161プレイ目 カドマン
頼闇にオーフォロ王国で聞いた話を伝えたら、帝都に行ってよ!と返されたがそれだけは断る。
頼闇こそ鬼女たちのことをどう思っているのか。椛がランスロットや帝国騎士たちと面識があるからと考えているようだが、その手前に待ち構えるのが鬼女の群れである。
たどり着ける気がしない。
鬼女鬼女言っていたら気が滅入って来たので、とりあえず玄幽を召喚して商店街のほうへ向かった。
「他に誰か召喚する?」
「ガウ!」
「あ、流星は街の中じゃ駄目だよ」
椛も流星と街歩きがしたいが、騎獣と間違えられてトラブルになるので却下だ。
玄幽は仕方なさそうにうなづいて、次に両手で呼びたい相手の大きさを示した。
バレーボール大よりふた回りは大きいだろうか。ぽよちーや陸・アクアあたりではない。
「…喋るほう?」
「ガア!」
「だよね!」
あんなのいらん!とばかりに怒る玄幽に安心して、月詠を召喚した。
玄幽に渡せばしっかり抱いてモフっていた。
「みゅ!」
「街歩きだよ。玄幽が月詠と歩きたいって」
「ガウ」
「みゅっみゅう」
玄幽はモフりたいだけにも見えるが、月詠はボクはアイドルだからね当然だねとドヤっている。
歩いているだけで通行人たちの視線が集まるが、いきなり突進して来る者はいなかった。
何ヶ所かで食べ歩いていて、ふと気付いた。月詠はベリー系ひと粒でご機嫌になるのでともかく、玄幽は椛と同じくらい食べる。
「あの喋るほう、食い意地も張ってた…」
自画自賛自伝で書かれていたので間違いない。
あんなのをうかつに街で召喚したら食費がかさむだろう。
最近は慣れて気にしていなかったが、玄幽だって食費がかかるのだ。これ以上は遠慮したいものだ。
月詠が勝手に屋台の近くにあるテーブルの上で歌って踊りだしたが、椛と玄幽は野菜の天ぷらっぽい揚げ物を食べながら遠巻きにして眺めていた。
この辺りに変なプレイヤーはいなかったようで、NPCたちが喜んで見物している。
良識のあるプレイヤーが混ざっているかもしれないが、区別がつかないだけだ。
「そうだ、港街では魚の揚げ物が多かった」
「ガウ」
食べ物の記憶はそこそこ甦って来る。
あのエビフライで天丼が食べたい、ヤマト国に行きたい。そんな気分である。
さつま芋の天ぷらも美味しいし、かぼちゃの天ぷらも好きだ。じゃがいもはフライドポテトのほうがいいけど。
実家では余った天ぷらを翌日に砂糖醤油で煮て食べていたが、衣に染み込んだ甘じょっぱい部分がまた美味しくて──
などと思っていたら、妖狐連れのプレイヤー数人が乱入していた。トシュメッツ国の首都から近いので、こちらに来たプレイヤーがいても不思議はない。
「きゃー!なんでこんなところにいるの!?」
「野良のアイドル様!?」
「私と契約して!」
「抜け駆けしないでよ!あたしと契約して!」
「みゅっ!?」
飛びかかられて、月詠は屋台の屋根の上に逃げていた。プレイヤーたちは街歩き用の服に替えているのか生産職か分からないが、屋台に土足で登って売り物を台無しにしている。
もちろん屋台の主が怒り、客たちも非常識さに悲鳴を上げたり抗議していた。
「ああー、せっかくの食べ物が台無しにゃ」
「買う金もないだろうに、弁償できるにゃ?」
「妾、とんだハズレを引いたにゃ」
「妾もにゃ。レベル上げすら出来ないにゃあ…」
妖狐たちが嘆いている。
ちょっと同情しそうになった。
これはアレだ。親ガチャにハズレたって奴。
椛は怒る玄幽を引っ張って、少し離れてから月詠を送還した。送還用の魔法陣が現われたはずだが、四代目の動画でも思い出したのか幻獣界に逃げられた!と喚いていた。
