170プレイ目 ファルティ
はちみつより美味しいという花蜜を求めて、椛たちはエルフの国の王都の北門に来ていた。
北門は常時閉じられ、門番は外ではなく街から出る者を見張っている。その先が許可なく立ち入れないエリアだからだ。
まず門番に声をかけ、エルフの英雄の試練をクリアした証の腕章があるので愛想よく教えてもらえた。
「花畑までなら騎獣で30分くらいで着くよ。花畑には騎獣で入らないようにな」
「花蜜を集める瓶を持っていないなら、そこの管理事務所で買える。ああ、帰りに一応採取した物をそこで見せてくれ」
「市場に出回る量を管理したいだけだから、料金なんかはかからないよ」
許可さえあれば出入り自由で、採取も無料らしい。
でも売るとすごい値段がつくそうで、商人たちが狙って来るから気をつけろとのことだ。
どこにでもいるな、商人…いや、転売屋。
「まあ、やってみれば分かるけど、採取が時間かかって面倒くさいんだ」
「1人だと飽きて来るから、仲間と行くほうがいいよ」
普段の採取も面倒がる者が「え」と嫌そうにしていたが、自分で食べるためなので止めるとは言わなかった。
「あとは、そうだ。森の中に精霊たちがいるんだ。相性の良い相手と出会えれば契約できるだろう」
「まだ精霊召喚を覚えていないなら、探してみるのもいいかもな」
召喚スキルと精霊召喚スキルは別物だ。
椛はどこかで聞いた覚えがあるが、肝心の精霊とは会ったこともない。
「精霊召喚って、召喚している間は常にMPが減って行くのよね?確か魔力で出来た存在だから、魔力の薄い場所だと契約者からの供給が不可欠って聞いたわ」
「そうだ。ここの森は魔力が濃いから大丈夫なんだけどな」
魔力の濃い場所ならMP消費はないということだが、場所が限定的すぎる。MPの最大値の低い椛には使えそうになかった。
魔術士のロウガイも「MP回復ポーションが使えないと無理じゃのう」と言っていた。
とりあえず、そういう要素もあるんだねと覚えておくだけに留めた。すぐに忘れるかもしれないけど。
世界樹の森を管理している人たちの事務所に入ると、長老っぽい高齢のエルフばかりがいた。
「老人会…?」
「おバカ!」
頼闇に怒られたが、老人たちは笑って似たようなものじゃと答えた。
本業を引退したあとの、のんびり閑職ライフらしい。
「英雄殿が認める者はたいてい花蜜採取はツライと言って、自分のために渋々行くくらいじゃからな」
「若い者は他にやりたいことが山のようにある。だから当然じゃ」
「金に目が眩むような者は英雄殿のお眼鏡には適わんだろう」
「ま、ヒマな老人たちの仕事じゃよ」
今は事務所にいるが、花蜜採取も仕事のうちだそうだ。市場に出回るのは管理人たちの採ったものくらいなので、量が少なく余計に値段が上がる。
だが下手な者を入れられないので、今後も増えそうになかった。
「さて、花蜜を採りに行くのか?おお、瓶を買いに来たのか」
「大瓶、中瓶、小瓶がある。贈答用なら小瓶で良いが、自分用ならたっぷり大瓶がおすすめじゃ」
「大瓶に集めきる自信がない者は中瓶にするがの」
椛は迷いなく自分用は大瓶にした。
採取嫌いは中瓶にしたようだが、大瓶派が多い。どれだけ採れるかまだ分からないのだから。
「今からだと自分用しか採れないだろうけど、贈答用も買っておこうかな。きっとまた来るし」
「それも良かろう」
「とりあえず聖女様に」
「大瓶じゃ」
「大瓶じゃな」
「大瓶以外を渡して恥ずかしくないのか!」
「…あと領主様と『神の匠』に」
「小瓶と中瓶が良かろう」
「頑張って集めるのじゃぞ」
サイズは選べなかった。
聖女様用が重い。
あとは頼闇が「運命のバニーちゃんに出逢ったらプレゼントするわ!」と小瓶をいくつか買っていた。
運命の相手なら大瓶にしろよ、1人じゃないのかよ、とか椛も思っただけで言わなかった。
北門をくぐって出た森は、今まで通って来た森と違いが分からなかったが、騎獣で少し走ったら気付ける違いもあった。
魔力の濃度は全くわからないが、森の木々の間に淡く輝く存在が見えたからだ。
「精霊も6属性なんだっけ?」
「小妖精に似てるな」
「か、か、可愛いぃ」
「頼闇、MP足りるの?」
「足りる訳ないでしょお!?」
小妖精は小人っぽく人間そっくりの見た目だが、精霊たちは形は人間そっくりでも半透明で属性の色だけだ。ガラス細工の人形みたいにキラキラしていた。
