186プレイ目 カドマン
「薬師がメインで進めるイベントかも、とか推測した奴がいたらしくてさ」
「連中が研究所の前で中に入れろって喚いてるって」
冒険者組合で薬師プレイヤーたちから残念情報がもたらされた。
クエストを見ていた椛も居合わせたプレイヤーたちも、残念な表情を浮かべていたことだろう。
研究所に入れない薬師なんて限られている。
例の薬師(女)たちだろう。
「努力という言葉を知らないのか、概念が理解できないレベルなのか」
「努力もしてなさそうだけど、性格の問題じゃないかな…」
研究所に入る許可を得る条件は、推測とはいえ判明している。
新たにカドマンに来た薬師がそれとなく尋ねたそうなのだ。研究所にしかないレシピが欲しいなあ、という話として。
他の薬師たちが許可を得たって聞いて、と言えば相手のNPCも納得しただろう。
信頼できる相手じゃないとな、もちろん薬師としての腕も必要だが、お前さんならそこは充分か。
といった返事だったそうだ。予想と大差ない。
だから研究所の前で喚いてないで条件を満たせよ、という話である。何もしないで入れろも何もないのに。
「研究所に用はないから、わたしは構わないけど」
「今は素材があるからいいけど、イベントが片付くまであのままかと思うと…」
「どんだけヒマなの、あいつら」
薬師たちは素材を買いに行きにくくて困るそうだ。そこは同情した。
「イベントの進め方、何か思いつかない?」
「そうは言われても」
「雑談スレでもけっこう予想されてるけど、決め手に欠けるというか、誰に言えば良いのか…」
薬師たちが困ってるようなので、椛も掲示板を覗いてみた。どのあたりか教わって、イベントについて語る部分を見つけた。
リスの話は、スクショ撮ってる余裕なんてねえよ、と答えておきたい。
「おお、陰謀論。いろいろあるね」
「陰謀論はない気がするけど、黒幕説はちょっと感じる」
「うーん、NPCに丸投げしてもいい感じにやっておいてくれる気がするけどな」
他力本願な椛がたまにやっている手段だ。
こんなん見つけました、調べておいて!
…主な被害者はシラベである。検証クランのメンバーがいたので、つい憐れみの目を向けてしまった。
「え、何?」
「ううん、試しに一緒に行ってみる?わたしの他力本願寺ムーブを見せてやるぜ」
「何するの!?」
たいした事じゃないよ、成功するとも言ってないよと言い訳しながら検証クランのメンバーを1人連行したのだった。
椛と検証クランのメンバーが来たのは、王都カドマンの役所である。
ここも他の街と同じく北東地区に役所がある。一般人は入れないだろう各省庁の建物も並んでいた。
比較的大通りに近い役所に入り、空いていたので受付カウンターにいた生真面目そうなおじさん役人に声かけた。
「こんにちは。移住者なのでまだ常識がかみ合わないなあって感じることがあるんですよ。それで口を挟んでいいのか分からないことがあって」
「なるほど。我々も理解できない移住者の方をたまに見ますね」
「研究所の前で喚いてる連中はわたしたちにも理解できないですよ」
椛と検証クランのメンバーは、促されてカウンターの前の椅子に座る。
「話を整理するために、すでにご存知でしょうが順番に説明して行きますね」
「お聞きしましょう」
「夜香花は現地のアンセムの冒険者組合だと300Rで買い取りされていて、商業組合だと500Rなんです。でもこの国の薬学研究所に初めて持って行った時に、2000R、2500R、安すぎましたかって言われて驚いたんですよ」
「…ええ、我が国に入って来ると1輪5000Rは下らない、時価だと言って吊り上げられていますから」
そんなにか!と2人そろって驚いてしまった。10倍以上である。
「まず商業組合のその所業がまかり通っている所が理解できなかったんですよね。冒険者が口を挟むことじゃなさそうだから言わなかっただけで」
