201プレイ目 カナリア
翌日はイキりキッズが大幅に増えていた。
イベント好きのプレイヤーもたくさん押し寄せていた。
暗黒街で起きるイベントは、無事に全プレイヤーに発生したようだ。そうでなかったら話が違うと怒り狂っていただろう。
椛は天邪鬼なので、楽しそうにしているプレイヤーたちを見ると逆に萎えるタチだった。テンション低く冒険者組合の2階に上がり、レベル70ダンジョンを探した。
「なんで移住者が突然押し寄せて来たの?何か始まるの…?お、恐ろしいモノを召喚する儀式とか…!」
「知らなーい。わたしは炎の魔神を召喚するためにダンジョンの攻略をしてるだけだよ」
「炎の魔神は恐ろしいけど、そういう話じゃないな」
ホラーはやめて!とか掲示板に書き込んでそうな性格の資料室の職員が怯えていたが、ただの被害妄想だ。
移住者たちを恐ろしい存在だと思っているらしい。
プレイヤーたちは資料室には来ていないので、ここは比較的静かである。
下から賑やかな喧騒が聞こえるくらいだ。
「あ、騎士団を従えてた騎士っぽい恰好の人、正体は聞いたらいけないの?」
「…ああ、あの方。正体は秘密だよ。きっとみんな気付いているけど」
「知らない振りして、自由にお調べ下さいって思ってる感じ?」
「そうだね」
うるさい連中がいないので聞いてみたら、予想通りの答えだった。これで王太子じゃなかったら、何か情報を見落としていたことになる。
だって他にメインキャラになりそうな登場人物は出て来ていないはずだ。
「…あ!ギルマスがリボンというか、呪い耐性50%防具を贈りたい方って!?」
「呪い耐性50%!?」
スカッと忘れていた話を思い出した。
ギルドマスターの執務室に呼び出しを受けた時も連中に喚かれたのだ。しかもそのリボンを寄越せとまで言いやがったのだ!
あの時の奴らかどうかは区別がつかないが。
僕も欲しい!という顔をした職員は、ギルマスの好きな人の噂の真相にたどり着き、そういうことかあ、とちょっとつまらなそうだった。
「うん、贈りたい方なんて、お一人だろうね」
「あれ、そういう話だったのか…」
椛はギルマスから聞いて気付いたのだったか、直後に喚かれて忘れたのだったか…
昔のこと過ぎて思い出せなかった。
ダンジョンの場所を調べて、ついでにエリアボスのいる場所も調べた椛は、王都の外でたっぷりバトルをしてストレスを発散した。
炎の溶岩洞でのバトルはストレスが溜まるだけで、楽しくはなかったのだ。
ボスも嫌がらせのような耐性持ちだし。
「やっぱり主どんみたいに素早さが高くて攻撃が当たりにくいけど、当たりさえすれば気持ちの良いダメージが入る敵のほうが楽しいね」
「あんっ」
「ガウッ」
流星と玄幽が力強く同意した。固くてカスダメしか入らない敵はストレスのモトである。
ボス以外は魔法がそれなりに効いたが、椛と流星と玄幽は魔法を使わないので見てるだけだった。
他の職の者たちは違う意見かもしれないが、椛たちはそちらのほうが楽しいのである。
「紺碧とアクアのレベルもだいぶ上がったし、明日こそあのクソボスを…!ん?」
王都に向かって騎獣で走っていた椛は、王都周辺の貧民街の様子に違和感を覚えた。
イベントのためにプレイヤーがたくさんいると思い込んでいたが、そういう雰囲気ではない。
暗黒街の入口のある辺りが荒されたまま、壁の穴も野ざらしの状態だ。臭いものに蓋をする労力すら惜しんだのか。
…イベントの続きかな。
プレイヤーの姿がないのはインスタンスエリアに切り替わっているからかもしれない。
流星たちを送還し、呪い耐性装備を確認してから壁の穴を覗く。
廊下が伸びているが、そちらの壁が壊されて街の中から出入り出来るようになっていた。
ゴーストタウンだから誰もいないのだが。
人がいないことを確認して、廊下の途中にある扉を見る。鍵がかかっているはずだが、ここも扉が壊されている。
「そういえば入口のゴロツキたちもいないなあ」
