212プレイ目 ダースティン
風の塔の攻略は順調だった。
イキりキッズたちは勇者に面会申請しては同じ結果にしかならないと怒り狂っているが、そもそもフラグが足りないとは考えないらしい。
条件を満たしていないから進まないなんてゲームの基本だろうに。
椛は敵意を向けて来る連中に教えてやることなどないので黙っているが、誰かが椛が勇者と面会したと掲示板に書き込んだらしく、別の連中まで帝都に集まって来ていた。
そして椛をうかがい、聞き出そうとしているのだ。鬱陶しさが10倍以上になっていた。
邪神教団のサブイベントなんてしたら、あとをつけて来た連中に教えてやるようなものである。
風の魔神と契約したらやろうと思っていたのに、予定が台無しだ。
椛は自分を不快にさせている連中になど、欠片も情報をくれてやりたくない気分でいっぱいなのだ。
「転売屋の次は移住者どもが鬱陶しい…」
「勇者様と面会したいそうですよ」
「お姉さんは奴らの味方?」
「まさか。組合の職員は平等がモットーです」
冒険者組合の美人受付嬢は素敵な笑顔で言い切った。
椛の味方ではなくても、奴らの味方をしないなら充分だ。不快な組合内で笑顔で迎えてくれるだけで癒しだし。
「ところでさ、次の目的地が海底ダンジョンだったんだけど、この早く奴らのいない場所に行きたい気持ちと、海底ダンジョンに行きたくない気持ちがせめぎ合ってですね…」
「海底ダンジョンですか…この帝都の近海には危険度Sの海底ダンジョンがあるそうですよ」
「…勇者様御一行がクリアしたの?」
「数百年前の勇者様が1度クリアしたと記録が残るだけですね」
椛は屋内からは見えないと分かっていても、つい海のある西へ目を向けてしまった。
「遥か昔に隕石の落下によって出来た内海の底に存在する危険度Sのダンジョン…」
「そう言われると、曰くありげですねえ」
宇宙人が巣食ってそう、と思った椛だった。
今日こそ勝つ!と挑んだ風の塔ダンジョンのボスは、強風発生機みたいな存在だった。
強い弱いではなく、近付けないボスである。
魔法耐性がアホみたいに高いクソボスではないが、魔法以外が届かない面倒くさいボスだった。
おかげで椛は戦力外だった。
魔法玉を投げても風でどこかに行ってしまうので、真実戦力外である。
召喚士は魔法アタッカーの召喚獣をたくさん仲間にしていたら、MP回復ポーションがなくても勝てるボスだろう。
でも物理職のプレイヤーは全員「ふざけんな!」と叫ぶことだろう。
「唯一やつを殴れたの、影から奇襲できる霧影だけだった…」
そして物理耐性は低かったらしく、思わぬ大ダメージが入ったものだ。
もしかしたらギミックを解除したら倒せるボスだったのかもしれないが、椛には分からなかった。
ひとつ分かっているのは、こんな奴と2度と戦わないことだけだ。
「みんなのMPが回復する時間…その後で風の魔神戦…うん、時間あるな」
回復するまでヒマなので、ボスを倒してセーフティエリア同然になったボス部屋で休みながら、掲示板を覗いてみることにした。
流星と月牙を召喚してもふもふしたいが、ボス戦に続いて風の魔神戦でも出番がなかったら申し訳ないので、召喚獣リストを眺めてから月詠を召喚した。
他の召喚獣は全て送還済みだ。
「月詠の『応援』スキルがあったら楽になったバトルの数々が思い出されて来た…」
「みゅ?みゅーう」
月詠は「ふーやれやれ」というポーズだが、なんで呼ばなかったの!とは怒らない。
バトルが嫌いな訳ではなさそうだが、積極的に戦うよりアイドルでいたい派なのだ。たぶん。
でもチートじみた月詠のスキルを使うと負けた気がするので、なくても勝てたから良いことにした。
「それにしても鬱陶しい風…奴は倒したのに…」
