173プレイ目 マリンシア
1歩ごとに気を使い、ざくりと砂を踏みしめる。
わずかに気を抜いただけで滑って転ぶのだ。とても神経を削られる。
さらに強い砂嵐が吹き付けるので防塵仮面なるアクセサリーで顔を覆っていた。目と鼻と口を砂から守る物だ。ゴーグルごときでは防げないので、見た目は捨てている。
「まさに、百聞は一見にしかず…」
「だろ?聞いただけじゃ伝わらないのに、1歩で分かるだろ」
「帰りたい…」
「まだバトルもしてないだろ」
「タグのサボテンにかける情熱が予想の万倍強かったー」
まだ砂漠の入口に何歩か入っただけで帰りたくなった。
椛のぼやきにタグは「スクショじゃ伝わらないんだよ!」と言い訳している。
日を改めて椛はタグと熱砂の大砂漠に来ていた。防熱スキル獲得クエストのためであり、砂漠で発見された幻獣と契約するためである。
幻獣のほうは諦めが入りつつあったが。
砂漠では騎獣に乗って移動できないので月牙は召喚していない。月牙がいないので流星もお休みにした。
玄幽は召喚してみたが、1歩で転んで怒って行かないとストライキを起こしたので送還した。
今の常時召喚枠は蛟の紺碧だ。
海の幻獣だが何故かちょっと浮いているので試しに呼んだら、問題なくスイスイ移動している。砂嵐も平気らしい。
「砂漠は無理かと思ったのに、分からん」
「いつ見ても格好いいな」
気位の高い紺碧だが、タグの賞賛に機嫌が良さそうである。
そうして少し進むと魔物が出て来た。砂の上を軽快に走って来る。
ぱっと見は犬系だが、ハイエナとかコヨーテがモデルのようだ。
「犬派のわたしも殺意わく…」
「火属性だぞ、気をつけろ」
「おう、お、おおう!?」
武器を構えたら足が滑って、椛はずるっと横倒しになり、そのままごろごろ転がってしまった。
「だよなあ、みんなが通った道だ」
「…ゲーマー歴何年だと思ってんの!?」
恥ずかしいというより腹立たしい。
もちろん自分に腹を立てていた。しかし立ち上がっても、また転びそうで満足に動けないのだ。
砂嵐のせいで風圧は強いし、視界は悪いし。
タグは多少慣れて来たとはいえ、マトモに動けない様子だ。大剣で敵の攻撃を流したり、隙をついて反撃していた。
そして主力のブリリアントホースの輝馬が魔法攻撃を加える。弱点は突けないものの、確実なダメージ源だ。
ちなみに椛の光馬と名前がニアミスしているが、ただの偶然だ。ネーミングセンスがニアミスしていただけだろう。
そして椛は砂に足を取られてかっこ悪くジタバタしているだけだが、紺碧が火の弱点属性である水属性魔法で魔物のHPをゴリッと削り、長いしっぽでビシバシ叩いて無双していた。
追加の召喚獣は特にいらなかった。
「すげぇ、格好いい!」
紺碧がタグのうちの子になりそうなくらい仲良くなっている。
召喚獣は譲渡不可能なので冗談だが、紺碧は賞賛されるのが好きだったんだなと学ばせてもらったものだ。
フィールドのレベル自体は50なので、弱点属性の魔法があればバトルはどうにかなるだろう。さすがに危険度表示もない。
紺碧のMPが危険水域になったらアクアと交代させようと椛は思った。
アクアは風で飛ばされそうだが、戦えない椛が抱えていればいいだろう。もう自分で戦う気も失せて来た。
「召喚士なら弓とか使えば?」
「動かない的すらかすりもしないわたしのエイム力をご存知ない?」
「知らない」
もちろん椛はどっしりと立って構えた状態で射たのだ。他のゲームでの話だが、器用をたいして上げていない椛では試すまでもないだろう。
玄幽なら覚えるかもしれないが、砂漠に入りたがらないので無理だった。
「まあ紺碧のおかげですっげー楽だから助かってるよ」
「そろそろ吹雪を試す?」
「そうだな。どうなるだろう。砂嵐にかき消される気がしてるけど」
「ここの砂嵐ならありえるね」
それも含めての実験だ。
召喚獣は環境に影響を受けないので、プレイヤーが防寒スキルの準備をするだけで済む。
椛が雪ぽよを召喚して抱えながら進む。コロコロしたそうだが、そのまま消えるだろうから降ろせなかった。
しばし歩くことに集中していると、次の魔物たちが来た。今度は転がる岩だ。
