163プレイ目 ゼロイス
「フレッド団長の相談クエストがあるだろ?」
ブローゼスト王国の王都ブロムで西の大陸行きの船の様子を確認して来たタグが言った。
船のほうはだいぶ落ち着いて来ていたそうだ。
椛やクランのメンバー数人が移住者の街ゼロイスに転移プレートを使って集まっていた。
いまだに野ざらしだが、クランハウスの建設予定は立っていない。
「同じランクSなら団長のほうが好きだな…話したくらいで鬼女が湧かないし…」
「鬼女の都なのに団長は安全だよな」
「頼闇のせいで帝都の治安も悪化してるからな…」
一緒に帝都レイルでヤマト国解禁のイベント探しをしていたメンバーが遠い目をしていた。
ランスロットに相談すれば進むのよ!という思い込みを頑なに主張する過程で、ランスロット様ファンたちと揉めたらしい。
おかげで「ヤマト国は後回しでいいや」と帝都から撤退しているメンバーばかりである。
もう頼闇しか残っていないようだ。
「頼闇は放っておくとして、団長のイベントが進展したの?」
「そうだと思う。もう10回くらい愚痴に付き合ってるんだけど、城に行く展開になって」
「タグが根気強い…!」
「さすがこの世界の主人公様…!」
そのネタいい加減に忘れろ!と怒ってからタグは話を続けた。
でもイベントだろうが団長の愚痴に10回も付き合うなんて、たいていのプレイヤーは「やってられるか!」と怒る気がする。
「城でランクSSのロイド様に紹介されてさ。超絶美形の意味を知った…」
「せやろ。団長どころかジーク様すら霞んでモブに見えるレベルの超絶っぷりだからね」
「まさにそれ…」
見てない連中は「それは本当に人間か?」と首をかしげているが、次元の違う存在に感じるのは確かだ。
あれは言葉で説明しても伝わらないので、イケメン大好きなプレイヤーたちはスルーしている。
「まあ美形っぷりはどうでもいいんだけど、その後に出て来た貴族のおばさ…女の人がさ。あからさまに怪しかったんだよ」
「三十路越えたらオバサンかなって、わたしも悩んでる…」
「つっこみにくいネタやめろ」
「怪しいって、団長のイベントってどういうシナリオなんだよ」
「団長じゃなくて、鬼女のほうだよ」
タグはそのオバサン…貴族の女が怖かったらしく、続きやりたくないとボヤいていた。
「…心の底から、解決して欲しい…!」
「オレはやりたくないから、誰かに押し付け…任せたいんだ!」
「イベント横取りマンたちに掲示板で呼びかけたらどうだ?」
「やらない気がする」
「そもそも団長の相談クエストが発生しないだろ」
「話が通じない判定を食らうタイプと見た」
検証クランはトシュメッツ国の後日談イベントをやっているので忙しいと思う。
生産職でも進められて、ストーリーを補完する話を聞くだけとも言える内容らしいので、誰でも発生させられるそうだ。
椛も気が向いたらやってみようかなと思う。
「時間がかかりそう…」
「進めてるのタグだけじゃないのか?」
「なんでお前らはやってないんだよ!」
そして団長のイベントは現状、タグ以外に進めていそうなプレイヤーを知らない。
「検証クランが団長と親しくなる手段は検証してたけど、相談クエストは発生しなかったって言ってるのは聞いた」
「団長はけっこう街に出て来て、冒険者組合の酒場にも顔を出すから知り合いになるのは簡単らしいよな」
「闘技場にはいつ行く予定っすか!ってつい聞いちゃうけど、NGワードだったっぽいんだよ」
「好感度が足らない可能性もあるけど」
知らない所で団長の攻略が進んでいたらしい。残念イケメンだろうと肩書きが豪華なネームドNPCだと思われているようだ。
「好感度が関係あったら、会ってすぐのわたしに発生しなかったと思うけど…」
「通り魔はたいてい無自覚に特殊ルートを進めているから参考にしてはいけない、が合言葉だぞ」
「無自覚やらかし系主人公」
「特殊勝利とか公式に言われるレベル」
「秘境ハンターも特殊ルートを嬉々として進めてる気がするけどな」
怒りたいのに怒れない。
でも特殊勝利の条件を満たしたのは幼女スキーたちだったはずである。椛はちょっと煽っただけで。
「…結論、頑張れタグ!」
「誰かいないのかよ、イケニエ!」
「生け贄って言い出した」
「自分が生け贄だと気付いてしまったようだな」
「それに検証クランって持ち込まれたネタの検証は得意でも、イベントの発見とか下手だよな」
「黙っててやれよ…」
「探偵じゃなくて検証クランなんだからさ」
確かにシラベも「盲点だった!」みたいな反応をしていた。得意分野ではないのだろう。
「…ロウガイのほうが適任では…?」
「やる気にさせるネタがない」
「あいつは相談者に親身になるタイプじゃないだろ…」
相談されてマトモに相手を出来る性格なのはタグのほうだ。
タグも「ロウガイは、嗤うネタ探しを優先しそう」と首を振っている。
「おかしくなっていなかったら頼闇に押し付け…任せてたのに」
「それな。なんでムキになってんだか分からねえ」
「バニーちゃんのほうを優先すれば良いのに」
兎人の国が西の果てにあったと、我先にと西の大陸に行ったプレイヤーが報告していたそうだ。
西の大陸はヒューマンの割合が少なく、獣人とエルフとドワーフが多いらしい。
