153プレイ目 キリトアからレンツ
拙作を紹介していただいた『今日の一冊』を閲覧できるのは2月24日14:00頃までのようです
キリトアの街でダンジョン周回をしていた椛たちと違って、イベントを進めようと調べて回っていたプレイヤーたちもいた。
その中の誰かが次の手がかりを発見したそうだ。
ダンジョンのボス部屋の手前のセーフティエリアでMPの回復などを含めて休憩を取っていた椛たちは、頼闇からチャットが来たので知った。
「頼闇はトシュメッツ国にいたんだ」
「ヤマト国と唯一交易船が出てる港街だっけ」
マップを確認するとグルタとある。椛はまだ行ったことがない。
「来てって言われてもなあ」
「この街もダンジョンも特にこだわりないからいいけど、移動が面倒…」
「だよね」
それ以外に理由はないので、ちょっと相談して「わかった」と返事をした。そんな理由で断ったの!?と怒らせたい訳ではないので。
むしろ友情が終わる言い草である。
「帝都は寄る?一応進捗を尋ねる?」
「こっちに話が来るとは思えないけど、任せた形だからなあ」
「まあ、トシュメッツ国に行くって伝言くらいしたほうがいいんじゃないか?」
NPCの好感度を考えた結論だ。
細かい気配りは大事である。
「…白熊を1頭献上しておこう」
「昨日の余ってたもんな」
白熊はレア枠だが街の近くの平原で捕まえることが出来る。初日に捕まえて煮込み料理にしてもらえたのも、街に入る前に周辺で採取したり伐採していたら捕まっていたからだ。
なのでダンジョンの近くの高レベルのフィールドと街の周辺に罠を仕掛けるようにしていた。いつもは全て売ってしまう椛だが、白熊は大きいので余ってそうだなと控えてみただけだ。
決してランスロットへ献上するために残したのではない。
そんなことはともかく、イベントはどう進んだのか頼闇に聞いてみた。
[昔はトシュメッツの各部族の長が集まって会議をしていたっていう場所へ行ったらしいのよ。そこに老人のゴーストがいたの]
[無限湧きする?]
[話のできるイベントNPCよ。でも結界が張られていて中に入れなくて、老人も帰れとしか言わないんですって!何が足りないのかしら]
ホラーはやめて!の人が泣きそうだな、誰だか知らないけど。
などと思った椛だが、クラメンたちは「倒せないゴーストか」と興味を失っている。
「心霊スポットもゴーストは倒せるのに」
「あ、それすぐ忘れて全然やってない!」
「オレも…」
忘れきっていたのは椛とタグだけだった。たまに忘れるけどさ、と呆れられたものだ。
「とりあえずランスロット様に追加情報を投げて逃げよう」
「伝言なら逃げられるよな」
本人に直接伝える気はなかった。
ランスロットはいなかったのに、白熊を出したらガラハドが出て来て「好物なんだよ!」と喜んでいた。
熊のような大男の好物が白熊、という情報はともかく、トシュメッツ国に行くことと新情報を伝えようとしたら騎士団の兵舎に連行されていた。
しかもランスロットの執務室。
「伝言で済む程度の話しかないのに…!」
「親切のつもりなんだよ。白熊はガラハドの大好物だから」
みなさんでどうぞ、と差し出したら目当てと違うキャラが釣れた。
乙女ゲーなどでたまに生じる現象だ。
乙女ゲーならリセットできるのに、と椛は遠い目をしつつランスロットに報告した。
「トシュメッツ国の昔の中心地なら、レンツかな。元から会議の間しか使わない集落だったから、革命のあとは廃墟になってそのままだったはずだ」
「ご老人はどこかの部族の長だった方でしょうかね」
「何か話が聴けるといいね」
ランスロットは九尾の妖狐の件は真偽を議論しているだけで、進展がないことは教えてくれた。これもイベントのフラグが足りないということだろう。
退室して、騎士団の外の通りまで出た。
ガラハドがめっちゃ笑顔で手を振っている。
「恐るべし、大好物効果…!」
「全てのNPCに設定されているのか…?」
「検証クランが泣く」
「鬼女が目の色を変える」
知らないことにして、ガラハドに手を振り返してから大通りのほうに向かった。
「バレないと思ってもスクショなんて撮れなかったな。執務室」