知っていたなら何故あんな勢いで突進したのか。
そもそも昼間の街にいる時点でおかしいと気付いて欲しい。
「絡まれると面倒くさいから行こう」
「グルル」
玄幽は不満そうだが、わざわざケンカを売りに戻ったりしなかった。
翌日、ロウガイが掲示板で話題じゃ、見たかった(アイドル様ではなくアホのほう)とメッセージを送って来ていたが、連れの妖狐たちの嘆きを教えたら何も言わなかった。
街歩きは楽しいが、昨日の連中がまだカドマンにいる可能性の高さを考えて、椛は街の外の低レベルの草原に来ていた。
ここなら流星と月牙を召喚できるし。
あんまりダンジョン攻略やボス戦気分ではない。
戦ってスカッとしたい時もあれば、まったり過ごして癒されたい時もある。今は後者だった。
寝転んでそよ風を感じてみたり、飽きてミルクとブルーに手伝ってもらって採取をしたり。
「音楽プレーヤーとかあればなあ」
BGMがないので、ちょっと音楽が聞きたくなる。環境音はあるから静寂が怖いなんてことはない。
しかし何故いま椛は癒しを求めているのだろう。メルツにいた時は元気にダンジョンに行っていた。
昨日の一件は遠目に見ただけだったから被害はなかった。1番の被害者は月詠だし。
…そっとチャットやクランチャットを覗く。
頼闇が[帝国のイベントが進まないのよお!]と荒れている。
クラメンたちは[椛に帝都は無理だろ][有罪botがいるだろ、あそこ][あそこの更新まだ続いてんだぞ]とホラーじみた話をしていた。
絶対に帝都は行かない。絶対にだ。
新たに誓いながらも震えが走る。ああいう鬼女たちは話が通じないので怖いだけだった。
「なんかちょっと、頼闇と縁切りたい…」
頼闇はヤマト国に行きたいだけだ。
そしてヤマト国で用事を済ませたら、西の大陸にある兎獣人の国に行きたいだけなのだ。
理由ははっきりしているが、それで椛に帝都に行け行けと圧をかけて来るのはやめて欲しい。
それにたとえ鬼女たちがいなくても、椛が行ったところでイベントは進まないだろう。東の海の怪物を倒したいと訴える以外に、椛だってやれることなどないのだ。
そんなの他のプレイヤーたちが試し尽くしているだろう。
[ねえねえ、聖女様は東の海の怪物の話になんか反応した?]
検証クランのシラベにチャットで聞いてみた。
椛がブルーに教えられた薬草を採ったりしている間に返信があった。
[話は振ってみたけど、そうらしいわねで終わったよ。以前から噂になってるからね。レンツの老人のその後には興味を示したから、そっちは報告しておいた]
最後の聖女様頼みは不発だったが、レンツのゴースト爺さんの話は椛も興味があった。
検証クランのメンバーが会いに行って、次のクエストを拾ったそうだ。
各部族の現在の様子が知りたい。
可能ならば会いたい。
伝えたい伝承がたくさんある。途切れていないのならそれで良いのだが。
そんな感じの内容だった。
首都メルツでの今回の騒動は誰かが伝えていたらしく、すでに知っていたとか。
その誰かも同じクエストをやっているかもしれない。面倒でやめてしまった可能性もある。
こちらのクエストを進めないと東の海の怪物は倒せない可能性はある。
だが別のクエストの可能性のほうが高いな、というのがおおかたの感想だ。椛もそう感じた。
これを頼闇に言っても余計面倒になるだけだ。
[頼闇がわたしに帝都に行け行け言わなくなる方法が知りたい]
[ボクのほうにも椛が行けば進むのに!って根拠もなく言って来るよ。具体的に何をするのか案を出してって返したけど、答えはなかったね]
[やっぱり何もないのかー]
相当ストレスが溜まっているようだが、椛にも付き合いきれなかった。