精霊は相性が良ければ契約できるらしいので、召喚獣みたいな制限はない。
「…他の場所でも契約できるよね」
「そうだな。きっと。たぶん」
エルフの英雄の試練をクリアしないと入れない場所なのに、ここでしか契約できないなんて事になったらまた荒れる。
頼闇ではないが、可愛いので欲しがるプレイヤーが多そうだ。
たまに街道の近くまで来る精霊たちを眺めながら走り、薄暗い森の向こうが明るくなって来たのでスピードを落とした。
眩しさに目をすがめながら森を抜ければ、一面の花畑が広がっていた。様々な色の花が咲き乱れている。
椛と頼闇だけでなく、男たちも感嘆の声をもらす。
「うわあ、どんな広さだよ」
「そして距離感のバグった世界樹サマ」
「スクショに入りきらない世界樹サマ」
見惚れていた椛は、クラメンたちの言葉で思い出して、カメラを取り出す。
「…天使が欲しい!」
「撮影許可くれ」
「掲示板に上げられなくていい」
天使がたくさん欲しいが、椛しか契約していないのでミルクだけだ。それでも花畑に現われた天使に、目的も忘れて撮影会をしてしまった。
「あ、花蜜を採取しなきゃ」
「そうだった」
「満足して帰りかけた…」
「ブルーにも手伝ってもらおう」
「撮影会がまた始まるじゃない…」
「採取の邪魔をしなければ許す!」
ちなみに誰も妖狐は呼ばなかった。
あいつ食い荒らすだけだし…と言うまでもない共通認識だった。
花蜜の採取方法は、花を摘む、花を瓶の上で傾ける、ポタリとひとしずくの蜜が採れる。
これを瓶がいっぱいになるまで繰り返すのだ。
とはいえ満タンにしないとアイテム化しないとかそんなことはない。ただ少ない花蜜を見て切なくなるだけだ。
「…飽きた」
「食べる量が減るだけだぜ、好きにしな」
「一口舐めてみてから考えたら?」
「おれも手伝ってくれる召喚獣が欲しい」
「ハムスターは残念でしたね」
ハムスターは小さすぎて無理だった。
花は摘めるが、瓶まで運べないのだ。正確には運ぶ途中で蜜がこぼれて消えているらしい。
小妖精は飛べるおかげで手伝ってもらえた。
「でも、ほら、そっち聖女様用なので…」
「圧がすごかったな」
「大瓶以外許されなかったな」
「でも神官様たちと分けるだろうから…そうか、このくらいないと行き渡らないな…」
きっと聖女様の口に入るのは一口くらいだろう。足りなかったら「わたくしは昔食べたからいいわ」と分けてしまいそうだ。
「でも同じ色の花だけ集めろとか、もっと苦行…」
「自分用はミックスでいいよ」
「贈答用の難易度よ…」
花の色が違うと味がビミョーに違うらしい。聖女様用は白い花だけにするのじゃ!と厳命を受けたので、ミルクとブルーに頼んである。
今日終わらなくても明日がある。
頼闇もバニーちゃん用を集めるだろう。飽きていなければ。
「そうだ。目的果たしたし、この後どこ行くの?わたしはきっと頼闇と兎の国」
「ラーメンを食いに行く」
「オレはカレーだな」
「俺は砂漠で秘境探検に必須のスキルを取って来る」
秘境ハンターはこの世界でもっとも過酷な場所に行くらしい。
椛も兎の国で義理を果たしたら行こうと思っていた。炎の魔神のいるダンジョンに入るために必須なのは覚えていたのだ。
「ワシもその防熱スキルとやらが気になるのじゃ」
「防寒スキルが氷の平原で必須だったよな」
「あー、砂漠の熱を防ぐのか?」
「火山とか入れそう」
「火竜がいる山だろ。必要なスキルが足りませんって言われたのは聞いた」
「あとレベルも足りませんって話だっけ?」
「いつの話だっけ…」
椛は聞いた覚えがないが、どうやら掲示板などで一時期話題になったそうだ。
砂漠だけではなく火山に入る手段でもあるという事だ。
それは結局全員が行くことになるだろうが、とりあえずここで解散になった。
みんな気になる所へ行ってみるらしい。
「勇者様はなんとか帝国にいるんだっけ?」
「PVに出て来なかった英雄も気になるのう」
「そうだった。なんかあるのかな」
一気に行ける場所が増えたので、逆に迷ってしまう。最終的に全てを回るつもりでも、順番は大事だ。
兎の国、1番興味ないとか、そんなことは言えない。狐の国のほうがまだ興味があるとか、言えない本音だった。
止める
止める
ルビがないと引っかかるかな、と思ったので




