250プレイ目 迷宮都市バロワからドゥナン
イベント後半戦だが、まだゼロイスの西の森で夜のクモ狩りは大人気だった。
プレイヤーが殺到していてもなお効率が良いらしい。
おかげで移住者の街はプレイヤーが多かった。ゲーム内の夜時間までログインしない者も多いから、椛が見ている数より多いらしい。
クランのメンバーは何人かは家を建てて椛同様にゼロイスから通っているので、たまに遭遇する。
去年集めたからと熱心にやっていない者もいるが、さすがに全くプレゼントボックスの手に入らない闘技場に篭っているメンバーはいないそうだ。
NPCたちもプレゼントボックス集めをしているので、対戦相手が少ないという理由もあった。
「そろそろ店が建ってもいいのにね」
「生産職はボスのレアドロで一攫千金とかないから、なかなか大変らしい」
「レアドロ…そうだ、レベル70の片手剣が出た!片手剣使いが多くて譲りにくい…」
もちろん迷宮都市のダンジョンのボスのレアドロだが、性能は羨ましくなるくらいに高い。
まずステータスだけで使いたくなる補正値で、さらに専用スキルまでついている。そのスキルが違法レベルだった。
クランハウス(建設予定地)で会ったクラメンは片手剣士ではないので、出して見せてみた。
「うお、すげえ。レベル70だと作ってもらった武器より強いのあるよな」
「スキルなんて3倍の威力の2連撃だよ。お前は何を言っているって聞きたい」
「…お前は何を言っている?」
「わたしに聞かれても」
改めて鑑定したようで、もう1度「お前は何を言っている!」と怒っていた。
スキルだけ寄越せ、と言いたいのだろう。
双剣にはあまり合わないが、でもこの倍率なら充分に魅力的である。
「これは戦争になる…」
「双剣とならトレードするのに」
そう都合よくドロップしないものだ。
でもレベル70で同等の性能のレアドロならトレードするよ、とクランの片手剣士たちに伝えておいた。
遠い空の下でクラメン(片手剣士)の数だけ悲鳴が上がったことだろう。
目的の追加素材は集まったが、椛はまだ迷宮都市のダンジョンに篭っていた。
カタナに付けたいボス素材付与スキルがあったので、ヤマト国が解禁したら作ってもらおうとつい回収したり、マップを隅々まで埋めてみたり。
ちなみにレアドロ武器はこのボスの周回をしていたら落ちた物だった。
採掘ポイントのあるルートもあったので、採掘スキルが久しぶりにちょっと上がった。
入手した鉱石は新調予定の武器の基本素材に使えるはずだ。
こうしてダンジョンに篭っているうちにイベントが終わった。
椛のダンジョン調査もほぼ同時に終わった。
ということで、冒険者組合の資料室に最後の報告に来たところだ。
「ラストだよー。続きはいつかまた、レベルが上がったら。気が向いたら」
「ありがとう!すごく助かったよ。ボスのレアドロップの武器の情報まで入ってるし」
「そこはたまたま」
クランの片手剣士たちがレアドロ狙いで通い出していた。トレードより直ドロを選んだらしい。
椛だってどこにあるか分からない双剣よりそっちを狙うだろう、片手剣士だったなら。
ついでにカタナに付けたいスキルは片手剣にも合うので、ボス素材回収は無駄にならないはずだ。
「次はどこ行こうかな。なんか面白い場所の話を聞いた気が…」
「封印都市かな」
「ああ、ボスラッシュの…そこも気になる」
でも別の話だった気がする。
場所というより…
「あ、お酒を買いに行きたかった!品質10のビール…あるかな?」
「品質10…!?」
「移住者なら作れるはずだけど」
資料室の職員は酒呑みには見えないが、冒険者NPCたちと同じくらい食いつきが良かった。
酒ではなく品質10のクッキーを見せたら、実在の可能性を信用したようだった。
「あとはヤマト国はいつ行けるかな」
「航路がふさがれてから長いよね」
「カタナを作るレシピ?がヤマト国行かないと手に入らないらしいし」
「召喚獣に装備させてるんだっけ」
資料室に報告する時に世間話として話したことがあったのだ。
『神の匠』の話は割愛したが。
「召喚獣…装備…?」
「どうかした?」
「……ううん」
召喚獣の見た目装備の話を思い出しただけだ。いつの間にか忘れていた。
「そうだ!家を買ったから家具!ベッドしかないままだった!」
「え?それで生活できるの?」
