208プレイ目 イーシス
今度こそ忘れものはない!と思いながら、椛はキールファン王国の王都イーシスにやって来た。
少し前に来たばかりなので、戻って来たという気持ちにもなる。
ちなみに鍛冶師たちは王都カナリアのイベントの推奨レベルが低いならと来ていたので、そちらで地属性の武器は作ってもらって来た。
アクセサリーはNPCの細工師でも作れるそうなので、これもカナリアで作ってもらってある。
「クソボスの素材が双剣にも防具にも使えなくて、本当に良かった…」
あんなところでボス周回などするつもりはなかったが、それはそれとして性能は気になったので調べてもらった。
武器に付くスキルはハンマーなどの重量系なら使うかもしれない、ついでに火属性も付くので属性素材にプラスして上昇するというものだった。
防具のほうは、物理ダメージカットと魔法ダメージカットが付くのだが、5%ずつだった。
強いけど中途半端。そんな性能だった。
椛は主どん防具が最高だ、と思ったものだ。
ロウガイも木工師に聞いたらしいがビミョーじゃと言っていたし、細工師に確認してもビミョーなスキルしか発現しなかった。
加工素材はレベル50ボスより性能が上がっていたが、別のレベル60ボスからも手に入る。きっとアレより酷いボスはいないだろう。いないはずだ。
という訳で、憂いなくやって来たのである。
「鍾乳洞対策アクセサリーを手に入れて来た!」
「長くかかったねえ」
「…他のこともしてたからネ」
《地の洞窟》ダンジョンに来た椛は、管理人さんに言われて遠い目になった。先に炎の魔神と契約しようと思ったら地獄の溶岩洞だし、なんかイベント始まるし…
アクセサリーの素材なんてほぼ一瞬で集まったものだ。
とにかく、先に冒険者組合にも寄って来たので準備万端だ。炎獄のレベル上げもついでにする余裕があれば良いなと思うのだった。
レベル70ダンジョンで手に入る追加素材も欲しいし、レベル上げしたい仲間もいる。
鍾乳洞は足場の対策さえしていれば難しくなかったので、椛は余裕を持って進めていた。
気分転換で外のフィールドに行ったり、罠を仕掛けてお肉の補充をしたり、レベル上げをしたり。
ただ地下に篭っていると太陽が恋しくなるだけだ。騎獣で走りたい日もあるし。
という言い訳をして、レベル70ダンジョンに行って召喚獣たちのレベル上げをしに来た。全召喚獣レベル70が目標なので、何日かかかるだろう。
炎の魔神はレベル1スタートだが、ボーナスのおかげであっという間に実用できるレベルになった。
「火と地のユニゾン魔法もあるの?」
「もちろんだ。我の有能さが分かって来ただろう、主よ」
「魔法は強いけど、立ち回りがな…」
「くっ!」
高性能のAIなのでバトルを重ねて学習して行けば強くなる。逆に言えば仲間になりたてはいまいちなのだ。
そして指導するプレイヤーの能力が問われるため、椛もまだまだだった。
だが話せるからこそアレが使いたいとか、こうしてはどうだと提案して来るところが他の召喚獣と違う。天狐もそうだが、そこは使いやすさに繋がっている気がする。
やかましい事に目を瞑れば。
「という訳でバトルの特訓だ、MPが切れるまで!」
「大技を使っていいか、主よ」
「MPの管理能力も鍛えろ」
流星と玄幽は「特訓だ!」と喜んでいるのに、炎獄はバトルジャンキーには程遠かった。
地の洞窟は炎の溶岩洞に比べたら、かなり易しかった。アクセサリーで対策さえしておけば。
ダンジョンのボス戦も易しかった。
ついでに地の魔神戦も易しかった。
「奴はラスボスだった…?」
ものすごく順調に進んで、椛は1週間足らずで地の魔神と契約していた。とても騙されている気分になる。
「どこにラスボスがいたの?でもそれよりあたしにキュートでラブリーなアイドルらしい名前を付けてよ!」
「…アイドル…炎獄に合わせて地獄はどうかなって考えてた」
「ありえなーい!」
「格好良いではないか」
「ありえなーい!」
さすがに冗談だったが、アイドルっぽい名前も想定外だ。
見た目は地属性の黄色系の目と明るい茶色の髪の10歳くらいの女の子で、炎の魔神同様にアラビアンな衣装である。
セクシーさは全く感じないが、健康的でアイドルっぽいと言えばアイドルっぽい気もする。
アイドルアニメの主人公ではなく、ライバルっぽい雰囲気というか。魔界の住民だからか、光より闇を感じる。地属性だけど。
常時召喚枠の流星と玄幽、そして月牙と魔神以外は送還して、まだ封印の間にいた。
鍾乳洞のままで、別にアイドルステージではない場所だ。
「…これが世界のアイドル様だ」
「みゅっ」
何も思いつかないので月詠を召喚してみた。地の魔神も「伝説のミーティア…!」と驚いていた。
「…マスコットキャラとして採用してあげてもいいよ!」
「引き立て役でもするのか?」
「みゅう?」
「あたしが主役なのー!!」
地の魔神もロリ系美少女ではあるが、そもそも万民受けする小動物とは土俵が違いすぎた。
それに天使たちは7歳くらいの少年少女たちで、ビミョーに年格好がかぶる。方向性は天使と魔神くらい違うのだが。
ついでにサイズは大違いだが、小妖精たちも10歳くらいの外見なのだ。今から参入する新人には厳しい業界だった。
「…地の魔神だし、語尾になんとかだっち、とか付けてみる?」
「ダサっ!」
「チイちゃんくらいしか思いつかない…アイドルとは…」
「みゅうみゅう」
アイドル…アイドル写真集のバルジェ様…
アイドル…普段から興味なくて知らねえよ…
難問に頭を抱えた椛だった。
地の魔神の名前は地波に決まった。
椛の提案した名前がことごとく没になり、当人が「地波が1番マシだった…!」と言って受け入れたのだ。
椛にネーミングセンスなど期待してはいけない。他の召喚士たちはきっとキュートでラブリーなアイドルらしい名前を付けてあげることだろう。たぶん。
「一応考えて来てたんだよ。グレースとかグラディスとか。地面ならグランドかなって」
「なんで先に言わなかったー!?」
地波は横文字のオシャレな名前が良かったらしい。海外のアイドルなんて、さらに存在からして見た覚えがなかった。
「グレースのほうが可愛いよね?ねえ?」
「我は地獄が1番良かった」
「こいつもっと駄目だったー!」
炎獄は素で地獄推しだったらしい。椛もそれはないなと思う。
しかし1度決めたら変更が利かないので、地波に決まってしまったのだった。
「ついでだから風の魔神の名前も考えておこうと思うけど、何かある?」
「風の斬撃で、斬獄」
「あんなナルシスト、ナルシーでいいよ」
風の魔神族は全てナルシストらしい。
それも椛には苦手な性格である。
「水の魔神は?」
「プリンちゃんだ!」
「年増のババアだよっ」
なんの参考にもならなかった。特に炎獄。
月詠がみゅうみゅう言って流星と玄幽がうんうんとうなづいていたが、魔神たちは通訳の役にも立たなかった。
□新アイドルの魔神ちゃんです!
地波は気に入られなかったからね…