「ああ、八百万乙女が知りたがるだろう執務室のヴィジュアルか」
「なんで八百万なんだ?」
「やおよろず…無限って意味さ…」
ランスロットだけは怒らせてはいけない気がする。
ガラハドは撮らせてと言ったら許可してくれそうなのに、この差。
あとランスロットのファンにもバレないうちに、帝都を出たいものである。
帝国からオーフォロ王国を経由して、まずトシュメッツ国の首都メルツに到着した。
「何度見ても派手な城だな」
「これも一目で分かるフラグだったのかな」
「今見ればそうだよな」
新しい街とはいえ、城の派手さだけ浮いている。趣味が悪い訳ではないがとにかく派手で、貧しいほうの小国という設定とかけ離れていた。
「あ、ここの光と闇のボス周回をし損ねたんだった」
「こっちを拠点にしてもいいなあ」
「頼闇が港で待ってるよ」
目的の廃墟レンツは、首都と港街との中間あたりにある。
山道なのでマップで見るより時間がかかるから、テントを張ってどこかでログアウトしながら進むことになる。
テントを張れるセーフティエリアはあちこちにあるが、街の宿屋に馴れた身には違和感があった。
「うーん、マップに載らない村がたくさんあるのかな。首都が出来る前って、港街以外に大きな街がなかったのでは?」
「他はマップにないな」
小さい町や村はNPCから教わるか、現地に行かないとマップに登録されない。大きな街は最初から載っているのだが。
「村で伝承とか聞いて回る系…?」
「検証クランが好きそう」
「だよな」
そういうことにしておいて、一応は冒険者組合でグルタに向かうと報告してから出発した。
どうせテント休憩をするのだから、今日の活動時間の長さは気にせずに移動することにしたのだった。
グルタの街まで街道は整備されているものの、荒れた山道ばかりが続いた。
騎獣は軽快に走ってくれるが、景色が楽しくない。
「あんまり草木もないねえ」
「首都に行く道も同じだろ」
「いや、アルヴィーナから入る街道は途中まで緑が多かったし、山道の上のほうから見下ろす下界は絶景だから」
「そうだった」
360度景色がつまらないのである。飽きるのも仕方がない。
ここを1人で行くのは、愛狼たちがいても辛かっただろうなと思いながら進んだ。時々小さな花の群生地が申し訳程度にあるが、彩りというには控えめだった。
途中でテントを張って休んで、マップで見たより遠いと愚痴をこぼしつつも、2日目にレンツに着いた。ログアウト予定時間まであまり残っていないが、個人の都合で設定した予定なのでちょっとくらいオーバーしても睡眠時間が数十分減るだけの話だ。
「本当に廃墟だ」
「テントがあるから、発掘現場みたいな雰囲気だな」
「考古学者が出て来そう」
もちろんテントはプレイヤーたちのものなので、考古学者はいなかった。プレイヤーたちはログアウトしているのだろう、騒いだところで誰も現われない。
「結界って向こうかな。何も見えないけど」
「パントマイムができる奴だな」
「道化師連れて来いよ」
「あいつ呪いを投げつけて来るだろ」
通常運転の会話を交わして、元から人が住んでいなかったというだけあって建物のあとも少ない場所に入る。
中央に広場があり、その回りにいくつか大きめの建物がある。
「あれか。各部族ごとの建物」
「ここに集まった代表たちが休むための建物ってところだろうな」
会議をしていた特別な建物、という感じの場所はない。広場で青空会議だったのだろうかと思うくらいだ。
だがその広場周辺が結界で囲まれて入れなかった。
椛以外。
「何故!?」
「なんかフラグ立てたんじゃねえの?」
「何やったんだよ」
「身に覚えがない!」
騒いでいたら、噂の老人のゴーストが現われた。椛を見て驚いた顔をしていた。
「わ、わたしは無実だ!」
「何の犯人なんだよ」
「さっさと罪を告白しちまえって」
「懺悔の時間だぞ」
好き勝手言う連中に怒っていると、老人がタネ明かしをしてくれた。
「神聖な力を感じる。その武器とリボンの力だろうな」
無実!と言っていいのかな…とクラメンたちと顔を見合わせたのだった。