「げ、1番イヤなの出た」
「自爆しそうな見た目ですが」
「岩属性の魔法で岩を飛ばして来るんだよ。出現率は低いけど!」
「教えておけよう!」
全く出ない日もあって、先日は会わなかったから忘れていたそうだ。タグの記憶力は椛と同レベルだったことを思い出す。
などと言い合っているうちに岩がすぐ近くまで転がって来た。コロコロではない。ゴロゴロだ。
「雪ぽよ、吹雪をお願い!」
止まって魔法の準備に入った気配だったので、椛は雪ぽよに指示した。こちらはすぐさま発動する、天候操作スキルだ。
砂嵐が一瞬止まって、代わりに吹雪が吹きつける。
「どのくらい続くかな」
「あ、岩たちがぶるぶるしてる」
「おお、ダメージ入ってるね」
そうして吹雪が止まらないまま、数分経過した。ぶるぶるするだけだった岩がとうとう自壊するように崩れて消えた。
「吹雪、止まるまで待つ…?」
「もうこれ、効果時間いっぱい続くだろ…」
「検証クランなら待つだろうけど、もういいか」
「砂漠の夜は極寒って聞いたけど、出現する魔物が違うのか?」
「あいつら、吹雪には弱かったね」
思ったのと全く違う結果になったが、吹雪スキルのCTが長いのでこれで無双できる訳ではない。
寒さにも強い魔物もいるかもしれないし。
「防塵仮面のおかげか、吹雪でも多少まわりが見えるね」
「そうだった。吹雪で視界ゼロだったけど、ゴーグルで対策できたのか?」
「…仮面より格好いいね」
知ったところでもう行きたくないフィールドNo.2だ。もちろん1番は砂漠である。
雪ぽよは送還して、吹雪の範囲を抜けた。抜けても砂嵐になるだけだが、ここの温度差どうなってるのかなと思う。
椛がちょっと境界のところを眺めていたら、タグが「あ」と声を上げた。
「あ、あ〜!生えて来た!」
「何が?って何あれ」
砂の中から緑色の物体が生えて来ている。そしてポコンっと飛び上がった。
ポコポコポコン!と何体も出て来たのはサボテンである。
そして何故か吹雪のエリアのそばでそわそわと集まり、踊り出す。
「…もしかして雨なら喜んで出て来る幻獣か…?」
「というか砂の中に隠れてたのか…?」
何故踊るのかも分からない。
サボテンと言っても種類があるが、いわゆる柱サボテンがモチーフだ。高さは30CMほどで小さい。
左右から腕のような部分が伸びていて、他のゲームでも見た気がするデザインだ。
特に顔はない。
「カウボーイハットをかぶってバンジョーをかき鳴らしそう」
「バンジョーって何だよ。テンガロンハットっていう帽子じゃないのか、あれ」
「たぶん違う物を想像してるね」
古い『みんなのうた』なのでロウガイなら知っているだろう。あれは意外と変なうたが多いのだ。椛好みの。
ともかく幻獣が現われたので、椛とタグは声をかけて契約した。陽気に踊る【砂漠の緑】は返事も陽気で早かった。あっさりと契約完了である。
「うーん、サボテン…サボテン…サボ…」
「オレは、えっと、テンガロンハットのテン!」
「サボテンのテンじゃなく…?」
「…は!」
椛がうっかりサボと名付けた横で、タグがテンと名付けていた。ニアミス。
その後、タグもクエストのボスのところまで付き合ってくれて、紺碧とアクアの活躍でボス戦も楽勝だった。
楽勝でも周回する気は起きない。そんなバトルだった。
探していなかったが、帰り道の途中で灼熱ベリーを見つけた。激辛と噂のベリーである。
一応伐採して苗も手に入れたが、苗をリリースする必要はないかと判断した。こんな砂漠にはほぼ人は来ない。
クエスト以外では。
「でも地面じゃなくて砂に生えてるシュールさよ」
「どうなってんだろうな」
熱砂の大砂漠には砂しかない。地面も岩砂漠もないらしいのだ。
なんでこんな所に配置したの?と運営に聞きたいものだ。
□テンガロンハット(カウボーイハット)ではなくソンブレロを思い浮かべています
ネタのために勘違いしていることになった…
(二人とも詳しくなさそうだし…)
□ハイエナはジャコウネコに近いですってぐーぐるサンが言ってたけど、見た目の話なので…
□灼熱ベリーは古サマリータ王国内なら平原でも自生しています。砂地以外でも育つので畑で量産も可能です




