147プレイ目 ブロムからアンセム
ブローゼスト王国の西の海で怪物を見つけたのは、攻略組のメンバーたちだった。12人でクランを作っているが、普段はパーティ単位で活動しているそうだ。
レベル70を越えたあたりで格上と戦うのがきつくなって来て、思うようにレベルが上がらなくなったので、再びシナリオ攻略をしようと思ったそうだ。
どんな遊び方をしようと自由だが、ハロウィンイベントは椛ですらお菓子が余ったくらい簡単だったので、すぐにどうでも良くなったのも分かる。交換品は趣味の限定アイテムしかなかったし。
それで王都で聞き込みをして、鬼女の件はさっぱり分からなかったので、西の海の怪物は漁師たちが見たという噂を思い出して、漁船に乗って探しに行った。
「その漁師が脅された、怖かった、怪物まで出て来たと訴えていてな」
「な!?ちゃんと報酬は払った!」
「金を押し付けて乗せろって言ったの?相手が代金を提示して来たの?」
前者だったのか、沈黙が返事だった。
「脅したつもりがなかったとしても、それは脅しよ」
頼闇もため息をついている。
そもそも鬼女の話の聞き込みも、王都の住民全てを虱潰しに聞いて回っていたらしい。
帝都の6人も似た事をしていたがフレンドではないそうだ。
「例えば市内で事件が起きたとして、目撃者でも現場の近くに住んでいる訳でも、ましてや事件の関係者と知り合いでもない無関係の人を虱潰しに聞いて回る人間とか、どう思うって話だよね。空き巣の下見か詐欺師か何かに見える」
「怪しいな。でも鬼女は王都の住民の全てが関係者じゃないのか、ある意味」
「衛兵さんが聞き込みするのと、余所者の冒険者が聞いて回るのも全然意味が違うよ」
鬼女の件を建前にして何か探っているようにも見える。
だから嗅ぎまわっていると評されたのだろう。
「帝都の6人もそうだったけど、同じ事を繰り返し尋ねるのが『作業』になってて、態度が悪かったとかない?」
「またハズレかよって、ロクに礼も言わなかったとかか?」
「今回は関係ない話なんだから、その辺りにしておきなさいよ」
確かに今回は西の海の怪物の話で呼ばれたので、椛は鬼女の件のほうが気になるが引き下がった。
漁師を脅した件がどういう処分を受けるのかも椛たちには関係ないので、レイド戦の話に進む。
「急行したところ、海軍でも目標を発見できた。あれは我が国としても倒したい相手だ。冒険者たちにも参加を要請するだろう」
「その時は駆けつけますわ」
「き、鬼女が暴れないのならば…アンセムの件でさらに発狂しそう…!」
「海上までは追って来ないはずだ、たぶん」
だといいな、という話である。
椛は髪型と服は一応変えようと思う。ほぼ意味がなくても。
そのあとも12人のうかつ発言の意味を聞かれたりしたが、だいたい伝わったようで椛たちは会議から解放された。
「しばらく帝国に行こう、そうしよう」
「まあ、転移プレートで戻れるものね」
「遅れて参加し損ねたら笑う」
「なんだと秘境ハンターめ!」
騎士団の兵舎を出て、椛が周囲を窺っていると美少女がキラッキラの笑顔で駆けて来た。侍女ではなく、侍従たちが「姫様ー!」と追いかけていた。
「聞いたわ聞いたわ!伝説の幻獣ミーティアまで見つけたんですってね!見たいわ見たいわ!」
「姫様は鬼女化の呪いを受けてなかった…!」
「お母様も無事よ!」
王妃と第二王女は無事らしい。
騎士たちも本当に良かったとばかりにうなづいていたものだ。
「じゃ、じゃあちょっとだけ」
向こうのほうに鬼女たちがいるが、騎士たちが守ってくれているから大丈夫だろう。許可を取って月詠を召喚した。
「みゅ?」
「ふ、ふわあぁ、可愛いぃ」
美少女に褒められて月詠はドヤっている。騎士や侍従たちも「図鑑で見るより可愛い」と注目していた。
「な、撫でてもいいかしら?」
「大丈夫ですよ、ね、月詠」
「みゅう!」
いきなり飛びつく連中と違うので、月詠もドンと来いと応じていた。
しばし美少女と愛玩動物の心温まる交流を見て、椛はチラチラと鬼女たちを窺って、王女が去るまで付き合った。
「美少女…美少女…!」
「頼闇、出禁にされるから堪えて…」
「だって聞いてた以上に美少女なのよ!可愛いと可愛いが可愛いことしてて可愛いいぃ」
可愛いがゲシュタルト崩壊している頼闇を引きずって城を出た。騎士たちも褒めているだけの頼闇のことは見逃してくれたものだ。
アウトな発言をしなくて本当に良かった。
黙っていたクラメンたちも、クランチャットで「噂以上!」「正統派美少女!」「美幼女でも通じる狭間の美!」「スクショが止まらん」「バレるなよ」「あとで交換会だよな」と大盛り上がりだった。
