164プレイ目 カドマンからルヴィス
ログインするとイベントの告知が来ていた。
季節に相応しいクリスマスイベントだ。
椛は去年のクリスマスは何だったっけかなと思いながら、宿の1室でお知らせをチェックした。
イベント報酬の限定アイテムは去年の物が復刻されていて、二陣のプレイヤーたちが喜びそうだ。新規アイテムもあるので、全体的に去年より豪華に見える。
「ランダムのプレゼントボックスかあ。あ、でも排出率が均等の優しいイベントだった」
1周年戦争のせいでプレゼントボックスは嫌いになっていたが、クリスマスにプレゼントがもらえるというシチュエーションは悪くない。
去年は天使や小妖精のぬいぐるみが人気だったが、偏って全然出ないなんてこともなかったし。
「でも増えたの、ぬいぐるみじゃなくて家具ばっかり…家を買えってか?」
大きいクリスマスツリーと小さいクリスマスツリー、クリスマスキャンドル、クリスマスリースなどのイベントらしい物から、暖炉(ただの飾り)やシックなダイニングテーブルとチェア、大きいラグに玄関マットなど、全部揃えたら一室コーディネートが完成しそうなラインナップだ。
紅白の使えない家具を作ったのと同じ運営か?と聞きたいくらいにハイセンスだ。
比較対象が悪すぎるせいだろうか。
「…イチゴのクリスマスケーキが食べたい。ブッシュドノエルも食べたい。料理人たちが作るかな?」
ストロベリーもとっくに食べ尽くしたので、月詠が食べたがっていたから買いに行きたかった。
と言い訳しながらマップを見て、転移プレートを使うのと街道を走って戻るのならどちらが早いかなと検討したのだった。
山道はマップで見るより移動に時間がかかると気付いたので、転移プレートでゼロイスに戻ってからアルヴィーナ王国のルヴィスの街まで行った。
アンセムの商業組合に寄ってレンタル畑の収穫も受け取ったから、準備は万全である。
ルヴィスの街のプレイヤーたちの屋台や露天が並ぶ通りへ行けば、情報通りにお菓子メインの料理人プレイヤーたちの屋台が出ていた。
ずっとフレンドになりたいと思いながら言えないでいる、女性プレイヤーたちである。
「ハロー、ハムスターは契約できた?」
「あ、いらっしゃい。まだお金が足りないというか、頼めそうな冒険者も見つからなくて」
レベル50のフィールドに護衛を頼んで向かうには、生産職だとお金がかかりすぎるらしい。ダンジョンではないが遺跡に入るのでなおさらだし、攻撃アイテムを使うとさらに経費がかさむ。
しかもハムスターの幻獣を探し回ると時間もかかる。時間の分だけ金がかかるのだ。
「そんな皆さまにご提案が。ストロベリーのクリスマスケーキとブッシュドノエルを作ってくれたら付き合うよ。ハムスターがいるから見つけるのも早いはず!」
「え、いいの?でも栗…」
「うちの畑の栗ならあるよ!」
ストロベリーはこの街で買えるし、ケーキの他の材料も揃うはずだ。
椛はただ美味しいクリスマスケーキが食べたいだけである。あとどさくさ紛れでフレンドになれないかなとちょっと下心があるだけだ。
同性だからバレても許される、ハズ!
クランのメンバー数とか細かい条件を聞いて決めることにした。
王都ヴィスタにいる連中に「クリスマスケーキが欲しくないか」と聞いたら何人か釣れた。
やはり美味しいケーキは最強だった。
「クリスマス当日じゃなくても、異性とクリスマスの準備してるとかイイよな」
「今年はクリぼっちなんて思わない!」
「ハムスターと契約に行くだけで、クリスマスは関係ないのですが…」
クラメンたちの下心のほうが酷かったが、夢を見たいだけで実害はないので黙っていることにした。
料理人たちのクランはエンジョイ勢の女性だけでお菓子メインと条件が細かいものの、それでも20人ほどいた。
椛1人だと4、5往復しなくては全員がハムスターと契約できそうになかったから、護衛のできる人手は欲しかった。
料理人クランのメンバーが全員参加可能な日を選んで、みんなで行くことになった。アバターの見た目は10代20代の女性が多いので、そうして揃うだけで華やいだ。
料理人たちも騎獣は契約していたが、試し乗りしてもふもふは諦めたと馬ばかりだった。馬は乗りやすさで有名だが、騎士NPCたちも良く選ぶ人気の騎獣である。
速度も他の騎獣に劣ることはなく、乗り物が苦手なプレイヤー向けの調整というだけなのだろう。
それに猛獣は怖くても、最初に馬の大きさを怖がる人はいても、どうしても乗れないというプレイヤーは少ない。料理人たちも全員が馬には慣れたそうだ。
慣れたと言っても速すぎるのは怖いという人もいるので、当日はのんびり走った。
椛は騎乗スキルがあるから騎獣の月牙が出て来た魔物を倒して進めるし、流星と玄幽のコンビを召喚したので見敵必殺と片付けてくれる。
フィールドでは魔物の出現数がさほど多くないので、クラメンたちまでバトルに参加するほどのことはほぼなかった。
飛ばして走れば1時間くらいだが、1時間半かけて目的の遺跡にたどり着いた。
「階段…」
「え、アバターだから大丈夫だよ。馬でも行ける、たぶん」
遺跡の入口が頂上だと知って絶望的な顔をした料理人もいたが、騎獣が優秀だったので階段も人を乗せて登ってくれた。
「…ゲーム内でもあの心臓破りの階段は駄目か」
「ごめんなさい、運動は駄目な子が多くて…」
「ううん、自分が平気だから説明してなかったし、馬が優秀で助かった」
クランリーダーの料理人が「本当、騎獣がいなかったら…」と愛馬をなでていた。
「入口周辺はセーフティエリアだから、順番に待ってもらうね。あんまり奥まで行かないほうが良さそう。ギブアップすればすぐ出られるけど」
「そのほうが助かるわ」
ここからは流星と玄幽、ついでに人が多いので月牙は送還して星影を召喚した。対ゴーレムのブルーはCTを考えて直前まで召喚は控えた。
「……ふふっ、楽しみ」
「可愛い子と会えるといいね」
「素敵なクリスマスプレゼントをありがとう。ケーキは今できる最高の物を作れるよう頑張るわ」
椛はその言葉に照れたが、男たちが無言で悶えたのは言うまでもないだろう。
その後もトラブルは特に起きず、料理人たちに被害が及ぶような事態にもなることなく、全員が公星と契約することが出来た。
クリスマス当日には約束通りに見た目も品質も、もちろん味も最高のクリスマスケーキを貰った。
「いつの間にか品質10が出来るようになってる…!」
「他の料理人がコツを見つけて、掲示板で情報を共有してくれたからよ。私たちは最近できるようになったばかりなの」
その情報を公開した料理人はこう言ったそうだ。
「だって他の人の作った料理も最高の味の物を食べたいから!」
料理は作るジャンルをある程度しぼらないと、熟練度上げなどが中途半端になるらしい。だから別のジャンルの料理は他の人に頼むしかないのだ。
どこの料理人か知らないが共感しかない。
そしてお礼を言いたい。
君のおかげで最高のクリスマスになった、と。
誰かが自慢したらしく、クリスマスの翌日は大荒れだったけど。
生産職は品質10(最高品質)を作れるようになって、上手く立ち回れば王侯貴族に取り入る事ができるはずですが、職人であって商人ではないプレイヤーが多いし、プレイヤー相手に売るのがメインだと思っている人も多いので…
そして料理以外の生産職は、また話が変わるので…




