200プレイ目 カナリア
200話ですよ!
ここまでお付き合い下さりありがとうございます。まだぐだぐだと続く予定なので、今後もよろしくお願いします。
「サイコキネシス!とか使えないの?」
「そなた、妾のステータスを確認しておらんのにゃ?」
椛と天狐が言い合う。
王都カナリアの暗黒街の奥の奥、邪神教団の隠れ家(特に隠してない)の前で、倒した教団の教徒たちとオマケの道化野郎の処遇で悩んでいた。
呪いの充満しているだろう場所に可愛い召喚獣たちは呼びたくない。
天狐はおぞましい妖気を放つ妖怪だからきっと大丈夫。むしろどうでもいいので呼んだだけだ。
そのため人手が足りないのだ。
いくら椛がレベル70でステータス上は怪力女だろうが、1度に運べる人数など限られている。
天狐もステータス上は怪力妖狐だが、4、5歳の幼女姿なので椛より役に立たない。
イキりキッズたちを呼んだら我先にと飛んで来るだろうが、あんな連中とフレンド登録していないので呼ぶ手段がない。
掲示板に書き込んだら転移門を駆使してイキりキッズが増員されるだけだ。
役立たずを増やしてどうしろと…
悩んでいたら、いつかのイベントの時に現われた騎士っぽい男が騎士団を引き連れて駆けつけた。
ここで待つのが正解だったようだ。
「闇組合の道化師が現われたと聞いたが…何があった?」
「逃げるそいつを追いかけたら、ここまで誘導されてたみたいで、邪神教団の連中がぞろぞろと出て来た」
「邪神教団、だと…!」
「…え、暗黒街にいるの知らなかった?」
イベントの進行上、プレイヤーが伝えないとフラグが立たないことがあるとは聞いていたが、街の屋台のおばちゃんだって知っていたはずだ。
ゴロツキたちの鉄板の持ちネタのおかげで。
そこから!?と驚いてしまった。
これは他のプレイヤーたちも、当然知っていると思って説明を省いて、それが原因でフラグが立たないのかもしれない。
高性能なAIだからこそ、言うまでもなく知ってるよね、と思ってしまうのだ。
シラベがハイレオン帝国のイベントで似たようなことを言っていた気がする。
「ゴロツキたちが暗黒街で逆らったらいけないものって言ってるの、聞いたことない?」
「聞き覚えがない」
「…そっかー。下町とか出入りしてなさそうだもんね」
「そうだな」
騎士団の連中も「そんな下々のいる場所に行くわけなかろう」というふてぶてしい態度である。
王都の騎士団も駄目そう。
「多分そいつがいつかの仕返しで襲って来ただけだよ。それ以上は分からない」
「わかった。あとは我々で対処しよう」
騎士っぽい男と騎士団にまかせて、椛は暗黒街から出た。入口周辺はテントも倒れて、すっかり壁の穴が日の下にさらされていた。
逃げた連中がなぎ倒したのか、貧民街も酷い有様だ。
「直すかな、これ」
「元に戻す気がするにゃ。臭いものに蓋をする連中にゃ」
初対面なのに天狐が酷評していたが、信用できない空気しかなかったのは椛も同じだ。
「リーダーっぽい人、騎士団の服でも鎧でもなかったね」
「貴族か王族にゃ」
似た色合いなだけで、違うデザインだった。
やっぱり流れ的に王太子なのかなあ、と予想する。そんなに奇をてらった展開になる感じはしなかった。
何食わぬ顔で南門から街に戻った椛は、特に変化のない大通りの様子や、冒険者組合も騒ぎになっていないので確信した。
インスタンスエリアに飛ばされて起こったイベントだったのだ。つまり他のプレイヤーも体験可能なイベントのはず。
だと良いなと思いながら商業組合の裏手に回り、そこから裏道を通って商店街へ。さほど離れていない場所に喫茶店がある。
店に入って紅茶を注文して、届いたそれに砂糖をたっぷり入れてひと息ついた。
それから忘れないうちにシラベにメールを送る。道化野郎が牢から逃げた話を聞くのがフラグだと思うという部分から、騎士団が到着するまでの顛末を。
読み返して、抜けはなさそうと判断して送信した。そして残っていた紅茶を飲み干した。
「お姉さん、おかわり。あとおすすめのケーキは何かある?」
「こちらの紅茶でしたら、ベリーのケーキですね」
この王都はラズベリーとブルーベリーのダブルベリーを良く推して来る気がするが、隣のアルヴィーナ王国からたくさん入荷できるのだろう。
あちらは森や平原をうろつくとすぐにたくさん手に入るくらいだったものだ。
それでも美味しそうだからおすすめを注文した。
ベリーと聞いて思い浮かべた月詠を召喚する。もちろん店員に許可は得た。プレイヤーの姿がない事も確認済みだ。
少し待って届いたケーキをさっそく楽しんでいると、シラベからチャットが入った。
[全プレイヤーが体験できるイベントだといいね。道化師のその後とか全く興味なかった]
椛もなかったが、騎士っぽい男(推定王太子)の話のついでに出て来ただけだ。
[検証に協力してくれそうなプレイヤーがたくさんいるみたいだし、情報を流していい?特定されて不都合が起きるなら控えるよ]
[特定はどうかな。盗み聞きキッズがたくさんいたし、それがフラグになったかもしれないし]
[じゃあ受付嬢から聞いてるプレイヤーがいたって第三者っぽく装っておこう]
あいつらみんな知り合いっぽいから、抜け駆けしたの誰だ!と犯人の特定を始めそうだが、誰もドヤっていないから気付くのではなかろうか。
しかし第三者がいなかったと証明することも不可能か。入口からこっそり覗いていた者がいなかったと言えるほど、あの日のことを覚えているとも思えないし。
バレたところで椛は正直に「なんとなく暗黒街に行ったら起きた」「お前らは暗黒街でイベント探してねえの?」と答えるだけである。
組合に張り付いているが、聞き込みもしないでイベント探しだなんて笑える。
刑事ものなら「足で探せ」が基本のはずだ。
地味な調査が大切なのだ、という風潮があったはずである。
「…まあ、わたしもそういうの好きじゃないけど」
面倒くさいことはしたくないけど、おいしいところだけ横取りしたい。
そんな都合の良いことを考えて他人に迷惑をかけているから嫌われるのだ。
椛はおいしいところはいらんから、面倒くさいことは誰かやっておいて、と思っているだけなのだ。そういうのが好きという人だっているのだから。
検証クランとか。
「あ、すっかり忘れてたけど、魔法玉…明日でいいか。レベル70のダンジョンがあればレベル上げしたいけど、それも明日でいいか…」
冒険者組合で情報を探すなら、連中がイベントにはしゃいでいなくなっている隙を狙いたいが、いつ気付くか不明である。
まとめスレにダンジョンの情報はあるが、場所は組合で確認しないと分からないので行くしかない。
そもそもイベントを進めたいのではなく、1番乗りしてドヤりたいだけで、はしゃぐどころか先を越されて怒り狂っているだけかもしれないし。
…本当に奴らがいない隙に組合に行きたいなあ、と思う。
その日はアイドル様を愛でて、店内にいたNPCたちと和やかに交流して過ごした。
外界の出来事から無縁でいたかったのだ。
アイドル様は何故「みゅうみゅう」鳴く設定になったんだっけ…?と考えて思い出したのですが、たぶんテイルズシリーズのアビスに出て来たミュウが可愛いかったからです(まんまだ…)