鬼女に怯えていた椛は怒って良いのではないだろうか。
でも可愛いスクショで許してやったのだった。
神殿の転移門まで騎士たちが同行してくれたので、椛は無事にアンセムの街に戻って来た。
他のメンバーも各々の街に戻って行った。
椛は転移門の間から不審者のように周囲を窺って歩いたが、神官たちに聞いたら鬼女は生まれなかったらしい。
ジークは神殿で先に挨拶をしていたそうで、押し寄せた娘たちにはブローゼスト王国の騎士だと説明も終わっていた。
「そもそも鬼女とはなんですか」
「失礼でしょう」
「でもブローゼスト王国の騎士たちだって、冒険者組合のギルマスだって、鬼女で通じるし!人間に戻す方法があるなら知りたいって!」
すでに誰も疑問にも思わず鬼女と呼んでいる。一度でも見れば否定しなくなるくらいだ。
という話を神殿の入口近くでしていたら、聖女様が「まさか」と青い顔で現われた。
「どうなさいました!?」
「ご気分が優れないのでは」
「いいえ、似た話を少し思い出して…いいえ、勘違いだと思うわ」
治し方が分かる!?と思ったが、聖女様は否定した。
「だってもしそうだとしたら…治す手段などないもの…」
それは、確かに考えにくい。メタ的にだが。
大都市の女たちが数万人だかそれ以上だかが鬼女化しているのだ。
いくらなんでも治せないのは酷い。
「でも恋に狂うと言いますし、南国の女性は情熱的だと聞くわ」
「そういう話だったら、現地の人たちは笑って流したと思います…」
「そう、そうよね…」
椛もそういう話なら良かったのにな、と思ったのだった。
神殿にシラベがいたので、ブローゼスト王国でのことを教えてやった。
まず最初に「美少女のスクショ下さい」と言っていたが、他のクラメンに頼めと言っておいた。
椛にそんな余裕はなかった。
「うん、分かった。西の海の怪物戦が近いうちに起きるんだね。冒険者の募集も始まる予定、と」
「主力はブローゼスト王国の海軍だろうから、大丈夫だと思うよ」
レベル上げをサボっていた連中だって参加くらいはできるだろう。役に立つなんて思ってはいけない。
「でも他のクランが呼ばれるくらい酷かったのか…他の国でも怪しまれてるって噂だったけど、君たちのクランが有名なのはブローゼスト王国内だけだよね」
「闘技場以外でクラン活動とかしてないし」
名乗った覚えもない。冒険者カードには載っているが、気にするNPCはいなかっただろう。
ついでに椛は鬼女のせいで闘技場では憐れまれているだけだ。全然参加できなくなって。
「二陣のほうも気になるところだし」
「向こうで何かあったの?」
「こっちの情報を使ってイベントを次々に起こしてる連中がいるらしいから。みんな中途半端だから、たいした影響は出てないけど」
「ああ、今回もか」
「勝てるならいいし、船に乗る条件は生産職のこともあるから別に高くはないけどね」
海の騎獣と契約できるのはレベル50である。
「レベル50までは海で上げる方法が有名だし、その先も分かってるから先行プレイヤーだけがやらかしそうだよね」
「あ、他の人たち騎獣がなくて参加もできないのか」
「運営、分かってて観察してる気がする」
「陰謀論か」
運営の考えていることは分からないが、あまりユーザーフレンドリーではない。多少イベントがマシになったくらいだろうか。
「…なんでこのゲーム、サ終しないで続いてるの?」
「だって元々大作ゲームじゃないし、期待値が低いし、その割に作りはいいから」
「そっかー」
椛は召喚獣などの仲間が可愛いとかバトルの難易度が高くてそこが楽しい、などの理由が浮かぶ。危険度Sはアホじゃねえのと思うけど。
「レベルキャップは遠いし、レアドロ狙いで周回する必要もほぼないし、宿代くらいを稼いでおけば、ただ街でだらだらしてるだけでも楽しいし」
「それは分かる」
「召喚獣が可愛いし、推せるNPCも多いし」
これは『異世界生活シミュレーション』なので、好きに遊んでいればRPGのメインストーリーを進めるような手間もない。
進めないと解放されない要素も特にない。
いや、西の大陸やヤマト国にはイベントが進まないと行けないが、他のプレイヤーがやってくれるのを待つだけの人もいるだろう。
生産職なら特にバトルには参加しなくても良いのだし。
「だらだらと止め時が分からないタイプなんだ…」
「惰性か」
他にも理由はあるだろうが、2人で話していて思いつくのはそのくらいだった。他のプレイヤーが続けている理由は知らない。
そしてこのゲームがいつまで続くのかも、一介のプレイヤーには知り得ないことだった。