東の大陸はヒューマンだらけなので、世界人口の割合ならヒューマンが1番多いかもしれないが。
「タグに頑張ってもらうしかないけど、何がどう怖かったの?」
「説明しにくいけど、落ち着いていて話も通じてるしマトモっぽく見えるんだけどさ。このアバターの外見を品定めする女ってけっこういるから、最近は慣れて来たけど…」
「舌なめずりしながら見て来る女か…」
「そんなあからさまなのは暗黒街にしかいなかったぞ」
そしてタグは不快なだけで怖くはなかったようだ。
でも暗黒街にはいるんだな…と余計な知識を得てしまった。
「恐怖のデバフを受けた時くらい怖かったっていうか…」
「こいつヤバいですよっていう運営からのサインじゃねえの?」
「イベントのヒント的な?」
「…そういう事か!」
デバフで感じさせる事が出来るのだから、技術的にはあり得る話だ。
でも予告なしに食らいたくないものである。
「団長もその女の事は苦手そうにしてたし、周囲も腫れ物を扱うような雰囲気でさ!」
「怪しさしかないね…」
「城の連中は鬼女の原因を知ってそうじゃねえか?」
「ロクに調査してないもんな」
「あ~、ありそう…」
上層部は真相を知っているのだろう。
椛がどんな被害を受けていようとも、余所者の冒険者なので何も教えてくれないだけかもしれない。
そしてふと思い出した。
「聖女様が『似た話を少し思い出して…』とか『もしそうだとしたら…治す手段などないもの…』とか言ってたけど、まさかフラグだった!?」
「治せないのかよ!?」
「じゃなくて、全ての鬼女たちというより、大元がいるならソイツは治せないって意味じゃない?ブロムの数万だか数十万の住民が救われないのはさすがにないだろうし」
「ああ、大元がいるなら話が変わるって事か」
「妖狐にゃんの魅了みたいな話だな」
「似てるね」
妖狐に操られたNPCたちの姿を見たばかりだが、鬼女に比べたら怖くなかった。
原因がはっきりしていたのもあるが、発狂するどころか感情を持たない人形みたいで不気味というだけだったからだ。
でも《七つの災厄》の上位互換という事はないだろう。ないといいな。
「聖女様に聞いたら分かるかな…」
「国の上層部が隠してるネタだろ。説明してもらうためのフラグが足りないってパターンじゃねえの?」
「その場で教えて貰えなかったのなら、匂わせだけだったんだろ」
「…タグ、これから聖女様に話しに行ってみない?」
タグは「イベントが進みそうだからヤダ」という顔はしたが、ブロムで鬼女のボスに会えとは言っていないので渋々と頷いた。
それにアンセムの街はここから近いのだ。
しかし残念ながら、聖女様はタグの話を聞いて「そうなのね…」と悲痛な表情を浮かべはしたが、詳しい説明はしてくれなかった。
まだフラグが足りないのだろう。タグが「ブロムに行きたくない」と嘆いていたが、タグしか進めていないっぽいイベントなので頑張って欲しいところである。
でも頼闇の事を思い出して、椛は「タグが行けばイベントが進むのに!」なんて言えなかった。
鬼女は恐ろしいからね…
□団長も自分のファン(と思われる)にはカッコ悪い姿はさらしたくないので、相談クエストが発生しなくなります
□でも好感度は上がりやすくなります
□椛とタグは初対面で「覇王のファン」と言ってサインを貰っているので、そこはクリアしてました
「その外見ならモテるんだろう?」
「外見だけ見て寄って来て、少し話すと『思ってたのと違う。がっかり』みたいな態度で去って行くんだよ!モテてねえよ!」
「…チョー分かる!」
というやり取りで、タグは団長に残念イケメンの同類認定されてます
□相談クエストはフレッド団長以外でも発生します。NPC全員に存在する個別イベントのようなものです。サブクエストなので終わりがない場合もあります。リアルの友達の愚痴イベントがエンドレスで不規則に発生するのと同じ。
□タグが鬼女っぽいのに遭遇したので鬼女イベントだと思っただけで、あくまで団長イベントでした。鬼女問題が解決した後でも城に招かれる展開はあるので。
□椛たちは他に城に招かれるイベントの存在を知らないだけで、他のルートでも城に入って鬼女問題解決前だと遭遇する人物です。
□条件を満たすとヘッドハンティングや青田買いが趣味の宰相からクエストが出される展開が、たぶん1番正統派ルート。椛も召喚士としてクエストを受けましたが、順当に進められたら宰相に呼ばれる日が来たはず。
□国の重鎮から依頼が来て冒険者として名をあげて行く、とても真っ当な展開です。最初のほうのクエストをいくつかクリアしているプレイヤーはいても、まだ城に呼ばれる所まで進んでいないようです。
□生産職もプレイヤー特権の高品質の物などを作って王侯貴族の目に留まれば、注文クエストが来てやがて呼び出される展開になります。
□鬼女問題のせいで王都ブロムを拠点にしているプレイヤーが少ないのもありますが、上位職(レベル70にするという条件あり)になっていないうちはそこまで進みません。
□他の国にも似た立身出世展開はあり、好きな国に所属するルートも存在します。自由度は下がりますが、特典も多いです。
□すごく異世界生活シミュレーションっぽい…!(と書いてる人は思っている)




