154プレイ目 レンツ
「何から話そうかの」
廃墟と化しているレンツにいた老人のゴーストが、少し遠い目をしながら言った。
椛以外のクラメンたちは結界の外だが、会話には参加していた。
椛は『妖艶なる絶世の美女の栄華〜最強で偉大な九尾の妖狐』という例の本を取り出す。
「今のこの国の首都で、こういう本を見つけたんだよね。首相が書いたって噂の」
「酷い題名じゃのう」
「城も景観に合わない派手な建物だったし」
「城か…王様気取りじゃな…」
この国に王などいなかった。
各部族の長が会議をして国を動かしていた。
だから城など必要がなかった。
「革命が起こって、この国が変わって、この国の人も変わった。他の国でトシュメッツの商人の評判が悪いんだよ」
「そうか…革命のあとのことは、ここに居ては分からんからな」
この老人が知っているのは生前のことだけだった。しかし椛たちには情報が少なすぎるので昔話でもありがたい。
「革命が起きた日も、突然のことだった。外に憧れる若者がいたのは知っておったが、外で冒険者になることを止める者はいなかったからな。修行のつもりで旅に出る者もいた」
老人は背を向けて、思い出を辿るように広場とその向こうの建物を眺めていた。
「ここで定例会議を開く夜だった。若い衆が武器を振りかぶり、我ら族長を次々に殺し始めたのじゃ。何が起きたか分からんかった。混乱が起きて、少し死んでいる間に全てが終わったらしくての。気付いたら何もかも終わっておって、誰もいなくなっておった。それからずっと、誰も来なくなった」
思ったよりヘビーな話なので、椛たちは返事に詰まる。革命という話は聞いていたが、そこまで血生臭い展開は予想外だった。
全年齢対象なのに大丈夫?と思ってしまう。残酷すぎる展開は制限をかけられそうだ。
いや、《七つの災厄》関連の話は非道さを強調する内容になっているのだろうか。
「こっちに来てくれんか。渡したい物がある」
「結界の中にある物って事は、なんか重要なアイテム…?」
「結界の中に入れないと渡せないって話か」
「うむ、個人で持つには重い物じゃよ」
老人はそう言いながら廃墟のひとつを示した。
結界に入れなかったプレイヤーたちには渡す方法がないので、帰れとしか言わなかったのだろう。ゴーストなので実体がなく、半透明な姿をしている。
「そこにある。近付けば分かるじゃろ」
椛が近付くと、クラメンたちが「うおっ!?」「なんか出た!」と声を上げた。
見れば黒ずくめの男たちが10人ほど現われていた。ちょっと忍者っぽい。
「「やはりここにあったのじゃ!寄越せ寄越せ寄越せぇ!!」」
「何あれ…」
「コレを欲しがるモノなら、正体はアレじゃろうな」
「アレじゃ分からん」
「結界の中は安全かよ!」
「なんだよ、こいつら!」
どこからか湧いた敵が襲いかかって来たが、結界の中には入れなかった。椛とゴースト爺さんは高みの見物をしてしまったが、クラメンたちが応戦している。
思ったより強くなかったので、余計に暢気に見物をしてしまった。
椛が加勢する間もなく、勝てないと悟ったのか逃げて行った。
「なんだったんだ、アレ…」
「重要アイテムの奪取に来た精鋭って面しておいて、弱すぎんだろ」
「そなたらが強かっただけに見えたがのう…」
ゴースト爺さんはお世辞というつもりではなさそうだが、椛たちはそれぞれ勝てない相手を思い浮かべて「上を見上げるとキリがない…」「危険度Bすらクリアできない…」と嘆いてしまった。
でもバトルが苦手なプレイヤーたちなら、イベントで戦う敵が強すぎても困るのだろう。
そんな調整が入っていたのかもしれない。
それはともかく、椛は廃墟の中を改めて覗いて訴えた。
「奴らが狙ってたモノから、なんかやばいオーラが出てるんだけど。見た目は漬物石なのに!」