ボス部屋以外もここは強風が吹いている。どこにいても同じだが、休む時くらいは風のないところに行きたい。
「うーん、景色の良い窓辺で風に吹かれるアイドル様」
「みゅ!」
こちらには即座に反応して、月詠は窓っぽい穴を物色して回っていた。そして景色が気にいったのか、ここ、と前肢でタシタシと叩いていた。
「じゃあ撮りまーす。アクション、スタート!」
「みゅっみゅーう♪」
風に吹かれながら新曲を歌い出す。
何のメロディか毎回謎だが、可愛いことは確かだった。
「お、ま、え、も、かー!」
「ははは!ボクに触れることは許してあげないよ。なんてったってアイドル!だからね!」
「お、ま、え、も、かー!」
風の魔神も強風発生機だった。
そして自称アイドルだった。ナルシストなアイドルらしい。
アイドルの系統は椛にはさっぱり分からない。
霧影に殴ってもらったら「よくもアイドルの顔を殴ったな!?」と怒り狂ったので、殴ったらいけなかったようだ。
ちなみに殴ったのは背中で顔ではなかった。そんな言い訳は聞きそうになかったが。
霧影は送還して、魔法アタッカーで固める。椛は何もできないので、せいぜい煽ってヘイトを稼いでおいた。
そんなこんなで、疲れるつまらないバトルその2が終了した。風の魔神はダンジョンボスと同じくらい面倒くさい敵だった。
召喚獣たちは送還して、同じ魔神仲間の炎獄と地波だけ呼んでおく。
「新しい仲間の自称アイドルです…」
「アイドルはアタシだけで充分なのー!」
「ははは、人間の世界に出ればおのずと分かることさ!アイドルの周りに人間どもは群がるものだからね!」
「伝説のミーティアが全てを持って行くと思うがな」
「…なんで伝説のミーティアなんかがいるの!?あの天然たらしの害獣が!」
風の魔神はミーティアに何をされたのか、怒ってグルグル回っていた。
バトル中もそうだったが、風属性だからかずっと浮かんでいるのだ。
炎獄と地波は普通に立って歩いている。
そして風の魔神もアラビアン系の衣装だ。
風もないのに緑の髪が常にそよいでいるらしいが、強風発生機だしな…で椛は納得した。
風の魔神の封印の間も風が強いが、風の魔神だけ髪がそよ風レベルの動きなのでシュールである。
「名前は、シャルルとかジョルジュとかフランソワって感じだけど…」
「ア、アタシだってグレース…!」
「ボクはそんなありきたりな名前より、雅な名前がいいなあ」
「風獄か斬獄だな」
「どこに雅さが!?」
炎獄のネーミングセンスは放っておいて、椛はその辺のおフランスな名前で決まりだと思っていたから、また頭を抱えた。
雅ってなんだ。
「雅…宮さま…雪月花…花鳥風月…」
「アイドルはどうなったのだ?」
「炎獄とお揃いの風獄でいいじゃない、こんなナルシー!」
「強風発生機…扇風機…」
「ぴったりだな」
「ホントだね!」
もう扇風機でいいのでは、と椛が思っていることに気付いたのか、本人が慌てて提案した。
「風月!風月がいいな!」
「そう?」
椛は有名なお菓子の老舗が思い浮かぶが、この世界にはなかった。たぶん。
ということで、風の魔神の名前は風月に決まった。
「水の魔神も訳わからん注文をつけて来るのかな…グラビアアイドルかな…」
「年増なんてどうでも良い!」
「プリンちゃんだぞ!」
「競合しないし興味ないんだよね〜、年増」
風の魔神も何げに水の魔神が嫌いっぽい。
ユニゾン魔法を使ってもらうのに、それで大丈夫なのかと思ってしまう。
炎の魔神と地の魔神は仲は良くないが悪くもないのだ。アイドル属性かぶりで睨み合っている地波と風月に比べたらマシだったと気付いた所である。
せめてバトル中は停戦して欲しいものだ。




