204プレイ目 カナリア
「我々の世界に終焉をもたらした奴が来る!」
椛は貴族街や神殿、衛兵隊や騎士団を見かけるたびに訴えて回った。
イベント中だからか、面白いようにNPCたちが信じて青ざめていた。
邪魔なプレイヤーもいないので、冒険者組合や商業組合でも触れて回った。
話していないのに、あっという間に通行人たちにも噂が広まったらしい。
「すごい。まだ3時間しか経ってないのに」
「この街、きっと呪いのせいでマトモな判断力が低下してるにゃ…」
「王太子殿下もそんなこと言ってたっけ」
そういう設定なのだろう。
神殿の転移門の近くで見ていたら立派な馬車がやって来て、アワ食った様子の貴族が転げるように降り、神官たちに何か喚き散らしていた。
眺めていたら、椛に気付いて肩をいからせながら近付いて来た。
「貴様、移住者だな!ここで何をしている!」
「終焉が来るなら何をしても無駄だなあって…でも噂の聖女様の聖なるお力なら奴を倒せるかもしれない…でも聖女様は王都から追放されたとかなんとかで、待っても来ないって聞いて…」
「せ、聖女、だと…!」
「星の配置と古来より受け継がれたカバラの系統樹に記された知恵が、奴はこの王都カナリアに現われると示してる…!たとえ聖女様が奴を倒してくれてもこの王都だけは救えない…!だから、この景色を目に焼き付けてから、転移門で逃げようかなって」
適当なトンデモ設定を語るだけで面白いように信じてくれるので、椛はだいぶ楽しんでいた。
隣に座った天狐は達観した顔でキャンディを頬張り、舌の上で転がしている。
今はキャンディよりNPCたちを転がすほうが楽しいのに!
そんな調子で椛は待った。
誰かが聖女様を王都に呼んでくれる瞬間を。
さらに1時間が経過した時、???な顔の聖女様が転移門から現われた。
それでも白銀の神聖なローブは呪い耐性付きだろうと分かる。
「聖女様!奴が現われる場所は判明してます!」
「奴?終焉をもたらすものとは何なの?王都で何が起きているの?」
椛が声をかけると聖女様は困惑を深めたが、一緒に現われた貴族が「その移住者と行って倒して来い!」と喚いている。
王命を受けて聖女様を呼び出しに行った貴族である。
とにかく聖女様を連れて貴族街に向かった。
道すがら説明したら、怒る前に「そこまで影響が」と深刻な表情になった。
「普通ならふざけんなって言われて終わる話を簡単に信じるからおかしいなと思って、試しにやったら大成功で」
「楽しんでたにゃ」
「楽しくなっちゃって!」
聖女様は軽く息をついたが、やはり怒らなかった。
「それよりも、邪神の遣いが最優先ね。視界が利かないくらい黒いモヤが室内に充満していたのね?」
「素人でも分かるヤバさでしたね」
「起動される前に壊さなくては…」
邪神の像に力を溜めている状態から、いつでも起動できるらしい。どんな被害が出るかは溜まった邪神の力によるそうだ。
史上最悪だったのが《七つの災厄》カースドラゴンと呼ばれているものだ。
だがもっと規模の小さい被害はいくつもあったようである。
貴族街にある店に行き、地下から奴が現われる、聖女様なら倒せるとちょっと力説したらすぐに通してくれた。
聖女様は遠い目をしていたが、黙って話を合わせてついて来た。
「こんなところにあったのね、入口が…」
「お貴族様と金持ちの商人たちが利用する入口らしいですね」
下についたので、椛と天狐が先行して復活していた邪教徒たちを倒す。聖女様がいることは気付かせてはいけない。
気をつけながら室内を確認し、閉じていた隠し扉を開けた。
中からゾンビみたいに数人の邪教徒が出て来たが、問題なかった。
中にもう残っていないことを確認して、聖女様を手招きした。聖女様も無言で近付き、きゅっと唇を噛みしめながら一気に隠し部屋に入る。
