187プレイ目 カドマン
新情報が出て来たが、掲示板に書くとアホが余計なことしそうだから、敵のシモベが見てるから、という理論武装をして、検証クランは秘匿したままイベントを調べることにしたそうだ。
椛もそれが良いと思う。独占するなという奴は、まず自力で見つけてから言うべきだ。
どうせ独占して悦に入るだけだろうし。
帝国、特に帝都レイルには行きたくない椛は、予定通りカドマンでレベル上げである。
それから素材集めだ。
だがその日は冒険者組合で会った薬師プレイヤーたちに、まだ薬師(女)たちが研究所の前で抗議(格好よく言い換えてみただけで、喚き散らしているだけらしい)していると愚痴られた。
商業組合の狗も日参して来て似たような抗議行動をしているが、どちらも相手にされていない所がそっくりだ。
「そういえば、好感度が下がるどころか理解できない生き物すぎるのか、関係改善クエストコースにも入ってないっぽいよね」
「…嫌われてるというより、宇宙人を見る目かも?」
「え、悪評が悪評を呼ぶ最悪の状態とかじゃないの、あの人たち!?」
「いや、知らんけど」
椛は直接会っていないので、周囲の反応から言ってみただけだ。
商業組合の狗は謎のミュータント生物扱いになっているようで、冒険者組合にいるNPCたちの反応が薄いのだ。
塩対応されていたプレイヤーたちとは違うな、と思ったのである。
「あんな感じで放置されてるんでしょ?」
「あ、うん。研究所の門番たち、達観した顔だったかも…?」
「悟りの境地に至って、聴こえてなさそうだった」
どちらの状態がマシなんだろう…という疑問が浮かぶが、他人事なのでそれ以上の追及はしなかった。
のんびり過ごしているうちにホワイトデーがやって来た。
イベントは行われていないが、ホワイトデーと言われるとお菓子が食べたくなる。
うるさい連中は研究所の前にいるという話だし、椛は気楽に商店街を見て歩いていた。今日は玄幽も連れている。
玄幽は菓子は食べないが果物は好きなので、今は無花果を数個抱えて食べながら歩いている。梨や枇杷より好みだったようで、最近はこればかり狙って来るのだ。
森で毎回補充できるから良いが、早めにレンタル畑に苗木を持って行って増やしてもらわなくてはすぐに在庫が切れそうだ。
「お、兄さん、それはもしかして無花果か?」
「こいつ召喚獣だから。苗木なら売れる」
「苗木のほうが嬉しい!ありがとな、姉さん!」
野菜を売る農家の屋台が並ぶ通りでは無花果が目印になってしまったので、また伐採して手に入るからと1本ずつ売った。
レベルの高いフィールドで入手できる果樹の苗木は伐採するたびに味が落ちる物が多いので無花果もそうなのだが、森で伐って来た1段落ちる物でもレア物扱いだ。
森で果物を採るより手軽に収穫できる所が良い。
プレイヤーではなくNPCの農家だったので、こうして苗木を売っても商品が増えるのかもしれない。
料理はしないので野菜は買わないが、果物は補充して回った。林檎に葡萄に桃などは、たいていの街で売っている。
どういう基準なのかは不明だが、お菓子の材料だからかもしれない。
そういえばサクランボは見てなかった、果物図鑑には載ってたはず、と図鑑で確認したい気持ちになりながら屋台通りを抜ける。
途中で買った串カツを食べ終える頃に目当ての店に着いた。
「ここ焼き菓子のお店だけど、どうする?」
玄幽は甘い匂いを嗅いで、食べ歩きは満足したようなので送還した。
椛は1人で店内に入り、まずショーケースに並ぶお菓子を見比べた。手軽なクッキーや1口サイズで食べやすいゼリーにマシュマロなどが透明な小袋に入れられて並んでいる。
鳩の形はしていないが大きめのサブレが1枚入った物や、マフィンやマドレーヌなども1個ずつ売られていた。
全て制覇してみたくなる品数である。
「うむ、欲望に忠実に生きよう。お姉さん、全種類1個ずつ下さい!」
「ふふっ、お買上げありがとうございます」
制覇してみたくなったから制覇した。後悔はない。
薬師プレイヤーたちが「クッキーなんかが美味しいお店」と言って教えてくれたのだ。美味しいことは確かだろう。
喫茶スペースもあって、客の入りもいい。
むしろ満席なので、今回は一通り買い込むだけで帰ることにした。
気にいった物があったらまた来る予定だし、その時はお茶も飲んでみたいなと思ったものだ。
小さな広場や休憩所のようなちょっとしたスペースは、街のあちこちに配置されている。
木が植えられていたり、ベンチが置いてあったり、子供たちが遊べる公園ほど広くはないが、少し休むのにちょうどいい。
椛は人のいない裏道の休憩所を見つけたので、月詠を召喚してベンチに腰掛けた。
「おやつ休憩だよ。月詠はストロベリー?」
「みゅ!」
「好物と出会うとそればっかりになるね…」
ストロベリーの苗も買ってみたが、レンタル畑で言われたのだ。ルヴィスのものほど美味しいストロベリーは作れないと。
育てるのが難しいのだそうだ。
女王さつま芋も育てるのが難しいと言っていたから、作れるNPCは限られているのだろう。あとは農家プレイヤーが腕を上げたら作れるようになるはずだ。
そういう物は料理人プレイヤーがお買い上げして椛には買う余地がなさそうだし、ルヴィスの街に行けば買えるからまだ良いのだが。
「あ、ホワイトデーだから新作スクショを上げようかな。お菓子に囲まれたアイドル様」
「みゅうみゅう」
「囲まれるならストロベリーがいい?でも今日はホワイトデーだから」
ストロベリーが盛られた皿も置いて、ベンチに買ったばかりのお菓子を適当に並べた。月詠はストロベリーを抱えながらも、可愛いお菓子は見比べていた。
「うん、可愛い。じゃあ撮るよ」
「みゅ!」
モデルがノリノリでポーズを決めるので、椛が素人でもそれなりの写真になる。カメラでも撮ったので、あとで現像してもらおう。
「お店の中のほうが良かったかな…満席だったから仕方ない」
「みゅう」
プロは背景にもこだわるのだろうが、大雑把な椛はこだわりがなかった。野外のアイドル様も充分可愛い。
ということで撮影会は終了し、ストロベリー以外は片付けて椛はベンチに座り直す。
スクショはただの思いつきだが、本日のメインイベントはホワイトデーのお菓子なのだ。
「1番気になってたスイートポテトから行きます…美味」
「みゅっみゅう」
「甘すぎず、お芋の自然な甘さを活かしていて食べやすい…!」
「みゅうみゅっみゅう」
椛がスイートポテトをグルメリポーターの真似をして称賛する横で、月詠もストロベリーを大切そうにかじりながら何か言っていた。
たぶんストロベリーを褒め称えているのだろう。
天狐なら通訳できるだろうが、あんな強欲キツネを召喚したら菓子とストロベリーが食い荒らされるだけである。
フィーリングで「美味しい」「みゅう」と言い合ってしばらくおやつ休憩を堪能したのだった。




