160プレイ目 メルツからカドマン
「妾がわらわら…」
「妾がわらわら…」
「妾がわら…」
椛は転移プレートで一度ゼロイス経由でアンセムに戻ったが、メルツに来ていた。光と闇のダンジョンでボス周回をしたかったからだ。
クランのメンバーが何人かいたので、一緒に闇のダンジョンのほうに来ていた。そこで休憩中にみんなで妖狐を召喚してみたのだが、同一個体がわらわら出て来て本人たちが頭を抱えていた。
分身とはいえ、なんだか異様な光景である。
「レトロゲームだと同じのがたくさん出ても気にならないけど、これはおかしい」
「クローンだし」
「忍者だと思うしか」
ここに「妖狐にゃんがいっぱい!」と喜ぶ性癖の者はいなかったようだ。街では集まっているかもしれないけど。
「レベルは上げる?使える?」
「狐火って火魔法っぽいの使うらしいから一応な」
「魔法アタッカーじゃなくて、前衛で戦いつつ魔法も使うってタイプらしい」
「いわゆる魔法剣士タイプ?」
器用貧乏、中途半端などと言われて、ゲームによっては弱ジョブ扱いになるタイプである。
「蜃気楼とか、ああいう幻惑系もあるらしいぞ、狐火」
「サポート系か」
上手く使えれば強そうだ。火力以外を活用して行くタイプなのだろう。
それなら育ててもいいかなと、天狐を見る。
「どれがうちの妖狐にゃん?」
「オレの妖狐にゃんもどれだろう」
「妖狐にゃん当てクイズか?」
区別がつかないので、何か目印が欲しくなったものだ。
ダンジョンから街に戻って、椛は商店街にある喫茶店に来ていた。美味しい柿のスイーツがあるという噂を聞いたので。
1人で優雅にスイーツタイムだ。
「柿って洋菓子のイメージなかったけど、これは美味しい」
柿は生で食べるか干し柿を買って食べるくらいだったので、柿のケーキは初めて食べたと思う。
他のゲームでも柿はメジャーなフルーツではなかった気がする。
椛が噂を聞いて来たくらいなので、店内には他にもプレイヤーが来ていた。それは良いのだが、誰もかれも妖狐にゃん連れだ。
NPCたちは妖狐の正体を知らないのか、特に何も反応していない。そういえば城に棲み憑いていたが、外に顔出しなどはしていなかった。
しかし、よりによってこの街で連れ歩くとか気遣う気がなさすぎるだろう。椛が気にし過ぎなのか。
レンツで聞いたヘビーな話のせいだろうか。
奴は若者たちを操って、各部族の長たちを殺させた疑いがある。
もしかしたら若者たちが元から邪悪だった可能性もあるけども。
思い出したら、やっぱり前科持ちじゃない妖狐と契約したいなあと思えてきた。喋らなくてもいい。コンとかキュウとか鳴くだけでいい。むしろそっちのほうが可愛い。
椛が可愛い狐を夢想しながらケーキを食べていると、近くのテーブルのプレイヤーの声が聞こえて来た。興奮して声が大きくなったからだ。
「だよねえ!やっぱ勝ち組ィ!」
「ザマァ!デカい顔してたくせにさ!」
「早く戻って自慢してやらなくちゃ!」
なんの話か知らないが、美味しいケーキが台無しな気分だ。
さっさと食べて、さっさと店を出た。
この街はまだ、プレイヤーが多すぎる。
別の街に行こうかなと思う椛だった。
東の海の猿カニ合戦のために他国に行くべき!と頼闇に言い訳したら、アルヴィーナ王国は海軍の規模が小さい上にロウガイがいる、間に合ってると却下された。
帝都に行けというので全力で拒否してオーフォロ王国にやって来た。
あんな所に行ったら鬼女化したランスロット様ファンに処される。
トシュメッツ国の隣国であるオーフォロ王国の王都カドマンの冒険者組合に入ると、たいして滞在していないはずの街なのに受付嬢に名前を覚えられていた。
「…は!?指名手配された件!?」
「それは手違いだったと聞いていますよ」
「なら良いか」
どちらにしろそれで覚えられたのかもしれない。椛は納得した。
だが受付嬢が何か期待の眼差しでもじもじしていた。美女がやると可愛い。
何を期待されているのだろう…!
椛がカウンターに肘をついて頭を抱えていると、買い取り窓口のおじさんがヒントをくれた。
「あー、ほら。夜にしか咲かない、この辺りじゃ手に入りにくい」
「…そうだった!おのれ商業組合!」
「それそれ」
ここの商業組合は使わないことにしていたことも思い出せた。
椛は予定外に来たのだが、そんなにマメに換金する必要がなくて少し貯まっていた夜香花を取り出した。
アンセムに行くとズッ友に会いに行くので、たいていいくつかはアイテムポーチに入っているだけだ。
「少ししかないけど」
「いえ!1本でもありがたいので!ギルマスに報告して来ますね!」
また研究所コースらしい。
この街に来る時に持っていなかったら、どれほどがっかりされることか。
「…わたし、忘れっぽいんです…」
「まあ、期待し過ぎだよな。あとで注意しておく」
「前回も売り忘れただけだった…」
でも、東の海の怪物退治の話をするには良い相手かもしれない。
椛はただ「頼んだよ」「でも駄目でした」と言い訳したいだけだったから。
王立薬学研究所に来ると、ここでも椛のことを覚えていて歓迎された。買い取り価格も最初に前回と同じで良いと言ったので、交渉する時間もかからなかった。
対応してくれたのも前回と同じ研究員だった。
「他にも何人か持ち込んでくれて、とても助かっています。いくつあっても足りないですからね」
検証クランのことだろうか。他のプレイヤーかもしれない。
他で売るより儲かるので、こちらに来る予定があれば立ち寄って金策する者いるだろう。
「ひとつだけ聞きたいんですが」
椛はそれはともかくと頼闇への義理を果たした。
「ヤマト国への海路に怪物が出るんですよ。それで船が止まっている訳で」
「ああ、その話は知ってます」
「相手はカニの魔物で、大きな船を見つけると出て来るらしいんですよね。この国に協力してもらえるのかなとか、帝国あたりじゃないと駄目かなとか」
研究所の職員は「なるほど」と少し考えた。
「この国には海軍がありますが、元から小さな国で海軍の規模もさほどではないですから、厳しいでしょうね。帝国も魔法大国も陸軍が主力で海軍は規模が小さいと言うでしょうが、我が国より強いでしょう…」
「あっち大国すぎるから…」
海洋大国と比べたら劣るだろうが、西の国に頼む訳にも行かない。
それならやはり二大国のどちらかだろう。
「でも両方に頼むとケンカが始まる奴ですね」
「でしょうねえ」
隣の国だからアルヴィーナ王国のほうがいいんじゃないかな!と椛は思う。
手伝ってくれない可能性もあるが。
「…アルヴィーナ王国は、駄目だと思いますよ」
「何故!?」
心を読まれたようなタイミングだったが、単にアルヴィーナ王国の王とその一派が原因だった。
「あの国の現王は利のないことはしませんし、先読みもしない気がします。先行投資とか」
「暗愚で無能で侍っているのは太鼓持ちってヴィスタの人が言ってましたねえ…」
「ハハハ」
職員さんの笑い声が硬い。
ちょっと言い過ぎたようだ。
しかし帝国に行くなら他の人に任せる。
椛は行かない。絶対にだ!
と、心に誓ったのだった。