「寝に帰るだけなので…」
不便はない。
ただ毎日、早くインテリアを揃えたいなと切なくなっていただけだ。
クリスマス家具部屋はあるが、寝室はベッドしか置いていなかった。
なのでまずは家具だ。ドゥナンの街だ。
家具専門の木工師プレイヤーもドゥナンにいるはずだ。
ミルクの新しい服も欲しいけど、殺風景な自宅だとスクショも捗らない。可愛い家具の背景が欲しいのだ。
「あ、木工の街と言えば、木の苗とか木材も売り忘れてた…」
「忘れものが次々に出て来るね」
「ね」
メモに書くことさえ忘れていたネタだ。思い出したのは奇跡のようだ。
それはさすがに言い過ぎだが。
とにかく次はドゥナンだ!と決めたのだった。
転移プレートでゼロイスに戻ってから、なんか燃え尽きたプレイヤーの屍っぽいモノがたくさんあったが見なかったことにして、椛は騎獣でアンセムまで来た。
奇跡その2が起きて商業組合でレンタル畑の届け先の変更手続きのことを思い出したのだ。
ゼロイスの商業組合でも可能だったと言われたけど。
でも届いていた収穫物を全て引き取ったから無駄ではなかった。転送サービスがあったらしいけど。
そんなビミョーな出来事はあったが、アンセムからドゥナンまで月牙に乗って流星と街道を駆けた。
ダンジョンの中よりフィールドを駆けるほうが気持ち良く感じるのは何故なのか。
数時間ほど走ったので、椛は時計を確認して今日は植林場の管理小屋で木の苗を売ったら転移プレートでゼロイスの自宅に帰ることにした。
買い物は明日、ゆっくりと時間をかけて選びたい。
ということで翌日である。
冒険者組合で冒険者カードの照合も一応してから、商業組合で家具屋について尋ねた。
大通りにある大店も良いが、商店街には何軒も店がある。
「家具は性能よりデザインの違いが大きくなりますからね」
「ですよね」
家がアルヴィーナ王国の王都の建物と同じデザインだと言えば、隣国から買い物に来る客たちに人気の店を教えてくれた。
椛も冒険者スタイルではなく、買い物メインなので町娘っぽい服装に替えて来ていた。
メイクは控えめでモブ度が上がっているが、可愛い家具を買いそうな女の子には見えるだろう。
あと街にプレイヤーの姿があまりなかったので、天使のミルクを召喚して手をつないで街歩きをしてみた。
NPCのお姉さんたちやおばちゃんたちに可愛い妹さんね!と絶賛されたが、プレイヤーのように突撃して来ないので快適かつ鼻高々な気分で歩けた。
可愛い服をたくさん作りたい。
そう思っていたのにすぐ忘れるの、なんなんだろうね…
「可愛い妹がいたら自慢したくなる姉の気持ちが分かった」
妹に嫉妬してギスギスした姉妹関係もあるかもしれないが、そんなリアルな話はしていない。可愛い妹を可愛い可愛いと愛でる姉の気分を味わいたいだけである。
ミルクはにこにこと笑顔で付き合ってくれて、時々好奇心を示して店を覗いたり商品を眺めていた。
家具屋でも可愛いデザインのものに興味を示すので、勢いで買いそうになったものだ。
家具屋の接客係のおばさんに尋ねてみた。
「床は明るいライトブラウンで、壁紙は薄いピンクに小花柄の可愛い奴なので、家具の色は何が合うかな」
「白とか明るい色合いかねえ」
可愛い外観だから内装も可愛いのがいいな!という勢いで決めたものなのだ。リアルの自室はブルーやグリーンのカーテンやラグを好むので、すごく乙女チックな空間になっていた。
天使が住んでいたら合うと思う。
「…は!カーテンとか絨毯は芸術の国だった!」
「いいねえ、ミュウテラ国の絨毯。どんな色や柄にするんだい」
「やっぱり現地で見て決めたいな」
部屋ごとにイメージカラーを決めて変えてもいいし、どの部屋に何を飾るかも未定だ。
…1日では終わらない気がして来た。
でも所持金を見て、そんなに買えるかなとも思う。値段の確認をして、金策をしてから改めて買うべきか。
忘れそうだけど。
次の予定も忘れそうなのでメモに『酒造クラン』と書いておく。見たら思い出すだろう。見たならば。
店を見て歩くだけでも数日かかりそうなので、品質10のビール探しはその後になりそうだった。
「魔神も衣装が替えられるよな。どんなデザインにするんだ?」
「え?……あ、うん。お金がない!終わり!」
考えてもいなかった事は内緒です。




