144プレイ目 アンセム
各属性の耐性100%装備が揃った所で、椛はロウガイと別れてアンセムの街に戻って来た。
ボス周回もしたかったが、メルツの街にプレイヤーが増えて居心地が悪くなったし、ロウガイはヴィスタに戻りたいようだった。
雷鳴平原のダンジョンに通うフレンドもいるので、そちらに合流するそうだ。
ちなみにアンセムには丁度良いレベルと危険度の水属性特化のダンジョンがあった。
水属性は無効アクセサリーがあるので行っていなかったし、ボス素材集めに行きたいところだ。
椛も素材を集めて耐性装備を作っている他のメンバーと予定が合えば、一緒にボス周回するのもいいなと思った。召喚獣だけ連れて基本ソロで遊ぶ派だが、気の合う相手とパーティを組むのもMMOの醍醐味だ。
いや、あの悪趣味な老害ショタジジイと気が合ってたのわたし…?
と数カ月も一緒に遊んでいた椛は気付いてしまった。なんだかんだで楽しく遊んでいたことを。
「同類だったとでも…!?」
「え、今さら?」
「利害の一致でしかなかったのに!」
アンセムで会ったシラベについ愚痴ったが、同類扱いだった。きっとお土産の九尾の妖狐の本のせいだ。
あれは適当なことを言っていただけなのに、何故かイベントに発展してしまった。ロウガイと悪ノリした自覚はある。
神殿前広場の近くのアップルパイの美味しいお店で、久しぶりにアップルパイを食べながら話している所だ。
「うわ、本当に酷い。あらすじで読む気失せる」
「ヤマト国の美味しい食べ物の思い出だけは興味深かったよ」
「聞いたら、名前は知らないけど絶滅した最高の芋の話はあったらしいよ」
「…なんで絶滅させた、運営!?」
シラベは「復活させるイベントがあるといいね」とドライな反応だった。
椛が最高の焼き芋を神官に届けるランダムクエストの件を伝えると、ちょっとだけ「復活イベントありそう」と興味を示したが。
「あと四代目の動画を見て、ようやく主の森を占拠してた連中がいなくなってタイミング良かったね」
「ああ、あれは分かりやすかったね」
椛はミュートで見ただけだが、気付いて振り向いたミーティアが怯えた顔をして、そして恐ろしいものが近付いて来るとばかりに走って逃げ出し、そのまま消えてしまうのだ。幻獣界に逃げ込んだらしい。
自覚のないアホでも、周囲を見たら理解できただろう。こいつらがいたら、たとえミーティアが現われても逃げられると。
自分は大丈夫と根拠のない自信は持っている気はするけど。
「住民たちが夜香花の採取の邪魔されて怒ってたから、本当良かったよ」
「…ああ、怒るよね」
「商業組合に売ってはいたから数は確保できてはいたようだけどね」
自分たちで採取すればタダなのに買う羽目になったのなら、それは怒る。関係改善クエストが発生しなかったのかなと思ったが、赤の他人なので知りようがなかった。
「あとアイドル様の新作、もう少し早く欲しかった」
「何故!?」
「怯えるミーティアの姿が脳裏にこびり付いて消えない!って悲鳴がね…」
「だって逃げられた人に追い打ちかける気がしてさ…」
少し間を置いただけである。
しかしまだ契約していない大多数が、もしかして自分もあんなふうに逃げられるのでは、と被害妄想を広げてしまったらしい。
分からなくはない。
「あ、でもうちのアイドル様にジェネリック鬼女、じゃなくて、なんだっけ、あいつら」
「裁縫師の?」
「そう、そいつらの話をしたら怯えてたから、キャーとか言いながら囲んで揉みくちゃにしようとする連中は嫌いっぽいよ」
「…それを掲示板で言わない理性はあったんだー」
「忘れてただけな気もするけどね」
椛はそんな気遣いをした覚えはなかった。今さら言う気もないが、ちょっと思い出しただけである。
「この間も、きっとブラフと思いながら、七不思議に銀狼の話が増えてたってネタを書き込むのを黙認したし…」
「…あれの犯人!?」
「やったのはショタジジイだし、守衛さんが話してくれたのは事実だよ」
「確かに聞いたらそのネタ出て来たって聞いたけど!」
