか」
椛もボスラッシュなら駆け付けるのだが、そんな話はどこにもなかった。
「でもクエストを受けると往復の転移代が支給されるので、人気なんですよ」
隣の席の受付嬢が教えてくれる。
組合が払うというより、神殿と話をつけて格安にしてもらい、なおかつ迷宮都市が転移代を負担しているという。
冒険者を呼びこんで、ダンジョンの珍しいアイテムを持ち帰らせるために。
「神殿にも利はあるんだよ。上位職になるためのアイテムが迷宮都市じゃないと手に入らないからな」
「転職費はレベルかける1万Rですから」
「わー…」
そういやそんな設定だった。
レベル40でも40万Rである。椛は夜香花で金策しているのでそこそこ貯まっているほうのはずだが、半分もない。
「まあ、推奨レベルは45だから、一応覚えておけよ」
「そうする」
「椛さんはレベル40でもクリアしてしまいそうですけどね」
受付嬢のリップサービスに、真に受けちゃ駄目なヤツ!と警戒した。
「ああ、5層あたりのボス討伐だったか」
「ボス階層は入口から転移して行けるので、繰り返し挑戦し易いそうですよ」
「わたしを追い出したいんですか…!」
「聖女様の過激派信者の方々の耳に、例の件が伝わったそうです」
「お前ちょっと、ほとぼりが冷めるまで避難したほうが良いかもな…」
例の件に心当たりはあるが、わたし悪いことしてないよとも思う。
でも余計なこと吹き込んだ犯人と言われたら否定できない。
「いや待って、そんなのいたらあのアホもただじゃ済まなかったんじゃ」
「聖女様の側ほど安全な場所はありませんよ」
「お前、聖女様の側に張り付く気ないだろ」
そんなことまでしてアンセムにいたい訳ではない。他の街に行って遊んだほうが万倍マシだ。
椛はがっかりしながらも、忠告はありがたく受け取ることにした。知らずに過激派信者とやらに捕まらなくて良かった。
どんな集団か初耳なので知らないが、名前がすでにヤバい。
でも旅立つ前に、焼き芋は買い込んでおくことにした。
何日か前からアンセムに滞在中のタグとロウガイに愚痴りながら事情を説明すると、ふたり揃って「爆弾…!」「知りたくなかったのじゃ!」と頭を抱えた。
セイジョ(笑)の話である。
本日も住宅街近くの隠れ家的なカフェに来ていた。穴場なのか他のプレイヤーは見かけたことのない店だったので。
「わたしも誰にも言いたくなかったよ…」
「当たり障りのない理由でも良かっただろ!本場で武器を探したくなったとか!」
「あ、それは探したい」
「まあ、聖女だの例の件だのと組合内で話しておったのなら、フレなら聞いてないのかと喚く連中もおるだろうしの」
「この街にもそこそこプレイヤーいるからなあ」
プレイヤーはあちこちの国に分散していて、みんな気ままに楽しんでいる。
トップの攻略組を追いかけて、第二のトップ層気分になっているのとか。
アンセムの街はβ版のはじまりの街で拠点だったこともあり、特に受付嬢たちの固定ファンが多い。
恋愛ルートはあるのかとか、個人イベントは隠されていないかと探している連中と、ただ毎日会いたいだけの連中など様々だ。
椛なんて「買い取り窓口のドワーフっぽいおっさん推しとか渋いな」と誤解されていたものだ。さすがに怒った。
「だから、ここまで言えば避難勧告を聞いてくれるかなって」
「オレ、闘技場行こうかな」
「ワシは迷宮都市について行こうかの。便乗してランクBになるチャンスじゃよ」
「えー、まあ、いいけど」
パーティ組むの?と首をかしげる。
ロウガイは重々しくうなづいた。
「パーティメンバー探すの面倒じゃし」
「お前も基本ソロか!」
「オ、オレも便乗するー!野良パはともかく、昇格クエストを一緒にやるメンバー探すの絶対めんどくさいヤツじゃん!」
召喚士になって益々パーティプレイと縁のなくなった椛も、ソロでやるのはさすが厳しいだろうなと思い至った。
「ランクCは…ギミック知ってれば楽だったっけ」
「試しに行っただけのつもりで、すぐにネタが割れて、そのままクリア出来たな」
「簡単だったのう」
セイジョ(笑)みたいなお子様もプレイしているゲームなのだ。
あのアホはクリア出来なさそうとか思ってしまったが、ただのイメージである。
「じゃあ何かやり残し…サインもらった?」
「おお!最強執事恰好いいよな!」
「お嬢様を褒めつつも、全身で執事のファンだとアピールしておってのう」
「な、なんだよ。あの本、化物の正体がつまんなかった以外、面白かっただろ!」
タグはお嬢様を褒めるイケメンではなく、ただの執事ファンだったそうだ。それは執事も怒らずにサインをくれるだろう。
ロウガイは反応がつまらなかったと肩を落としていた。
「あ、でも主どんはレベル差できても強かったな。最初の特殊攻撃のところで大技叩き込んだら1発だったけどさ」
「ああ、翻弄されてしまいましたか」
「通常攻撃痛いし、速くて攻撃当たんねーし!ソロで舐めプして負けるかと思った!」
大剣士のタグには主どんはソロだとキツイ相手だったらしい。
パーティを組んでいれば余裕だろうとも。
サインをもらうために夜香花を採取しなくてはならなかったので、油断してしまったようだ。
ロウガイも「ソロは2度とやらんのじゃ」とスネているので、危なかったのだろう。
「でも主どんは良い訓練相手だよ。金策も美味しいし」
「それは分かる。だからロウガイとふたりでやってた」
「ふたりならまだどうにかなったからのう」
夜香花の味を知ったようだ。
それにそのうち、MP回復ポーションの素材として永遠に求めるようになる物だ。
「ポーションを作ってもらえるようになったら、売るのが惜しくなるんだよ、きっと」
「MPポーションな。でもまだ金策用かな」
「素材の問題もあるが、1個数千Rとか無理じゃろ」
「無理だね」
「無理だよな」
一考の余地もないので、今は惜しげもなく売ってしまえるのだ。
作れるようになったとしても数個が限界な気がするので、溜め込む旨みがないし。
他にやり残しがないか確認し合ってから、キールファン王国の王都に現地集合することで話はまとまった。
あちらに着いたら連絡し合うということで、本日は解散したのだった。




