191プレイ目 アイボナ
検証クランが西の大陸にほとんど行っていないので、そちらの情報はあまり集まっていない。
だがキャットテイルという尻尾が2本ある以外はサイズも見た目も猫そのものの魔物が生息している森の近くの街アイボナは、猫派プレイヤーが多く向かったおかげでそれなりに情報が出ていた。
椛が探しているレベル70で危険度Eで水属性特化という条件を全て満たすダンジョンが、このアイボナの街の近くに存在するらしい。
アイボナはバラク王国の南西の端にあり、椛が転移プレートで移動できるようにしてあるイズダス帝国の隣の国でもあった。帝都ダースティンから船でも行けるが、海岸沿いの街道を走っても1日かからない程度の距離だった。
何もかもが都合良く見えたので、椛は騎獣の月牙に乗って、召喚獣の流星と一緒にドライブ気分で駆けて来たところだ。
街の西門から門番たちにマップをもらって中に入る。ここは猫獣人の国なので、猫耳と猫の尻尾がやたらと目につく。
西の大陸の入口の港街リュリュアンはバラク王国と北のジダ公国の両方が支配する特殊な街だったが、犬派の椛は迷わず北側の犬獣人の街のほうへ行ったし。
西の大陸はエルフの国やドワーフの国、兎の国と狐の国以外は様々な人種がいるので、猫人はすでに珍しく感じない。
それでも猫人ばかりなのは新鮮な光景だった。
椛は犬派だが猫も好きである。犬がいるとついそちらに目が行くだけで、可愛い生き物は基本的にみんな好きだった。
猫耳のおっさんを見ても楽しくないが、猫耳のお姉さんなら可愛いなあと思う。でも子供たちのほうがより可愛いなあと感じるのだった。
街の中央の聖堂で転移門に登録して、南の大通りを南下して組合前広場にやって来た。この街は南に港がある以外は、スタンダードな構造の街だった。
椛は先に商業組合でショップ情報などを聞いてマップに反映させてから、向かいに建つ冒険者組合に入った。大通りを歩いていた時から感じていたが、プレイヤーが思った以上に多く滞在しているようである。
犬派より勢力が大きいのだろうか、猫派…
そんな地味な危機感を抱きながら、猫耳美女の受付嬢に声をかけた。どこの受付嬢も美女ぞろいだが、この国は猫耳美女ぞろいである。
いつも通りに冒険者カードを照合してもらい、ダンジョンの情報を確かめた。
椛の求める条件のダンジョンは、間違いなく存在していた。
「次からそのダンジョンに行くつもりなんだけど、ダンジョンのあるフィールドではどんな獲物が捕まるの?美味しいお肉はありますか」
「そのフィールドでしたら、通常は亀が捕まりますよ。鍋にすると特に美味しいんです」
「亀…鍋…」
スッポンかな。
食べたことないな、と椛は首をかしげた。
「稀に捕まるレアな獲物は鰐です。こちらはお肉も美味しいですが、皮が高級品なんですよ!」
「転売屋が狙う奴?」
「オークション級なので、売店には出しませんねえ」
「そんなにか…!」
鰐も食べたことがないのでテンションが上がらないが、レベル70のフィールドになると希少性が上がるようだ。
そして亀も鰐も口に合わない可能性を考えて、兎や鳥などの小さい獲物でも良いので捕れる場所を確認しておいた。
ダンジョンへ行く途中のフィールドなら罠を仕掛けやすいだろう。
「お姉さんもワニ革のバッグとか憧れちゃうの?」
「お財布サイズでも良いので、ひとつは欲しいですよ、やっぱり」
この街では女性陣の憧れの素材らしい。
王侯貴族もおしゃれアイテムとして持ちたがる高級品という設定のようだ。
きっとどこかに、高級なヘビ革も存在することだろう。
「バレンタインにチョコと一緒にプレゼントしてくれる男とかいないの?」
「ええ〜、そんな気の利く人、いませんよお」
チョコレートはたくさんもらっていそうだが、気の利く男はいなかったらしい。
だからモテないんだぞ男ども!と顔も知らない赤の他人に対して思ったものだ。
椛が組合の2階の資料室でダンジョンのことを調べ始めようとしていたら、数人の男性プレイヤーたちが追いかけて来て「どこのフィールド!?」と聞いて来た。
「ワニ革の話?」
「そんな好感度アップアイテムがあるなんて思わなかった!」
「全ての猫耳美女が喜ぶ好感度アップアイテム…!」
「まあ、この国では効果高いかもね」