嘘ではないが、銀狼に繋がるイベントだとは思えない。あくまで七不思議イベントのほうだろう。
シラベもそう感じたらしいが、無邪気に銀狼と契約できるイベントが見つかったと信じて王都ヴィスタにプレイヤーが集まっているらしい。
「九尾の妖狐と契約できるとか言い出した奴が真の戦犯だと思います」
「なんでそんな都合のいい解釈ができたんだろう…」
前例がある(気のせい)と思ってしまったのが原因だろう。伝説の幻獣のミーティアは見つかって、契約できることが証明されていたし。
「時期が最悪だった」
「そこを狙ったショタジジイと気が合う自分を見つめ直したら?」
ぐうの音も出ない椛だった。
椛が神殿でちょっと懺悔したい、と言ったら内容は何も言ってないのに神官たちに説教された。解せぬ。
でもお土産を渡したら許された。現金すぎる。
「また珍しい苗を見つけて来てくれたのですね」
「山葡萄はワインにするって聞いたから迷ったけど、干し葡萄とかもイケるかなって」
「ワインは無理だけど、それなら美味しくいただけそうですね」
買った食材に採取した物、そして買ったり伐採した苗セットだ。まだ神殿では畑の拡張をしているらしいので。
そこから苗が他の農家にも広まっている気がする。
「そうだ、椛さんのお友達のシラベさん。とても勉強熱心ですね」
「あれは好奇心旺盛な知りたがりなだけな気がする…」
「確かに好奇心旺盛ですよね」
「でもあんなふうに聞かれると、説明しがいがありますよ」
「子供たちも触発されて質問が増えましたし」
シラベは好意的に受け入れられているらしい。椛との扱いの差が解せぬ。
そんな話を神殿の入口近くでしていたら、知らないプレイヤーが突然奇声を上げて襲いかかって来た。
避けると神官たちに被害が及ぶので、椛はつい蹴り飛ばしてしまった。
このゲームはPKなどはできないし、設定で他のプレイヤーとの接触を不可能にすることも出来るが、触れなくても暴漢を撃退することは可能だ。
分厚い空気の壁ごとブッ飛ばせばいいだけだし、システム的なダメージは入らない。
ただ突き飛ばされたら転ぶ。それと同じである。
「…誰?」
「初めて見る方ですよ」
「あら、主の森に居座っていた移住者じゃないでしょうか…」
「ああ、あの…」
神官の1人の気付きに、全員が不快さを示した。これは関係改善クエストが生じていそうである。
そして椛も気付く。
ミーティア関係の何かだろう。うまく行かないからと他人に八つ当たりをするのはやめて欲しい。
「衛兵さんに任せたほうがいいッスかね。また襲って来そうだし」
「そうですね、今呼んで来ましょう」
話にならないだろうし、いきなり襲って来るやつと話す気も起きない。喚かれるだけである。
今も起き上がったと思えば、何か喚いて再び襲いかかって来た。カウンターで投げ飛ばして、立ち上がれないように背中を足で踏みつけてやった。
ちなみに相手は男のアバターなので、女性になんてことを!と勘違い系が湧く心配はない。
少し待てば衛兵が2人現われて、暴漢を連行してくれた。当分ブタ箱に入れておいて欲しいものだ。
「何を言っていたのでしょうか」
「嘘つきとかちいと?とか言ってましたけど」
「知らないやつだし、意味分かんないッス」
椛以外は伝説の幻獣と契約できていないせいか、チート扱いしたのだろう。もふもふさんの場合はまた話が違うようだし。
主の森に出たという情報も嘘だと決めつけたのかもしれない。無駄に通い続けて全く現われなかったから。
だが同じところに出ると勝手に思い込んで、勝手に無駄な時間を使ったのだ。全て自分で決めたことだろう。
思い通りに行かないからと喚いて暴れて、他のプレイヤーに迷惑をかける。
そうだ、通報に値するね!と気付いたので運営に通報しておいた。
どんな対応をされるのかは、知ったことではなかった。
他のゲームだと『伝説の○○』や『世界にひとつしかない△△』などを入手できるイベントが(プレイヤー全員に)あったりするので、絶対にないとは言えないかもしれない




