211プレイ目 ダースティン
アンセムにプレイヤーが多いからか生産職も多く来ていたおかげで、椛は素材を集め終えて無事に火属性の武器を新調できた。
準備が整ったのでゼロイスの街から転移プレートで、西の大陸のイズダス帝国の帝都に移動した来た。
邪神教団のサブイベントも気になるが、目的は《風の塔》に封印されている風の魔神である。
風の塔は少しだけ攻略したことがあるので、炎の魔神より簡単にクリア出来るだろう。
ダンジョンボスが理不尽な強さではない限り。
「なんか予定外に炎獄と地波がレベル70まで上がったけど、結果オーライってことで」
レベルが上がったのは椛のやらかしのせいで、レベル70ダンジョンに通ったからだ。風の魔神と契約してから行ったほうが効率も良かっただろうに。
そんなことを思いながら、とりあえず最初に冒険者組合に向かったのだった。
組合にレア牛ハンターたちはいなかったが、今度は勇者に面会してやるというタイプのイキりキッズたちが戻って来たらしい。
顔は覚えていないが雰囲気がそんな感じだ。椛のことを睨みつけながら、盗み聞きしているし。
「ここに来ると、牛肉の気分になる…罠を仕掛けて来なくては」
「お売りいただけましたら幸いです」
「マスターのローストビーフのためだからね」
そのため椛もグルメハンターみたいな話しかしなかった。レア牛を捕まえたいのも確かだし。
ついでに転売屋NPCが出現する街なのを思い出した。レア牛を売れとばかりに寄って来たことがあったからだ。
他にレベル70フィールドでおすすめの獲物はいないか受付嬢に尋ねていると、思い出したくもないのに思い出したばかりの転売屋が騎士たちを連れて組合に踏み込んで来た。
「あの女冒険者です!奴がワタシの商品を奪ったのです!」
「了解した。女!大人しくお縄につけ!」
「この商人から奪った物、残らず返してもらうぞ!」
とんだ茶番である。
椛が受付嬢を見ると、青い顔をして首を横に振った。組合の人間では逆らえない相手のようだ。
それなら騎士より偉い人に頼るしかない。
「助けて、勇者様!転売屋と騎士どもが冤罪を擦りつけようとするんですー!ってことで勇者様の所に行って来らあ!」
「はあ!?ふざけるな!」
「勇者様が貴様ごときにお会いになるものか!」
「そう思うなら捕まえてみやがれ!」
椛は証拠写真をカメラで撮ってから、騎士たちをすり抜けて外に出た。騎士はたいてい金属鎧なので、椛の速度のほうが上なのだ。
「あはは!亀よりドン臭え!」
「き、貴様〜!」
「許さんぞ、女ぁ!」
転売屋はともかく怒り狂った騎士たちは釣れた。イキりキッズどもも何を思ったのか追いかけて来る。
椛は大通りを役所目指して真っすぐに駆けた。後ろで何か騒いでいたが、今は逃げるのが先決である。
役所に駆け込めば、いつぞやの役人がカウンターに座っていた。
「やあやあ、勇者様に面会希望です」
「た、ただいまご案内いたします」
確認はしていなかったが、やはり椛はフリーパスのようだ。1度クリアすると通行止めが解除されるようなものだろう。
追いついた騎士たちが役人の対応に顔を引きつらせていたが、椛はカメラを振って言っておいた。
「証拠写真はあるから、ついて来なくても大丈夫!」
逃げても意味ねえよ、の意である。
「あ、そっちの移住者たちは赤の他人だから、城に侵入するの止めたほうがいいと思うよ」
「な、てめえ!なに抜け駆けしてんだよ!」
「ああ?便乗しようとしてるゴミが何喚いてんだよ。勇者様に会う方法くらいてめえで見つけろ!」
椛のことを理不尽に睨んでいた分際で、なんで便乗できると思うのか。
睨まれて不快に思わない人間なんていない。
ドMでもない限り。
もちろん椛はそんな連中の利になることなどしたくなかった。
皇帝である勇者様の所へ案内されて来た椛は、扉をノックして用件だけ告げて逃げて行った役人を見送ってから、扉を開けて入室した。
「また来たのか」
「騎士どもを買収した転売屋のせいですよ!」