でもフィールドの推奨レベルは70である。
男たちは「無理!」と即座に諦めていた。
「なあ、手に入れたら売ってくれよ!」
「あ?なんで赤の他人にそこまでしてやらなきゃならねえんだよ。わたしに何のメリットがあるんだよ。オークション級だって言ってたのは聞いてなかったのかよ」
レベルを上げようと言うならともかく、赤の他人のプレイヤーに図々しくねだる。
椛の嫌いなタイプのプレイヤーである。
喚き散らすクレクレ君とはまた違うタイプのようだが、椛に睨まれて顔を引きつらせていた。
何か言い募ろうとしたようだが、椛の視線の強さに負けて逃げるように資料室を出て行った。
「ああいう連中キライ!」
「確かに、ワニ革のアイテムを貰えばたいていの女性は喜ぶけど、ああいう男から貰っても好感度というか、恋心?みたいなものは全く上がらないと思うけどねえ。それで心が買えると勘違いしてる男って多いけど」
「あー、だよねえ」
資料室の職員が呆れていた。
妻帯者っぽい落ち着いた雰囲気のおじさんだが、さっきの連中よりよほど女心が分かっていそうだ。
「職員さんは奥さんへの贈り物なんかは」
「ちょっと手が出ないかなあ。王侯貴族が競って求めるから、本当に高級なんだよ。さっきの冒険者に買える値段か怪しいくらい」
「素材でも?」
「うーん、どうかな?」
椛は値段をちゃんと確かめないとぼったくられそうだな、と思ったものだ。
プレイヤーが多いと、図々しく他人に集るプレイヤーも増えるらしい。
次は、戦闘職ならキャットテイルのタマゴを取って来て!とか言い出す連中に絡まれた。そんな所に行くつもりはないと言っているのに、自分たちは生産職だから行けないの!取って来てよ!と喚くのだ。
迷わず運営に通報してやった。
レッドゾーンに入ったのか、悲鳴を上げて逃げて行ったものだ。
商店街にあるプレイヤーたちの屋台や露天のある通りに来たら絡まれたので、近くの屋台の店番に尋ねた。
「あいつら、常習犯?」
「まあね。プレイヤーを見ると全員に言ってるよ。勝てなかった無理って答えたプレイヤーに対しては、舌打ちして使えねえとか吐き捨てて離れるから、腹は立つけど対処法として確立してるから」
「いや、無理。我慢してやる義理はねえっての」
椛はそんな扱いに甘んじる気になれない。
迷惑プレイヤーは相応しい末路を辿るべきだ。そう、垢BANとかね!
立て続けに被害にあったせいで、今の椛は通常の1.5倍は攻撃的な気分だった。
「というか、タマゴなんて実装されてから1年半…近く?になるけど、ドロップした数なんて1桁のままだよ。そんな幻を追いかけるのは、自分のためでもなければ無理じゃない?」
「そこまでドロップしないの…?」
「他の人はもっと落ちたかもしれないけど、わたしは10個もないね」
お年玉のタマゴを含めたら10個以上はあるのだが。クラーケン・ベビーとか。
なので存在を忘れている時間のほうが長いだろう。
「従魔士になるほうが可能性ありそう」
「テイムも絶望的って聞くけど、従魔士なら補正がかかるんだっけ」
「従魔士の知り合いがいないから知らんけど」
検証クランもテイム関連は手を出していなかったはずだ。従魔士になりたいと言うメンバーがいなかったとかで。
テイムして従魔化しても、凶悪な面相の魔物が可愛く、もしくは格好よくなることはなかったので、いまいち人気がなかった。
キャットテイルのような人気の魔物は少ないのだ。キャットテイルのために従魔士になった人はいるらしいが、詳しい話は分からない。
「ところでタマゴって何を持ってるの?」
「うーん、従魔士じゃなくてもテイムしやすいって噂のウサギとか、ハムスターの10倍可愛くないことでお馴染みのラット君…売っても二束三文だから放ってたけど、買う?」
「…ううん、いらないかな」
改めて見ても、誰も欲しがりそうにないラインナップだった。
近くの屋台のプレイヤーたちも、無言で首を横に振っていたものだ。
『オークション級』なのでプレイヤーたちの想定よりずっと高値がつきます(具体的な値段は聞いていないので椛も分かってない)
キャットテイルのタマゴもオークション級です
皮(鞣す前)と革(鞣した後)は、書き分けを間違ってそうで怖い…