「漬物を作ったらヤバそう」
「腹壊しそう」
「その程度で済むかのう…」
老人の評価が1番怖い。
瓦礫を少しどかしたら現われたのは、触るのも憚られる石だった。目に見えて変なオーラが出ているし。
確かに近付けば分かる怪しさだった。
「それは九尾の妖狐が最期に変化して身を守ったとされる、殺生石じゃ。九つに割ったうちのひとつじゃがな」
「え?つまりこれが九尾の妖狐の成れの果て…?」
伝説の幻獣、《七つの災厄》と呼ばれた大妖怪が今では漬物石…諸行無常である。
「じゃあメルツの城にいるのは何なんだ」
「ジェネリック妖狐」
「便利だな、ジェネリック」
「妖怪だし、割れても復活できたんじゃないのか、他の漬物石から」
「まだ漬物石は他に8個あるな!7個に減ったのか?」
「漬物石を集めるジェネリック妖狐」
「シュール」
椛たちが考えるとすぐにおかしな方向に行ってしまう。そういうのは検証クランにでも任せたい。
「さっきの連中も必死に求めてたな、漬物石を…」
「なんてすごい漬物石なんだ」
「かつてヤマト国から預けられ、千年に渡って守り続けた物なんじゃがなあ…」
さすがに老人に謝った。九尾の妖狐が復活しないように封じ続けて来たそうだ。
「ヤマト国のトシュメッツに対する信頼がすごい」
「ヤマト国の人、トシュメッツ国が大好きだな」
「ところでそれ、どうするんだ?」
「一目見て思ったんだ。助けて聖女様!って」
「この時代には聖女様がいらっしゃるのか!それは安心じゃな!」
老人の喜びように、ベストな答えだったんだなと思った。
思えば椛が《神殺しの塔》の装備を手に入れたのも、聖女様のクエストが理由だった。
「そういえば昔はこの結界をくぐり抜けるためのアイテムが、各部族にあったの?」
「今もあると思いたいが、どうなったかのう…」
正規ルートはそのアイテムを手に入れるか、関係者をここまで連れて来ることだったのか。
どう考えても椛の場合はアナザールートだろう。
「…それで、この呪われそうな漬物石、アイテムポーチに入れて大丈夫…?」
「大丈夫じゃ、たぶん」
「そこは絶対って断言しておいて!」
椛は触りたくもないが、クラメンたちに「呪い耐性が1番高いだろ!」ともっともな事を言われたので、渋々と引き受けた。
「聖女様、なんて言うかな…」
「どこから説明したら良いんだろうな」
「やはりつまらない自伝っぽいアレから始める必要があるのかな…」
説明する前に怒られそうだが、椛は悪い事などしていないはずだ。
そして今さら、この場所にある他のプレイヤーのテントの存在を思い出した。
「あっちでテント張ってる人たち、どんな人たちだった?」
「話が通じない連中じゃよ。帰れと言っておるのに結界を叩いて攻撃まで加え始めて、ここにイベントのヒントがあるんだろうとかなんとか…」
あるのは殺生石だけなのに、とゴースト爺さんが嘆いている。
椛たちはアイコンタクトを交わして、老人に告げた。
「わたしたちは北に去ったことにしておいて!」
「人相は覚えてないってトボケておいてくれ!」
「必ず聖女様に届けるからな、そいつが!」
「まあ、分からんでもないから惚けておくがな…そもそも殺生石の名前も教えたくないから、帰れとしか言う気はないよ」
イベントが他のプレイヤーに横取りされたと怒り狂うだろうが、進行したことも知らなければ時間稼ぎにはなるだろう。
帝都にも「横取りされた!」と探し回る連中がいたらしいし、同一人物たちの可能性もある。
全力で逃げたほうが良さそうだった。
先にカナーラント王国のシナリオを進めていれば椛以外のプレイヤーも神聖な武器防具を入手できていたのですが、トシュメッツ国の集落を訪ねるルートも間違いではないです