椛も勇者様に会う用事などなかったのだ。
邪神教団のサブイベントなら来てみようかなとは思ったのだが。
転売屋が椛から何を奪う気だったのか知らないが、組合であったことから順番に説明した。騎士たちは役所の奥まで追って来なかったが、その後どうしたのかは確認していない。
「たいした罰には問えないだろうな、騎士たちは。商人に騙されたと言うだけだろう」
「商人ごときに騙されるとか、それでも誉れ高き騎士なんですかあ?って煽りたい…」
「下手な罰より効きそうだ」
騎士たちはプライドの塊のような者が多いイメージだ。特に性根の腐ったほうの騎士たちは。
「それより騎士を騙すなんて重罪だ!ってブタ箱に放り込めませんか?所持品から何から全財産を取り上げて、懇意にしてた連中から助ける価値なしって見捨てられて、容易にシャバに戻れないようにして欲しい!」
「容赦ないな」
「手心を加える価値がないんで」
転売屋など滅べばいいのだ。
椛にケンカを売るのが悪い。
そんな気分にしかならなかった。
「だがまずは写真だな。この都では手が回されていて、証拠を奪われる可能性が高い」
「しっかりして下さいよ、皇帝陛下…」
「私にはたいした権限はないぞ。騎士を騙した商人と言えば許さない連中がいるから成立するだろうというだけだ」
やはり皇帝はお飾りなのだろう。
突っ込んで聞きにくい。
「それならアンセムに行くのが早いかな…でも時間を開けると根回しされてそう」
「はした金の賄賂より、全財産のほうが魅力的だろう。皇帝の命令という大義名分つきだぞ」
「…勇者様もヤる気ッスね」
「かばう価値を感じない」
聖女様なら怒るだろうが、犯罪者に肩入れなんて被害者が許さないだろう。あの転売屋が何をして来たのか知らないが、ロクな事はしていないだろう。
「どうした?」
「いえ、聖女様なら法律に則ってとかなんとか正論言い出して面倒くさ…真面目なのになあって」
「…言いそうだな」
椛は勇者様のほうが付き合いやすいが、勇者様の側で聖女様が正論を言って諌めるのが良い形なのかもしれない。
でも転売屋を片付けるまでは待って欲しいものだ。
椛がアンセムの街で証拠写真を現像してもらって勇者様に提出すると、冒険者組合の職員たちの証言もあったので転売屋はあっさりとブタ箱送りになった。
全財産を取り上げられ、監獄に入れられるらしい。
今回の件だけでなく、余罪がたくさん出て来たとかで、一生出て来られないだろう。
余罪はともかく、冤罪もまとめて押し付けられたっぽいが、余罪だけで充分一生出て来られないだけの罪を犯していたという。
勇者様も「少し調べただけでゴロゴロ出て来て、法律に則ってもあんなものだった」と頭が痛そうにしていたものだ。
ちょっと聖女様だったら、と考えたのかもしれない。極刑でも良かったくらいだ、とかこぼしていたし。
冒険者組合でも感謝された。
椛が報告しなくても、迷惑な存在が消えた話はすぐに入って来たようだ。
「1人でも減って助かりました!」
「まだまだいるのか転売屋…」
「見せしめになって、今は少し大人しくしてるみたいですよ」
クエストリストを見たら『帝都ダースティンに平和を』というクエストが進行していた。
ダースティンの平和を乱すものを減らすと進むようで、転売屋を破滅させろとは書いていなかった。
「でも、勇者様が助けて下さったんですよね…」
「なんか事情がありそうだった」
「そうなんですね…!」
そして何より、帝都での勇者様の株がうなぎ登りだった。本当は勇者様を信じたかったからだろう。
と、そこまでは良いのだが、イキりキッズたちが睨むどころか敵意を向けて来て非常にウザい。
早く風の魔神と契約して、次の街に行きたかった。
□エルフの英雄に認められた証として他国でも効果が高い腕章は、イベントの必須級アイテムなので比較的入手難度が低くなっています(あれでも)
□ゲームじゃなければ、そんな便利アイテムがある訳ないじゃない…あっても早々に手に入る訳ないじゃない…と現実に則して考えてみたりします




