155プレイ目 アンセム
レンツからグルタの街まで移動して、椛は転移プレートでゼロイスにやって来た。ここからアンセムまで騎獣で移動するのだが。
「建物が生えてる…」
数日前はなかった建物が建っていた。
組合広場を挟んで東と西に向かい合っているのは商業組合と冒険者組合だ。
周囲にまだ何もないので、通りから見るよりずっと大きな建物なのが分かる。
イベント中なので寄り道はしたくなかったが、気になってしまうので疑問は解消して行くことにした。
テントもなかった商業組合は知り合いがいないだろうと、冒険者組合に向かう。近くで見ても他の街と同じ外観で、中も同じ造りである。
ただ職員が少ないのでガランとしていた。
「こんにちは!どうやって建物を生やしたの!?」
「あれ、知らない?建物玉って言って、他の街で建てたものを運んで来ただけだよ」
「魔法玉の親戚…?」
どこの街で作っても、その建物玉で自分の土地に好きな建物を建てられるそうだ。
そういうシステムだったのか、とお金がなくて調べていなかった椛は感心した。
「神殿や領主館は大きいからまだ時間がかかるだろうけど、役所は近いうちに出来るんじゃないかな」
「ちょっと街らしくなって来たね」
「店も増えてくれたら良いねえ」
「うーん、西の大陸に行けるぜヒャッハーって旅に出てるからなあ…」
「西との交易が再開したのは良いことだけどね」
プレイヤーがここに集まるには、まだ時間がかかりそのだった。
そろそろ建物の値段も調べ始めようかなと思ったりしつつ、椛はアンセムに到着した。
今度は寄り道せずに神殿に直行した。
「あ、神官様!聖女様じゃないとヤバそうなブツをちょっと預かって来てしまったというか」
「何を持ち込んだんですか!?」
「なんか誰の目にもヤバそうなオーラが出ていて」
神官に怒られたが、すぐに聖女様を呼んでくれた。
聖女様も厳しい顔をしていたが、数人の神官と一緒に入口からほど近い小部屋に連れて来られた。
「ここは伝染性の病や呪いを受けた方を一時的に隔離する結界のある部屋です。この中なら大丈夫でしょう」
「なるほど」
閉じ込めるというより、自主的に入る場所のようだ。症状によって相応しい場所へ移すまでの緊急避難場所ということだろう。
椛は部屋に入って、出しますと宣言してからアイテムポーチの中に入れていた物を床に出した。やっぱりヤバいオーラが出ている。
「これは…」
聖女様が驚き、神官たちは「なんですかコレ」と混乱している。見たこともなかったようだ。
「大丈夫ですよ。これは以前ヤマト国で見た、妖気でしょう」
「あの、妖怪という幻獣みたいなものが持っているという…?」
「幻獣と似てはいても、妖怪は質が悪いと言うのかしら…魔物のような良くない力を持っているの」
幻獣は善良だが妖怪は性悪、みたいな存在らしい。妖気も魔物に近いので、確かに良くないものではあるそうだ。
でも一般的な妖怪はこんな酷い妖気は漂わせていない。ですよね、と椛は納得した。
「この漬物石に見える物は、殺生石のカケラです」
「…待って、殺生石は九尾の…ヤマト国で管理しているはずよ」
「ひとつはトシュメッツ国が預かって守り続けていたそうです」
そういえば、と椛は聖女様に例の本を渡す。
「まるで自画自賛する自伝のようだと話題の本で、トシュメッツ国の首相が書いたそうですよ」
「…これ、自伝…まさか」
ぱらぱらと本に目を通した聖女様も、漬物石…もとい殺生石へ再び目を移して表情を険しくする。
「何が起きているのですか」
椛は今のところ分かっていることと、レンツで見聞きしたことなど、そしてハイレオン帝国やアルヴィーナ王国に相談してあることを伝えた。
イベントの進行はこれでいいはずだ。たぶん。
検証クランのクランマスターであるシラベがアンセムにいるので、報告がてら相談した。
掲示板で周知する内容も考えてもらう。
「どのくらい説明するべきか…殺生石って聞いたら九尾の妖狐と契約するキーアイテムだって都合良く考えて、余計に喚くよね」
「ですよねー」
「リアルの伝承をモチーフにしてるみたいだし、調べたら分かるだろうし」
自分で調べるほど賢いかな…と思ってしまったが、他の誰かが調べた話を聞きかじって喚くのは得意そうだ。
「でも一気に進んだね」
「ヤマト国で侍になりたい人と、カレーライスが食べたい派とラーメンに半炒飯派と麻婆豆腐派と…」
「雑談スレ民ばっかりか!」
多分そう、と椛も思っていた。
フレンドが良くネタにしているから見るようになった者もいるだろうけど。
「みんな西の大陸に向かったのにね」
「ボクも行こうかと思ったんだけど、こっちも気になって…案の定イベントが進んでるし」
「あ、イベントじゃないけど」
椛はふと思い出して、ゼロイスの組合のこと、建物玉のことを話した。
シラベは建物玉のことは知っていたが、さすがにゼロイスの変化は初耳だったらしい。転移プレートがないと行く用事のない場所だから。
「うーん、フラグが立ったからかな。1年以上もかかるなんて遅いと思ってたんだ」
「それもそうだね。最初から用意してたはずだし」
「西の大陸解禁がフラグっぽいけど、確証はないからなあ」
街の発展も攻略の進み具合で変わるのかもしれない。
良く忘れるけど貢献度とか。
「貢献度の累計とか?レイド戦でも増えたっぽいし」
「ああ、参加者はみんな貰えたね」
参加人数分が増えたのだ。累計も大きく増加しただろう。
「街造りって大変だね」
「そうだ、転移プレートは闘技場以外で入手できるようにならないかな」
「カジノ」
「闘技場より無理だよ?」
闘技場は参加していればポイントが貯まって行くが、カジノは負けるとコツコツ貯めたものが一瞬で消えるのだ。
よほどの豪運の持ち主以外はあんなところに夢は見ないそうだ。
それもそうだと納得した椛だった。
アンセムに来たのならここは外せない、と焼き芋屋の屋台を探した。今日は営業日だったので、いつも通り「おじさん、50本!」と注文した。
「そういえば、ヤマト国にはかつて黄金のさつま芋があったらしいよ。絶滅したけど」
「中身が黄金なのか?皮か?」
「…皮が黄金」
その発想はなかった。割ったら黄金の中身が出て来るイメージだった。
普通のさつま芋も黄金に輝いている気がするし。
「ヤマト国って言えば、黄金色の菓子の話があったな」
「美味しいの?」
「賄賂の金貨?だかの話だよ」
「袖の下か…」
食べられないお菓子である。
ヤマト国の人は黄金が好きなのかもしれない。
焼き芋を食べながら、金閣寺や黄金の茶室などを思い出した。学校で習ったような、動画か何かで見たような。
日本人も黄金が好きそうだ。
椛は大判小判は食べられる物が良い。
大判焼きの話だ。
「スイートポテトは上に何か塗って、黄金に輝かせるよね。スイートポテトも食べたい」
「あれも美味いよな。オレは菓子は作れないけど」
納入している店で時々買って帰るそうだ。
聞けば椛もたまに買いに行く店である。また行こうと思った。
そうしてのんびり過ごして、トシュメッツ国に戻りたくないなあと思う椛だった。
ツヤ出し用の卵黄の話です