無人なので独り言がやけに響く。
椛は天狐を召喚した。こういうイベントでは便利な存在かもしれない。
「またここにゃ?嫌な気配がしてるにゃ」
「邪神の呪いパワーが分かるの?」
「分からないにゃ。でも感じるにゃ!」
「それは分かる」
椛も呪いなんて分からないが、無人で不気味だからという以上に何か感じるものがある。
ホラー映画でヒタヒタと忍び寄る何かの気配みたいな、這い上がって来る悪寒のような。
壊された扉から部屋に入ると、建物の外観には似つかわしくない豪華な応接室になっていた。ハイレオン帝国の城に連行…招かれた時に、謁見の間に行く前に通された部屋がこんな感じだった。
その部屋の絨毯がめくられて、隠し扉が存在を主張していた。その隠し扉も半開きになっている。
「なんか、こう、ぺたりぺたりと怪生物が這い出して来そう…」
「邪神の使徒の可能性のほうが高いにゃ」
「地下深くで眠りについていた古の悪夢が今、黄泉帰る…!」
「邪神の使徒は覚醒段階が進むとカースドラゴンになるにゃ。呪いを超越して大地を砂漠に変えるにゃ」
「…あとで聞く」
椛はトンデモ展開を期待していただけなのに、天狐が大事な話をし始めてしまった気がする。
砂漠は西の大陸にあるが、それより隣のサーバーである。
話を聞くためにも、ここのイベントをクリアしてしまいたかった。
隠し扉から地下に続く階段を下りた。
貴族や金持ちの商人が使う場所だと聞いていた通り、ただの階段もその先の廊下も金のかかってそうな装飾がされていた。
「まるでお城の回廊のよう」
「妾の好みじゃないにゃあ」
ヤマト国が好みっぽい天狐は文句を言いつつ、壁の絵画や柱のあたりの花瓶などを見て楽しんでいた。
懐に入れてネコババする気はなさそうだ。
「…は!ネコババし過ぎて語尾ににゃが付く呪いでもかけられたのか!?」
「にゃ!?呪いは邪神の専売特許にゃ!なんで妾が邪神に呪われるにゃ!」
「呪いじゃないなら…天罰?」
呪いじゃないとは言ったが、ネコババしてないとは言わなかった。
つまりそういうことだ。
なんて与太話をしながら廊下を進むと、途中に開かない扉がたくさんあったもののイベントに関係なさそうなのでスルーして来たが、突き当たり近くの扉は開いていた。
イベントは分かりやすく誘導してくれるようだが、フラグの見つけ方を分かりやすくして欲しかったものだ。
扉の向こうを覗けば、ここも豪華な内装の部屋になっていた。
そして都合よく話を始めた。
「なんという失態だ!移住者ごときに遅れを取るなど、どうなっておる!」
「あれは異界の魔王の下僕だった!第六天魔王だと言っていたのだ!」
椛の適当な話がイベント内容に影響してしまったらしい。
怒鳴った貴族っぽい服装の男が、黒いローブの邪教徒に言われて慄いていた。
室内には他にも貴族の家来や黒いローブの連中もいる。
「ま、魔王だと…!?」
「異界の魔王がどのような存在かは分からん。だが魔王を名乗るモノがたいした力を持たぬはずがない」
「魔王か…勇者にでも押し付けてしまえ」
「勇者が呼ばれて困るのはそちらだろうが」
「聖女は上手く排除したというのに、王太子め、余計なことばかり…!」
勇者と魔王の話も気になるが、本題は聖女と王太子のほうだろう。
神殿に呪いが視えない落ちこぼれ神官ばかりいるのも、こいつらの策略か。
「王太子も邪魔になって来た。呪いはかけられるだろうな」
「あの程度の耐性なら問題ない。王の怒りに触れて上手く消せると良いのだが」
「ふん。そこまで制御できないだろう」
ここは急いで知らせに戻る場面か、一網打尽にするところか。
椛は迷わず決めた。
「天呼ぶ地呼ぶ人が呼ぶ!第六天魔王が一億数千番目の下僕、ここに推参!」
どうせ推奨レベルが低そうだし、と思ったのは内緒である。
呪いは邪神の専売特許ですが、恨みつらみに妬み僻みなどの感情から生じる呪いっぽいモノもあります。区別せずに『呪い』と呼ぶので紛らわしい可能性があります…




