202プレイ目 カナリア
「一億数千の下僕…!?」
「わ、我々だって数億人の教団員がいるのだぞ!延べ人数ならば!」
「く、異界の第六天魔王、なんという勢力を…!」
敵が変なところに反応して対抗意識を示していたが、椛は聞かなかったことにしてサクッと片付けた。
やはり推奨レベルが低かったらしく、とても弱かった。
「く…!第六天魔王、恐ろしい…!」
「大昔、第六天魔王を自称していたうつけがいただけで、そんな魔王は存在しないって言わなきゃ伝わらなかったね」
「リビング・ソードになら伝わったにゃ」
「まあね」
バルムンクならすぐにノッて来るだろうが、それはともかく。
なん、だと…!?みたいな顔で貴族っぽい服装の老人が見て来る。黒いローブの連中のボスもそんなまさか、という顔で見て来る。
「芸術は爆発だ!という名言を遺した音楽家もいる、移住者の故郷」
「何が爆発するにゃ」
「私こそが神だ!と思い上がった新興宗教の教祖もいた…」
「魔王のほうがマシに聞こえるにゃあ…」
移住者めぇ!!と怒り狂っているが、そこまで真面目に信じるとは思わなかったのだ。
他のNPCたちにまで広まって誤解が深まりそうだったので訂正したのである。
それより待っていればまた騎士団を連れて来るのかなと思っていたが、しばらく待っても誰も来なかった。
「こいつらどうしよう…下手に連れて行くとその老人に冤罪を擦り付けられそうだし…」
「貴族どもは貴族の味方にゃ」
「放置しても復讐されそうだし…」
どういう対応が正解なのか。
「そ、そうだ!この国で移住者の言葉など誰も信じぬ!儂の言葉を信じるだろう!」
「おお、第六天魔王のネタを真に受けてたお貴族様のお言葉は深いねえ」
「信じてしまったにゃ」
老人をからかいながら考えていたが、部屋の奥から黒いローブがもう1人出て来て勝ち誇り出した。
「フハハハハ!王太子への呪いは完成した!これで貴様も終わりだ!」
「なんでわたしが終わるの?」
「終わるのは王太子にゃ」
「でも丁度良かった。呪われてますよ王太子殿下!って言ってアンセムに連行しよう」
なん、だと…!?みたいな顔Part2をした黒ローブも倒して、椛は街に戻ることにした。
貴族が使うという出入り口の場所を聞き出して、その場は放置して駆け出した。
時間を見たら、ダンジョンなどに行っていたこともあり、だいぶタイムオーバーしていたからだ。
早く終わらせてログアウトしたかった。
貴族用の出入り口は街の北側の貴族街にあった。
高級店を装った建物の奥から、階段を下りて行けるようになっていたのだ。
店番たちにキャーッと叫ばれたが、気にせず外に出る。天狐はこのあたりの店に興味があるようだが、一介の冒険者は入口で追い返されるだけである。
「どこだ、王太子…」
「向こうから悲鳴が聞こえるにゃ」
天狐が神殿のほうを指差した。今は幼女姿だが、耳は良いらしい。
他にアテもないので神殿前広場まで行ってみると、近付く途中で椛にも聞こえて来ていたが、かなりの人が集まって騒いでいた。
「お終いだ…!」
「ああ、聖女様、お助け下さい…!」
「やだやだ!帰るぅ!」
「駄目よ!呪いが伝染したらどうするの!」
逃げようとした者は周囲の住民たちに捕まって押さえ付けられている。
泣いて祈る者、絶望して地に伏す者と、様々な反応をしているが、これは。
「呪い…?」
「目に見えるほどの呪いだよ、冒険者さん。あの方が、王太子殿下が…」
椛の呟きに反応して、近くにいた老人が広場の中央を示した。人をかき分けて向かってみれば、あの騎士っぽい男が立っていた。
その身体から黒いモヤのようなものを放ちながら。
「ちょうど良かったとか言える雰囲気じゃないけど、呪われてますよ王太子殿下!って言って連行しやすいね、天狐」
「本当に実行する気にゃ」
「もちろん」
呪われた王太子を放置するほうが問題だろう。転移代くらいは払ってもいい。今回だけは。
椛は天狐を連れて広場の中央に進む。
王太子が昏い目で振り向いた。
「近付くな」
「呪い耐性90%あるから大丈夫です。祓える方のところへ行きましょう」
「私はこの国の王太子だ。王都を離れるなど許されない」
椛は説得の言葉を考えた。3秒くらい。
「時間がないんだ!貴方の心が呪いに喰われてしまう前に連れて行かせてもらう!」
早くログアウトしたいので、適当な設定を作って王太子に斬りかかった。
それまでの敵より強かったが、やっぱり推奨レベルが低いのだろう。あっさりと片付いてしまった。
集まっていた人々は椛の適当設定を真に受けて、快く送り出してくれたものだ。
