205プレイ目 カナリア
神殿の転移門で聖女様を見送ったところでイベントがクリアになった。
同時にワールドアナウンスが流れた。
《カナーラント王国の王都カナリアにおいて、邪神教団1がプレイヤー名:匿名によってクリアされました》
《これ以降、カナーラント王国の王都カナリアの邪神教団1は再挑戦可能になります》
椛はカナリアの話というより邪神教団編だったのか、と思う。つまり他の国でも発生するシナリオということだ。
ハイレオン帝国とか。
国ごとにイベントがあると思っていたが、予想と違う繋がりなのかもしれない。
「…にゃ?」
「どうかした、天狐」
「あの辺りから悪寒を感じにゃ!なんであ奴ら妾を睨んでいるのにゃ!?殺る気にゃ!殺ってやるにゃ!!」
インスタンスエリアから通常のゲーム世界に戻り、周囲にプレイヤーたちがいたのだ。
現在はイベントのせいで特に集まって来ているから。
何故こちらを睨んでいるのか知らないが、天狐が臨戦態勢で睨み返している相手は生産職っぽい女性プレイヤーの集団だった。
妖狐にゃんを手に入れ損ねた連中か、それ以外に理由があるのか。
「放っときなよ。じゃ、送還します」
「にゃ〜!妾頑張ったにゃ!助言もしたにゃ!役に立ったはずにゃ!玄幽ばっかり美味しいもの食べてズルいにゃ〜!」
「いつ玄幽から聞いた…」
「自慢されたにゃ〜!」
余計なことを…と思ったが、玄幽の食費が多いのは確かだ。
強欲妖狐の言いなりになったら破産するので、今回だけだと言い聞かせる。
でも椛もちょっと甘い気はしていた。
睨んで来る連中はスルーして、商店街に向かう。天狐もそんな連中よりご馳走に意識が向いたからか、スキップ混じりにちょこまか走ってついて来た。
「と言っても、この都の美味しい店ってカフェと喫茶店くらいしか行かないからなあ。パフェかプリンアラモードあたりで良い?もちろんひとつだけな」
「パフェ…プリンアラモード…!」
両方を出す店があるので、そこに行くことにした。時間を見ればダンジョン攻略するには足らず、かと言ってログアウトするほどの時間でもない。
早めにログアウトしても構わないが、余った時間でのんびりしようかなと思ったのだ。フレンドたちにクリア報告をしてもいいし。
掲示板はワールドアナウンスのせいで荒れているだろうから、落ち着くまで覗きたくなかったが。
カフェに入って椛はパフェとプリンアラモードをひとつずつ注文した。
「ま、まだ決めてないにゃ!?」
「届いたの見て、好きなほうにしな。どうせサイズを見たら、プリンアラモードになるから」
「そんなことないにゃ!…サイズにゃ?」
この店のプリンアラモードは大きいのだ。パフェはそんなでもないので、並べたら一目瞭然である。
しばらくして届いたものを見た天狐は、迷わずプリンアラモードを選んだものだ。
パフェは1種類しかないが、フルーツミックスなので見た目もカラフルで美味しい。
とりあえず天狐と一緒にスクショを撮って「勝利のスイーツパーティ中」とフレンドたちにメールを送っておいた。
あとはクランチャットのほうで、攻略のヒントを少し書き込んだくらいだ。
ぐずぐずしていると天狐にパフェが狙われるので。
もったいない妖怪が一口ずつ大切そうに食べるので思ったより時間がかかったが、一応満足したようなので送還してやった。
タイミングを誤るとさらに強請って来そうだし。
「あ、神殿前で妖狐にゃんを連れてたら睨まれたって言っとこう」
入手できなかったプレイヤーたちがそれなりにいるので、集まって来ている所では特に気をつけたほうが良いだろう。
嫉妬して他人をあからさまに睨むような性根の連中など椛はどうでもいいのだが、不快感の軽減のためである。
羨ましいと羨望の目を向けられても居心地が悪いから、人の多いところでは出さない方針だった。
そんなやり取りをしていて、イベント中に知った大事な情報を思い出した。他のプレイヤーも聞くだろうが、先に警告しておきたい話なのである。
邪神の遣いが西の大陸で砂漠を作った元凶という話より、隣のサーバーで起きた帝国の悲劇を起こしたものの正体と予想される話が良いだろう。
まだ進めていないイベントなので、失敗の可能性を減らすためにも周知しておきたかった。
アホには期待していないが、アホじゃないプレイヤーには注意してもらえるだろう。
「つまり、あっちにもアレがあるってことだろうなあ…」
もしかして帝国の騎士たちも、暗黒街に邪神教団の隠れ家があること、さらにそこに邪神の像が隠されていることを知らないのでは。
プレイヤーが指摘しないとフラグが立たないのでは。
検証クランのシラベにメールしてみれば、邪神の像の話は伝えていないはずとのことだった。そもそも邪神の像の情報を得ていなかったから。
[向こうのやらかし連中、どこでネタを拾ったのかな。それともこの予想が外れてる?]
[隠れ家で偶然隠してあった像を見つけた可能性もあるんじゃないかな]
情報を黙秘しているので想像することしか出来ないが、その可能性はありそうだった。
翌日は組合前広場に行くと、さらにプレイヤーが増えた印象を受けた。
失敗すると再挑戦できないと聞いて控えていた者たちも、クリアできるまで何度でも挑めるようになったから流行りに乗って来たようである。
クリア報酬を見たら発狂しそうだな、と椛は思った。誰も聞いて来ないので言わなかったが、掲示板では豪華報酬があることにされていた。こんなに面倒くさいんだからあるに決まっているという思い込みである。
広場を渡ってダンジョンに行くつもりだったが、ロウガイがいたので声をかけた。
「教団員編はどんな感じ?」
「うむ、即バッドエンドじゃ。なんとかそのエピソードはクリアしたがの」
RP勢なので、ロウガイはこのイベントを楽しんでいた。面倒くさいと思うタイプには向かないイベントだった。
「今日はあの方が目を覚ましているだろうから、これから話に行く所じゃ」
「早ければ今日終わりそうだね」
「クリア後も再挑戦可能かの?」
「クエストリストから、好きな所から遊べるっぽい」
そしてクエストリストからリタイアも可能になっていた。完全にミニゲーム扱いである。
椛はそこまでやる気はないし、魔神シリーズと契約したいので忙しい。
「そうだ、魔神シリーズは契約する順番もあるのかもしれない…水の魔神を先に仲間にしていたら炎の溶岩洞の攻略が楽になる的な…!」
「そんなに大変なんじゃな…」
「近くて手軽に通えるのに、プレイヤーが寄り付きそうにないダンジョン…嫌がらせか」
風の塔あたりは強風がキツいくらいで難しくなかったが、ボス戦はしていないのでまだ分からない。
厭らしいギミックがある可能性もあるだろう。
「イベント終わって、こっちがクリア出来てなかったら手伝ってくれない?水魔法が欲しい…!」
「そんなにキツいのじゃのう…」
クリア出来る!という確信がなかった。
ロウガイはまだレベル上げの途中らしいが防熱スキルは持っているので、明日以降なら手伝うと言ってくれた。
それでもクリア出来なかったら、後回しだなと思ったものだ。




