179プレイ目 ダースティン
勇者ドライデンと面会した後、椛は冒険者組合に来ていた。
会ってみてもこの帝都での皇帝の悪評と噛み合わなかったが、役人と貴族が好き勝手にやっているのは理解した。
お飾りの皇帝と言うほうがしっくり来る。
会って来たとか報告することではなかったので、組合内の酒場でローストビーフを注文した。すぐに出て来たそれを持って、空いているテーブルに着いた。
ふむふむ、まあまあと食べながら検証クランのシラベに情報をメールする。なんとかブローゼスト王国のイベントを進めて欲しいところだ。
あと思い出したので、砂漠で蛟のフィールドチェンジで海にするのはどうかと提案する。あまり活用していないので忘れていたのだ。
あんなに頼っていたのに。
ちなみに吹雪はあまりどころか全然使っていない。使いドコロさんが分からないのだ。
メールを送信して、次にクエストの確認をする。まだ帝都ダースティンの周辺に何があるのか調べていないので、さっと眺めただけだ。
自分の受けたクエストリストをメニュー画面から確認して、ランダムクエストが増えていないことを確かめた。変なクエストはいらないが、鬼女撲滅クエストはヒントが欲しい。
やはり王族…でも面会申請してあっさり会える王族なんていないだろう。勇者様は最強なので護衛もいなかったのかもしれない。
そういえば取り次ぎもいなかったし、秘書官などもいなかった。皇帝のお飾り感…
考えているうちにローストビーフを食べ終えていたので、おやつを出す。たくさん仕入れた焼き芋だ。
焼きたてホクホク、甘くて美味しい焼き芋さんである。
芋ようかんも美味しいだろうなあ、どこかの料理人プレイヤーが作ってないかなと考えていたら、シラベから返信が届いた。
[勇者と面会する方法はともかく、蛟も契約が難しいよ。フクロウより難しかったよ。サンダー・エレメント3体でギリギリだった。レギオン組まないと駄目かと思った。だから契約してる召喚士はまだ少ないんだよ]
そうですね、と椛も紺碧との戦いを思い出した。ルルイエの高速泳法クソボスよりちょっと易しい程度で、水中戦を集中的に練習していた当時でもきつかった。
水中戦、最近やってないなあ、腕が落ちてそうだなあと天を仰ぎたくなった。
[それより、二陣がハイレオン帝国のイベントに失敗したらしいよ。邪神の遣いっていう呪いを撒き散らす巨大な邪竜が現われて、帝国の半分と小国がいくつか砂漠に変わったとか。帝都にいたNPCは全員死亡したかもしれないって]
「…は?」
思わず声が出ていた。
あ、いや隣のサーバーの話だ、と自分を落ち着かせる。そんなに長くいた場所じゃないし、親しくなったNPCも多くはない。
でも帝都のギルマスとか歌って踊るアイドル様を見て盛り上がった客たちとか、しばらく缶詰めになっていた騎士団の兵舎で良く話した騎士たちとか…
動揺するくらいこの世界に愛着がわいていたらしい。椛も自分でびっくりした。
一度深呼吸してから、掲示板を覗いてみた。
まださして情報は上がっていないが、ザマァ!と盛り上がる連中がいたので閉じてしまった。
感性が理解できない連中の言動は、こういう時は見たくなかった。
その日は楽しく遊べる気分ではなかったので、組合の2階の資料室で大人しく情報収集したあとは早めにログアウトした。
翌日はリアルのほうのネットで情報を探してみたが、虚偽が入り混じっていてうんざりしただけだった。
椛に情報収集能力はなかった。
それでも昨日よりは落ち着いたのでログインした。腹ごしらえしたら帝都の外に出て、推奨レベルの低い森の近くで月牙と流星相手にもふもふして過ごしてしまった。
「ただのゲームだろって言えたら楽だけど、楽しくないだろうな、そのプレイスタイル」
このゲームがサービス終了したら、月牙と流星とは二度と会えなくなる。思い入れが強いほど喪失感が大きくなる。
そんなのいくつものゲームをしているから身にしみているが、覚悟が決まっている訳じゃないからきっと落ち込んで寂しくなって、そして次のゲームを始めるだろう。
今までと同じく。
「センチメンタルって言うんだっけ…」
感傷的というか。うじうじしているというか。
「今日は戦う気が起きないけど、次は反動で狩りまくりたくなってそう」
「あんっ!あんあんっ!」
「え、流星は今日も狩りまくりたい気分?今日はいいから次は絶対狩りまくりだぞ?」
「あんっ」
流星は元気いっぱいに主張した。毎日狩りまくりたいのかもしれない。すっかりバトルジャンキーだが、気遣ってくれるところが優しい。
椛は流星から元気をもらい、気遣いに心を癒された。
次は狩りまくろうねと約束して、愛狼たちとのんびり過ごしたのだった。
翌日は椛も流星たちと狩りまくりプレイをするくらいに復活したが、翌々日はログインと同時に撃沈した。
公式が帝国崩壊のPVを出していたからだ。
あんまり見たくなかったが、気になるので視聴した。イベントのネタバレはなかったようだが、邪神の遣いがヤバすぎた。
遥か上空から見下ろす視点で、帝国の南西部を中心に一気に全てが崩壊して砂漠と化した。
帝都のあった場所は、《神殺しの塔》があるからかろうじて分かるだけだ。街どころか湖も消えてしまった。
再び駆り出される勇者様たち。4人しかいないし、万全ではなかった。
あんなの勝てる訳ないと思ったのに邪神の遣いだけは倒して、そして勇者様たち4人も砂漠で倒れて画面がフェードアウト。
最後の砦すら失ってしまった。
「何この絶望感…!」
また心が揺さぶられて、つい掲示板を覗いた。雑談スレなら感性の合わない連中はあんまりいないのではと、そちらを見る。
だいたいが「何あれ」「終わってるんですけど」「怖い展開やめて」「ワールドリセットしますかってアンケート来てるって」「こっちのサーバーに移動させろって喚いてるのもいるって」という反応だった。
世界を壊した戦犯はこっち来んな!と言いそうになった。
でも九尾の妖狐の件も含めて、他のプレイヤーのことを考えていない行動をしていた奴は来て欲しくないのが本音だ。
運営もこんなバッドルートまで用意しなくても良いだろうに。
こちらだってどこで失敗するか分からないから怖いのだろう。イベントを進めれば決められたルートをたどるのだと、勝手に思っていた気がする。
一本道のRPGみたいに。
「そうだ、アイドル様の動画でも投げておこう。みんなアイドル様を見て気分を変えて」
椛はアイテムポーチから適当に食べ物を出して満腹ゲージを満たし、宿屋を出た。
アイドル様もいいが、愛狼たちに会いたい。
流星が喜ぶなら今日も狩りまくりに行こう。
あとフィールドで探したい果樹があったのだ。それを探しに行こう。
罠もたくさん仕掛けて美味しいお肉も手に入れたい。
やりたいこといっぱいだね!
と、半ば現実逃避しながら街の外に向かったのだった。
□海=海水=塩水なので…
□むしろオンディーヌの固有スキル『スプリング』で出す水のほうが可能性が高いです
(水属性でも攻撃魔法では反応しなかったのですが、こちらは攻撃性がないですし)