この世界のNPCたちは冗談が通じないというか、純真というか。
今回は助かったけど。
神殿の転移門でアンセムの街に王太子を担いで来た椛は、殺生石を持ち込んだ時に使った隔離部屋に王太子を連れて行った。
特に何も頼んでいないが、気付いた神官が聖女様を呼んでくれたらしい。
「その方は…!いいえ、祓うのが先ね」
「お願いします」
聖女様は杖を取り出し、呪文を唱える。
白銀に輝く魔法陣が現われ、強く清浄な力があふれた。
王太子は白銀に輝く力に包まれ、黒いモヤが消えて行く。
しばし眺めていれば、完全に消え失せた。同時に魔法も消えた。
「今のは他の神官様には…」
「聖法士では無理ね。他の神法士なら祓えると思うわ」
神法士は世界中に100人弱しかいないらしい。
治癒士のプレイヤーたちには頑張ってもらいたいものだ。
「それでその、わたしはもう活動限界なので…」
「では空いている部屋を使うといいわ。目覚めたら貴女からも話を聞きたいから」
「もちろんです」
宿屋まで走るのも一苦労なので、神殿でひと部屋借りて休むことにしたのだった。
現実で1日経ってからログインした椛は、借りた部屋で満腹度チェックをして適当なものを出して食べた。
こういう時はサンドイッチが手軽なので、そこそこの数をアイテムポーチに入れている。
「あ、メールとメッセージも来てる。イベントの続きが他の人にも発生したのかな」
気にはなったが、余計なネタを仕入れる前にこちらのイベントを進めてしまうことにした。
部屋を出て、最初に見つけた神官にあいさつとお礼を告げて聖女様のことを尋ねる。
椛が起きるのを待っていたようで、すぐに面会することになった。
案内されたのは賓客用なのか、神殿にしては豪華な内装の応接室だった。聖女と一緒に王太子も待っていたからだろう。
「こんにちは。王都に戻らなくて大丈夫ですか?」
「ああ。私を煙たがる者ばかりで、あそこに居場所などないのでな…」
「…王都を離れるなど許されない。キリッ」
「…忘れてくれ…!」
王太子は呪われていた間の記憶もあるようで、ちょっとからかったら頭を抱えて悶えていた。
もちろん聖女様に怒られた。椛が。
軽口を叩くのはそこまでにして、椛は王都であった出来事を順番に説明した。
道化野郎が牢から逃げたこと、暗黒街で襲われたこと、暗黒街の入口がそのままになっていたから違和感を覚えて見に行って、そこで邪神教団の連中と貴族が一緒にいたこと。
そして王太子に呪いをかけたと言い出したから、急いで街に戻ってすぐに神殿前広場で王太子を見つけたこと。
指折り数えて、たぶん間違いないと思う。椛の記憶力にしては良く覚えていたものだ。
「あ、王太子殿下の呪いは伝染するほうでした?」
「いいえ、それは大丈夫。王都にもそれは伝えたから、混乱はおさまったそうよ」
「放置した連中は逃げただろうし、あの貴族の老人、名前も分からんし…」
カメラで写真でも撮るべきだった。今ごろ気付いたが、興味がないのでスクショの1枚も撮っていない。
だが王太子が、どの貴族でも大差ないと首を振った。邪神教団と繋がっていても、王は気にも留めないだろうと。
「…大丈夫なんですか?」
「全く大丈夫じゃない。アンセムに来るまでこんなことも考えられなくなっていた…」
それは目に見えなかっただけで呪いの影響を受けていたという事か。今は療養中と言ってアンセムに滞在しているそうだ。
呪い対策がないまま王都に戻れないから。
「このリボンを譲渡するしか…」
「いいえ、それは椛さんが装備しておいて。わたくしなんて現役時代に集まった物がたくさんあるのだけど、これを個人に譲渡すると障りがあって…」
「特に王族に渡したら、他の国が黙っていないだろう」
個人の所有物に口を出すほうがどうかしているが、勇者様御一行は世界中から特別視されているのだ。
平等に1個ずつ配っても、国の大きさがどうのとゴネるだけだろう。椛にも想像がついた。
そんな話をしてから、椛から報告することはそれ以上なかったのでお暇しようと思った。
「あ、天狐に邪神の遣いがカースドラゴンになるとかなんとかの話も聞かないと」
イベントのせいで忘れかけていたことをつぶやいたら、聖女と王太子が顔色を変えて立ち上がった。
「邪神の遣い…邪神の像はあったの!?」
「え、見てないです」
「確認だけでいいから、見て来てもらえないだろうか!?」
「まあ、王都に戻る予定なので構いませんが」
厄ネタの気配しかしない。
失敗したらカナーラント王国も砂漠になるような、そんな厄ネタ臭だった。