「今の商業組合のギルドマスターは、ハイレオン帝国の貴族の血筋なんですよ。小国に過ぎない我が国は、逆らえません」
予想外の所に話が飛んだ。
そういえば小国群はどこも大国の顔色をうかがっている雰囲気を出していた。卑屈に感じるくらいに。
「そいつただの都落ちって奴なんじゃ…じゃなくて、先日、新薬完成の話が公表されたじゃないですか」
「はい、移住者の皆さまには感謝してもしきれません」
「それは王妃様から感謝状をいただいたので…新薬のレシピも薬師たちに公開されて、夜香花が素材として必要なことも知れ渡って、研究所で直接買い取りをすると発表されましたよね」
椛も話を頭の中で整理して、指折り数える。抜けはないはずだ。
「病についても説明されたようですし、心ある冒険者なら研究所に持ち込むでしょう」
「そうあって欲しいですね」
「で、なんで商業組合が冒険者組合で夜香花の納品クエスト出してんの?特効薬の素材だって言ってるのに横取りするような真似しておかしいだろ。前から怪しかったけど、こいつが薬の開発を妨害してたんじゃねえの。なんでブタ箱にぶち込まれてないんだよ──って思ったんですが、帝国かあ」
「帝国です…」
全て帝国の貴族だからで片付くらしい。
ランクSSの薬師がいるのに、この国では帝国貴族の落ちこぼれ(推定)のほうが立場が強いらしい。
「帝国でゴミカス…じゃなくてギルマスを裁いたりは出来ないんですか?商業組合は国家に属さないとかなんとかですか」
「証拠があれば…しかし、報復を恐れて出さないかもしれない…」
一介の役人に決められる話ではないので、王侯貴族たちがどう判断するかという問題だ。
「助けて聖女様って言いたいけど、あの方もこういう話には関われないんだろうなあ」
「恐れ多いですが…政治の話になってしまいますからね」
「政治どころか武力で脅してるだけやーん」
「だよなあ…」
ずっと黙っていた検証クランのメンバーも、方向性の違う話に頭を抱えてかけていた。
NPCたちから聞き出さないと分からない設定が多すぎる。
「でも帝国って、そういう卑怯なゴミカスを見逃すほどお優しいお国柄だろうか…」
「粛清対象っぽいけど、どうだろう…」
それもまた、現地で聞くしかないのだろう。
椛たちは役人に話を聞いてもらった礼を述べて、役所の外に出た。
「わたし、有罪bot化してる鬼女の群れがいるから、ホワイトデーの時期は特に近付けないよ…」
「ああ…イベントもないし、去年もホワイトデーのホの字も出なかったのに、お返しを期待する鬼女の群れか…ホワイトデーが終わってから行こう」
「行ってらー」
ホワイトデーの後も鬼女たちは荒れているだろうから、椛は行かないのが良い。きっと。絶対。
そこは検証クランのメンバーも「刺激したくないからな」と納得していたものだ。
関係ないプレイヤーには絡まないだろう。
「帝国と言えば、二陣のリセットはどうなったの?」
「ほぼ全員がリセットを希望して、4月から新規スタートらしい」
「アホがいると大変だね、あっちのサーバーも。あ、ゴミカスのシモベになった奴、帝国貴族って聞いて、なんか都合のいい話で釣られた?」
アホつながりで思い出したが、余程の報酬をチラつかされたのかもしれない。
空手形な気がするのだが。
「ああ、それならありそう。帝国に凱旋したら取り立ててやろうって奴」
「バカめ。得体のしれない移住者など本気で取り立てる訳がなかろう!って展開」
「見事なテンプレだー」
適当な予想でしかないので、本当の所は知らない。でもロクな話ではないだろう。
だってやってることが邪悪で頭悪そうで、どう考えてもクズっぽいから。
なんでそんなの信じちゃったんだろう、あのアホ…と冒険者組合で毎日見るプレイヤーを思い浮かべる。
名前も知らない赤の他人だけど。
ちゃんと見てないから顔は覚えてなかったけど。
今後も覚える機会はなさそうだなと思ったものだ。