杖で一撃。
天狐の見立て通りに、それで邪神の像は破壊されてしまった。
次に聖女様が呪文を唱え、神聖な白銀の光が魔法陣を描いた。王太子の呪いを祓ったものと同じ力のようだ。
ほどなく隠し部屋の中も、近くの他の部屋もすっかり祓い清められていた。
「これでここは大丈夫…街の中をもう少し祓って歩きたいのだけど」
「そこの廊下を進むと未練の塔がある区画に出てしまうので、上に戻りますか?」
「そう、ね…」
聖女様は迷う素振りを見せたが、ゴーストタウンヘ行く選択をした。
詳しい話は聞いていないが、聖女様が王都を追放された原因になった事件があったらしいのだ。
「数十年前は、邪神の遣いが起動して死の呪いが撒き散らされたの。その場所に」
「前に言ってた死の呪い…」
「呪いを受けて1日で死に至る呪いだったわ。それも感染力が強くて、その区画が封鎖されたの。祓い終えた人たちも外に出られなくて…」
城の中のような廊下を歩きながら聖女様が語ったのは、地獄の話だった。
祓っても祓っても感染力が強すぎて呪われてしまう。呪い耐性の装備をうかつに出したら、王が取り上げさせて持ち去った。
それでも祓えばタイムリミットが伸びるから、何度も祓って命を延ばした。
でも聖女様のMPだって無限じゃない。
順番に祓って回っても、やがてサイクルが崩れて死者が出た。
少しずつ死者が増えた。
生者が減ったから祓う対象が少なくなって、やがてどうにか全ての呪いを消し去った。
外の人たちは祓い終えた話をなかなか信じなくて、しばらく閉じ込められていたらしい。
「今は誰も住んでいないそうね。当然だわ。まだ呪いが残っていたらと思うだけで近付けないでしょう」
それだけ恐ろしい呪いだったという話だ。
しかし不意打ちでヘビーなネタを語るのはやめていただきたい。トンデモ設定ではしゃいでいた少し前との落差で風邪を引きそうである。
「それが理由で追放されたにゃ?」
「そうよ。わたくしが責任をとらなくては、救えなかった人たちも納得しないわ」
「呪い耐性の装備を上手く使わなかった王が10割悪いにゃ。無能すぎるにゃ。人間は生きてこその労働力なのにゃ!死なせるなんてもったいないにゃ!」
「お前は何を言っている、もったいない妖怪」
強欲妖狐は人間の命も、もったいないから殺さないで使い潰すらしい。どっちが酷いのか。
「っていうか、レンツで各部族の長たちを殺させてなかった!?」
「妾は殺せなんて言ってないにゃ!殺生石を取って来いって言ったのに、奴らが暴走したせいで計画が台無しにゃー!」
「他に死者が出たという話はほとんどなかったそうだけど、その主義が理由だったのね」
トシュメッツ国の件は案外被害者が少なかったらしい。死傷者という意味では。
操り人形にされて人生を台無しにされた被害者の数はかなりのものである。
「妾だってもっと国力が強くてお金持ちの大国に行きたかったにゃ。でも殺生石があるから他に行けなかったにゃ」
「妖界にでも引きこもってろ」
何故か性悪強欲妖狐の愚痴を聞かされているうちに、廊下の端まで来ていた。階段を上がって部屋から廊下に、そして外に出る。
話を聞いたあとだと余計に不気味に感じるゴーストタウンが広がっていた。
聖女様は何も言わずに街を見て回っていた。
人のいる商店街のほうへ行けば注目の的だったが、寄って来る者はいなかった。
でも泣いて感謝の祈りを捧げている老人もいたし、安堵の表情を浮かべる者はもっと多かった。
「なんか、王の怒りに触れたくないって感じだね」
「追放されてる人間に関わりたくないにゃ」
「そうね。早く終えて帰りましょう」
終焉をもたらすものは聖女様が出て来たところを一撃で倒したことにした。
呪いを祓ったあともまだ騙され続けるのかは不明だが。
暗黒街の表側(地下街)は祓ってませんね…




